話題のSF映画「オデッセイ」を観ました。
 巨匠リドリー・スコットとマット・デイモンが初めてタッグを組んだ、火星を舞台にした不屈のサバイバル・ストーリーです。TOHOシネマズ・スカラ座で3D鑑賞したのですが、さすがに火星の映像はリアルで迫力満点でした。

 ヤフー映画の「解説」には以下のように書かれています。
 
「『グラディエーター』などのリドリー・スコットがメガホンを取り、『ボーン』シリーズなどのマット・デイモンが火星に取り残された宇宙飛行士を演じるSFアドベンチャー。火星で死亡したと思われた宇宙飛行士が実は生きていることが発覚、主人公の必死のサバイバルと彼を助けようとするNASAや乗組員たちの奮闘が描かれる。共演は、『ゼロ・ダーク・サーティ』などのジェシカ・チャステインや『LIFE!/ライフ』などのクリステン・ウィグなど。スコット監督による壮大なビジュアルや感動的なストーリーに注目」

 また、ヤフー映画の「あらすじ」には以下のように書かれています。

「火星での有人探査中に嵐に巻き込まれた宇宙飛行士のマーク・ワトニー(マット・デイモン)。乗組員はワトニーが死亡したと思い、火星を去るが、彼は生きていた。空気も水も通信手段もなく、わずかな食料しかない危機的状況で、ワトニーは生き延びようとする。一方、NASAは世界中から科学者を結集し救出を企て、仲間たちもまた大胆な救出ミッションを敢行しようとしていた」

 さて、この映画を観た正直な感想を言うと、今イチでした。
 火星や宇宙空間の映像は素晴らしかったのですが、シリアスな設定のはずの本作がゴールデン・グローブ賞ではコメディ/ミュージカル部門に分類されたことからもわかるように、全篇に散りばめられた脱力系のギャグと選曲センス最悪の音楽には閉口しましたね。「アルマゲドン」を連想させるご都合主義も感じました。そういえば、ネガティブ芸人の栗原類が「『アルマゲドン』で感動する人ってちょっと・・・」とテレビで発言していましたね(笑)。 あと、上映時間が長過ぎて、途中で退屈して寝てしまいました。

 とにかく、この映画の主人公であるマーク・ワトニーが置かれた状況は絶望的なものでした。地球から2億2530万キロ離れた火星に独りぼっちで、以下のようにあらゆる現実が〈生存不可能〉を示していました。
・外気温:-55℃
・酸素:ほとんど無し(空気成分 0.13%)
・水:無し
・通信手段:無し
・最大風速:400km/h
・食料:31日分
・NASAの次の探索ミッションまで:4年
それでも、ワトニーはけっして地球に帰ることをあきらめませんでした。

 「オデッセイ」は究極のサバイバル・ストーリーです。主人公のワトニーは、達成可能性が限りなくゼロに近い絶望的なサバイバルに挑戦するのです。ここで彼が最大の武器としたものは科学の知識でした。もともと植物学者であったワトニーは自身の排泄物を利用して火星でジャガイモの栽培に成功します。また、水素燃料から水を作ったり、プルトニウムを使ってローバーの機動力をアップしたりする場面には感心しました。高校の頃、けっこう苦手だった生物や化学や物理の知識はサバイバルに使えるということがよくわかりました。では、哲学・芸術・宗教などを研究するリベラルアーツ系の学問は宇宙空間でどれだけ役に立つのか。そんなことも考えました。

 科学知識といえば、アメリカからビッグ・ニュースが届きました。カリフォルニア工科大とマサチューセッツ工科大などの共同研究チームが、宇宙から届く「重力波」を世界で初めて検出したと11日(日本時間12日)に発表したのです。アインシュタインが100年前に存在を予言しましたが、確認には至らなかった現象です。今回の発見は、相対性理論を裏付ける歴史的な快挙だそうです。また、宇宙誕生の謎を解く「ゆがみ」も解明される可能性も高く、新たな天文学や物理学に道を開くことになりそうです。ちなみに、ノーベル賞の受賞は確実だとか。自然科学の進歩って、やっぱり凄いですね!

 宇宙空間における絶望的な状況から地球に帰還するというストーリーは、 ブログ「ゼロ・グラビティ」で紹介した映画もそうでした。この映画の舞台は、地表から600キロメートルも離れた宇宙です。女性メディカルエンジニアのライアン・ストーン博士(サンドラ・ブロック)とベテラン宇宙飛行士マット・コワルスキー(ジョージ・クルーニー)の2人は、ミッションを遂行していました。するとミサイルで爆破されたロシアの人工衛星の破片が飛来するという想定外の事態が起こります。その結果、ライアンやマットの搭乗していたスペースシャトルが大破し、他の乗組員は全員死亡。2人は1本のロープでつながれたまま漆黒の重力空間へと放り出されてしまいます。地球に戻る交通手段であったスペースシャトルを失ったばかりか、ヒューストンとの交信も断たれ、さらには残された酸素も2時間分しかありません。このような絶望的な状況で、2人は懸命に生還する方法を探っていくのでした。

 さて、この映画の舞台は火星です。 アメリカのバラク・オバマ大統領が「2030年代半ばまでに火星への有人着陸を目指す」と宣言して以来、火星探検は夢物語ではなくなりました。実際の火星研究はSF小説や映画に近づく勢いで進んでいます。

 「オデッセイ」の公開を記念して「SF映画の格好の舞台である」という特集を組んだ「DVD&ブルーレイでーた」2月号では、火星研究の第一人者である東京大学の宮本英昭准教授が「ホントに人類は火星に到達できるのか?」という質問に対し、「技術的には行けます。今火星で活動してる無人探査機は約1tの重さがあります。そんな車を既に火星に降ろしていて、2030年くらいには採取したサンプルを持ち帰るミッションをやろうとしている。それが成功すれば、運ぶ重量や容量を増やすことで人間だって火星に行ける。ただ、友人探査をするには安全性を考えるとすごい費用がかかるから現状では実現していないんです」と答えています。
 つまり、経済的な問題さえクリアすれば、人類は火星に行けるのです! 

「DVD&ブルーレイでーた」2月号では「火星MOVIEクロニクル」として、これまでのSF映画における火星描写を紹介しています。取り上げられている作品は、「フラッシュ・ゴードン・シリーズ」(1936~38)、「火星超特急」(51)、「宇宙戦争」(53)、「凸凹火星探検」(53)、「宇宙征服」(55)、「恐怖の火星探検」(58)、「巨大アメーバの惑星」(59)、「カプリコン・1」(77)、「火星年代記」(79)、「トータル・リコール」(90)、「ミッション・トゥ・マーズ」(2000)、「レッド・プラネット」(00)、「ゴースト・オブ・マーズ」(01)、「DOOM/ドゥーム」(05)、「ジョン・カーター」(12)、「ラスト・デイズ・オン・マーズ」(13)、「テラフォーマーズ」(16)です。

 日本の人気コミックを原作とするハリウッド映画「テラフォーマーズ」は今年4月29日(金)に公開が予定されている作品で、日本の山下智久が出演していることで話題を呼んでいます。しかし、こうして並べてみると、ずいぶん多くの火星を舞台としたSF映画が作られてきたのですね。
 でも、わたしにとっては、やはり火星よりも月のほうに惹かれます。
 
 月といえば、「オデッセイ」を観ながら、ブログ「月に囚われた男」で紹介した2010年のSF映画を連想しました。デヴィッド・ボウイの息子ダンカン・ジョーンズが初監督に挑んだこの作品は、地球に必要不可欠なエネルギー源を採掘するため月の基地に滞在中の男が次々と奇妙な出来事に遭遇するSFスリラーです。「オデッセイ」よりもずっとシリアスなテイストで、ストーリーもまったく違うのですが、宇宙空間の孤独を描いている点で両作品は共通しています。わたしは、火星に残されるよりも、月に囚われたい!

 孤独といえば、この映画で最も違和感を覚えたのは、たった1人で火星に取り残されたワトニーがあまりにも冷静で、その精神状態がきわめて正常だったことです。ふつう、こんな極限状況に置かれれば、精神に変調をきたしたり、自殺を考えたりするのではないでしょうか。くだんの宮本英昭准教授も違和感を覚えられたようで、以下のように述べています。

「彼はひとりきりで、過酷な状態が長期間続くわけです。彼の性格からして短期間であれば成立するかもしれませんが、単純に時間が長くなればなるほど、ボディブローのように肉体と精神への疲労は蓄積されていくはずです。どんなにタフでもそんな孤独な状況で極地でトラブルに見舞われたら、絶望から気持ちが折れます。ところが彼の場合は全くブレない。もっとやさぐれてしかるべきですよ(笑)」

 「オデッセイ」には人類愛といったものが描かれています。ワトニーが死亡したとばかり思っていた仲間のクルーたちが、彼の生存を知り、NASAの意向に反してまでワトニーの地球帰還を助けようとするのです。また、地球上の多くの人々(スクリーンに登場したのは、なぜかアメリカ・中国・イギリスの国民だけでしたが)も彼の無事な生還を心より願っていました。
 「オデッセイ」予告編の冒頭には、以下の言葉が流れます。

「人間には互いに助け合うという本能がある。ハイカーが遭難すれば捜索隊が組織され、街が地震に襲われれば世界中から緊急物資が届く。この本能はどの文化圏でも例外なく見られる・・・・・・」

 わたしは、『隣人の時代』(三五館)で「助け合いは人類の本能だ!」と訴えたことを思い出しました。ケニアで発見された約150万年前の類人猿の遺跡には、互いに食べ物を分かち合い、助け合って暮らした痕跡が見られます。他にもさまざまな状況証拠を重ね合わせてみると、人間はこれまで思われてきたように対立や競争に明け暮れてきたわけではなくて、むしろ相互扶助の精神で進化してきたように思えます。まさに、「人間には互いに助け合うという本能がある」のです!

 さて、3Dで鑑賞した「オデッセイ」の映像は迫力満点で素晴らしかったのですが、ストーリーがあまりにもシンプルでちょっと拍子抜けしました。じつは、「オデッセイ(Odessay)」というタイトルを最初に知ったとき、わたしは「2001年宇宙の旅(2001:A Space Odessay)」のような深みのある宇宙映画を期待していたのです。しかし残念ながら、1968年にスタンリー・キューブリックによって製作されたSF映画史上に燦然と輝く名作「2001年宇宙の旅」のような深みを感じることはありませんでした。

 「オデッセイ」に登場する宇宙船ヘルメスの外観あるいは船内の描写などは「2001年宇宙の旅」を連想させましたが、キューブリックがヨハン・シュトラウス2世の名曲「美しき青きドナウ」を使ったような場面で、この映画は安っぽい昔のディスコ・ミュージックを流すのです。「オデッセイ」では、ワトニーが女船長に対して「あなたの選曲センスは最悪ですね」と言い放つ場面があるのですが、とにかく、この作品の映画音楽は史上ワーストクラスだと思います。リドリー・スコットよ、一体どうしたんだ?!

 わたしは15歳、中学3年生のときに「2001年宇宙の旅」を小倉の映画館で観ました。もう魂が震えるほど感動しました。あの映画を超えるSF映画は未だに存在しません。「バク転神道ソングライター」こと宗教哲学者の鎌田東二先生も「2001年宇宙の旅」の信奉者として知られます。鎌田先生は、公式HPの「プロフィール」に以下のように書かれています。

「17歳の終わる頃、銀座のテアトル東京で、スタンリー・キューブリック監督の映画『2001年宇宙の旅』を見て、心の底から感動した。これまでこれほど深く感動した映画はない。それはわたしが子どもの頃からくりかえし見ていた宇宙の夢をまったく違う観点から解き明かしてくれたからだ。澄みきった瞳を見ひらいたスターチャイルドが、水の惑星に向かって宇宙空間を漂ってゆくラストシーンを見た時、わたしたちはみんなこの星に『スペース・オデッセイ』をしてきた旅人なのだ、ということをはっきりと自覚した。そして、月から地球と太陽を見るアングルのファーストシーンで、この水の惑星である青い地球こそが聖地であると直観した」

 「2001年宇宙の旅」をはじめとして、わたしはこれまでに多くの宇宙を舞台とした映画を観てきました。宇宙映画を観るたびに想うのですが、宇宙の大きさを想像すれば、人間の存在が小さく見えてきて、死ぬことが怖くなくなるのではないでしょうか。来月、わたしは『死ぬまでにやっておきたい50のこと』(イーストプレス)という本を上梓するのですが、死ぬまでにやっておきたい50番目のことに「宇宙の広大さに思いを馳せる」を選びました。
 地球の衛星である月よりも水星や火星や金星は大きく、さらに地球は大きい。その地球よりも土星は大きく、それよりも木星ははるかに大きい。その木星も太陽に比べれば小さなものですが、その太陽がゴマ粒に感じられるぐらい大きな星が宇宙にはゴロゴロしているのです。

 YouTubeには、いろんな星の大きさを比較していく動画があります。
 初めて観たときは、言葉にならないほどの大きな衝撃を受けました。
 アルクトゥルス(うしかい座)は太陽よりもはるかに大きく、ベテルギウス(オリオン座)とアンタレス(さそり座)はさらに大きい。観測された銀河系の恒星のうち、最も明るい超巨星がピストル星です。「ガーネットスター」とも呼ばれるVVCepheiは有名な赤色超巨星です。そして現在までに人類が確認した中で最も大きい星は、おおいぬ座のVYです。その直系は推定25億から30億kmで、太陽の約2000倍、地球の約29万倍の大きさというから凄いですね。なんだか、仏教の空間論をイメージしてしまいます。たとえば、地獄の最下層である阿鼻地獄は「無間地獄」とも呼ばれます。わたしたちの住むこの世界からそこまで落ちるのは自由落下で、なんと2000年もかかる距離です。秒速を9・8/mとして計算すると、約6・1億kmになります。まさに想像を絶するスケールです。本当に仏教的世界観のスケールの巨大さには圧倒されます。

 仏教といえば、わたしは、明日から天竺に行きます。
 仏教が生まれたインドで、ブッダの足跡を辿ります。デリーなどの大都市ではなく、主に仏教遺跡などのある地方都市を回るのです。ネット環境が良くないことはもちろん、衛生状態にも極力気をつけなければなりません。ましてや、今のインドはジカ熱が流行しているそうです。
 母や妻や会社のみんなも、なんだか心配そうにしています。はっきり言って、これまでのわたしが行った旅の中で最も過酷なものとなるでしょう。なにしろ、わたしが行く国は、あの天竺なのですから。かつて、天竺行きといえば宇宙旅行のようなものだったのです!
 それでも、わたしは必ず帰国するつもりです。11日の朝、北九州から東京へ向かうスターフライヤーの機内から見えた見事な富士山を見ながら、わたしは「必ず、日本に帰ってくる!」と心に誓いました。ネタバレになるので、ワトニーが火星から無事に帰還できたかどうかは書きませんが、果たしてわたしはインドから帰還できるでしょうか?

  • 販売元:20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
  • 発売日:2016/11/25
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