No.0236
日本映画「クリーピー 偽りの隣人」を観ました。
ブログ「貞子vs伽椰子」で紹介した映画と同じく、18日に公開されたばかりの作品です。どちらも、いわゆるホラー映画ですが、その種類は違います。
「貞子vs伽椰子」は心霊ホラーですが、こちらはサイコ・ホラーです。
日常が非合理な理由によって壊れていく恐怖がよく描かれていました。
ヤフー映画の「解説」には以下のように書かれています。
「『アカルイミライ』などの黒沢清監督がメガホンを取り、第15回日本ミステリー文学大賞新人賞に輝いた前川裕の小説を映画化。隣人に抱いた疑念をきっかけに、とある夫婦の平穏な日常が悪夢になっていく恐怖を描く。黒沢監督とは『LOFT ロフト』に続いて4度目のタッグとなる西島秀俊が主演を務め、彼の妻を竹内結子が好演。そのほか川口春奈、東出昌大、香川照之ら豪華キャストが集結している」
また、ヤフー映画の「あらすじ」には以下のように書かれています。
「刑事から犯罪心理学者に転身した高倉(西島秀俊)はある日、以前の同僚野上(東出昌大)から6年前の一家失踪事件の分析を頼まれる。だが、たった一人の生存者である長女の早紀(川口春奈)の記憶の糸をたぐっても、依然事件の真相は謎に包まれていた。一方、高倉が妻(竹内結子)と一緒に転居した先の隣人は、どこか捉えどころがなく・・・・・・」
タイトルの「クリーピー」とは、「ゾッとするさま」「ゾクゾクするさま」「身の毛がよだつさま」などを表す形容動詞です。しかし、わたしは「クリーピー」という言葉に反応してこの映画を観たのではなりません。そうではなく、「偽りの隣人」の「隣人」という言葉に反応しました。わが社では、孤独な高齢者の方々を中心に、一人でも多くの地縁者を紹介する「隣人祭り」という食事会などを開催するお手伝いをしています。また、地域密着型小規模ローコストの高齢者専用賃貸住宅「隣人館」を展開しています。このように、わが社を象徴するキーワードの1つが「隣人」なのです
さらに、わたしには『隣人の時代』(三五館)という著書もあります。そのように「隣人」という言葉に思い入れのあるわたしですが、「隣人」が必ずしも良い意味でばかり使われているわけではないことは知っています。ネットで「隣人」という語で検索すると、必ず「トラブル」とか「騒音」といった検索ワードが出てきますし、ついには「殺人」といった検索ワードまで登場します。
なので、「隣人」のイメージが悪くなる映画が公開されるのは困ったもの。 ましてや、21日(火)発売の「サンデー毎日」に連載中の「人生の四季」、および同日にアップされる「NIKKEI STYLE」に連載中の「人生の修め方」にはわたしの「隣人祭り」についてのコラムが掲載されるのであります。 オー・マイ・ゴッド! なんという、バッド・タイミング!
「隣人祭り」のサポート活動が軌道に乗り、『隣人の時代』を上梓した頃、わたしが自宅近くの北九州市小倉北区上富野の周辺を歩いていたら、市民センターに「隣人にご注意!」というポスターが貼られていました。わたしは、てっきり隣人の孤独死を防止しようといった趣旨であると思い、「おお、北九州もようやく隣人都市になったか!」と感激したことがあります。
それでポスターの文言をよく読んでみたら、隣人が「オレオレ詐欺」などの犯罪行為に関わっているかもしれないので、何か気づいたことがあれば警察に通報するようにという内容で、「ギャフン!」となりました。
「隣人」のキーワードに反応した以外にも、この映画を観た理由があります。それは、監督が黒沢清だったからです。わたしは黒沢清の映画が大好きで、これまで全作品を観ています。彼は、かの黒澤明監督と並んで「世界のクロサワ」と呼ばれています。カンヌ・ベネチア、ベルリンなど数々の国際映画祭で賞を受賞し、海外から高い評価を得ているからです。第61回カンヌ国際映画祭において、「ある視点部門」審査委員(JURY賞)を受賞した「トウキョウソナタ」などの芸術性の高い作品もありますが、彼の名声を高めたのは何といっても一連のディープなホラー映画です。
「CURE」(1997年)から始まって、「カリスマ」(1999年)、「回路」(2000年)、「降霊」(2001年)、「ドッペルゲンガー」(2003年)、「LOFT」(2006年)、「叫」(2007年)といった、人間の深層心理に刃物を突きつけ、始原の感情である恐怖を鷲掴みにして取り出すような作品を作ってきました。これら一連の作品ですが、西島秀俊が出演した「LOFT」以外はすべて役所広司が主演しています。わたしはDVDを購入して、これらの作品を何度となく観返しています。
黒沢作品の中でも特に、わたしは「降霊」を最高評価しています。ブログ「雨の日、霊を求めて」にも書きましたが、「降霊」は日本映画史上で最も怖い映画であると思っています。その黒沢清監督の最新作である「クリーピー 偽りの隣人」はいわゆるホラーというよりはスリラー色が強い作品ですが、それでも人間心理の最深部を探り、意識の迷宮をさまよう物語といった設定は「CURE」以来のテーマに明らかにつながっています。
さて、「クリーピー 偽りの隣人」を観て、連想した日本映画があります。
ブログ「園子音の世界」で紹介した「冷たい熱帯魚」です。2011年の作品ですが、ものすごい内容でした。第67回ヴェネチア国際映画祭、第35回トロント国際映画祭にも出品され、世界で絶賛されました。一言でいうと、スプラッタームービーを超えた血みどろの犯罪映画です。クエンティン・タランティーノや北野武の作品も連想させますが、彼らの世界をも突き抜けた、もう手加減なしの猛毒エンターテインメントと言えるでしょう。殺害した死体を切り刻むシーンなど、この作品が映画史上最もリアルではないでしょうか。
園監督の映画は実在の事件をもとにし作られることが多いですが、「冷たい熱帯魚」も「埼玉愛犬家連続殺人事件」をモチーフにしていました。
個人的には、「北九州監禁殺人事件」を取り上げてくれないかと思っています。これは日本の犯罪史上に残る凶悪な猟奇事件ですが、わたしは、ぜひ園監督に映画化してほしいと思っていました。
ところが、「クリーピー 偽りの隣人」を観て、わたしは「この映画、じつは北九州監禁殺人事件をモチーフにしているのではないか?」と思ってしまいました。ネタバレになるのを避けるために詳しいストーリーに言及するのは控えますが、観賞された方ならピンと来るのではないかと思います。
それにしても、香川照之の怪演ぶりは見事でした。このような恐怖を描いた映画としては、「ケープ・フィアー」(1991)が思い浮かびます「ケープ・フィアー」で主演したロバート・デ・ニーロと香川照之がわたしの中で重なりました。やはり、幽霊などよりも怖いのは狂った人間ですね。
とはいえ、この映画、単なる犯罪映画にしてはブッ飛び過ぎています。
というか、あまりも現実感がないという印象です。特に、ラストシーンなど、ありえない設定です。もしかすると、すべては誰かの夢か妄想なのかもしれません。そういえば、映画の冒頭で、西島秀俊演じる高倉は殺人犯から刺されて重傷を負います。この場面を観て、わたしはマイケル・ナイト・シャマランが監督し、ブルース・ウィルスが主演した名作「シックス・センス」の冒頭シーンを連想しました。ホラー映画史に燦然と輝く「シックス・センス」のオチを黒沢監督が知らないはずがありません。
ということは、もしかして高倉は・・・・・・。おっと、これぐらいにしておきましょう。興味がある方はぜひ映画館でご覧ください。なぜかネットでの評価は低かったですが、わたしにとっては、とても面白い映画でした。