No.0266


 今年初めて、映画館で映画を観ました。
 「僕らのごはんは明日で待ってる」という日本映画です。
 ブログ「マダム・フローレンス! 夢見るふたり」で紹介した作品以来、ちょうど1ヵ月の間、映画館に足を運んでいません。わたしは定期的に映画を観ないと生きていけない人間なので、そろそろ禁断症状が出始めたのです。

 ヤフー映画の「解説」には以下のように書かれています。

「性格の全く違うカップルが織り成す恋愛模様をつづる瀬尾まいこの小説を映画化。ひょんなことから付き合うことになった男女が、食を通じて愛を育み、やがて家族になるまでの7年間を描く。無口な主人公に『ピンクとグレー』などの中島裕翔、率直なヒロインを『風のたより』などの新木優子が演じるほか、片桐はいり、松原智恵子らが共演。メガホンを取るのは、『あの女はやめとけ』『箱入り息子の恋』などの市井昌秀」

 また、ヤフー映画の「あらすじ」には以下のように書かれています。

「無口で他人に無関心な高校生・葉山亮太(中島裕翔)は、明るく率直な同級生の上村小春(新木優子)と体育祭の競技『米袋ジャンプ』でコンビを組む。1位を獲得して亮太が喜んでいると、突然小春から告白され戸惑うものの、いつしか彼女に惹かれていく。二人は、ファストフードやファミレスで食事をしながら交際を続けるが・・・・・・」

 ここ最近観たい映画がまったくなかったのですが、禁断症状が出始めたので、ネットで作品を調べたところ、「ぼくは明日、昨日の君とデートする」と「僕らのごはんは明日で待ってる」の2本が気になりました。どちらもタイトルに「明日」がつきますが、前者は美男美女の主演でなんとなくアイドル映画の匂いがしたので、質実剛健的なイメージのある後者を選びました。
 後者に「質実剛健」な印象を持った理由は、この映画のポスターがネットで公開されていなかったからです。それで、「美男美女が主演する映画ではないのだろう」「きっと、地味な映画なのだろう」と思い込んでしまいました。

 ところが、実際はHey!Say!JUMPの中島裕翔が主演で、こちらこそ正真正銘のアイドル主演映画でした。彼がジャニーズ事務所の所属であるため、ポスターが公開されていなかったのです。しかし、いくら肖像権にうるさいジャニーズ事務所とはいえ、映画ポスターまでネットに公開させないのは行き過ぎですね。だいいち、これでは映画の宣伝にもなりません!
 でも、「僕らのごはんは明日で待ってる」は予想以上に面白く、感動する映画でした。クライマックスではトシガイもなく泣いてしまいました。今年の初泣きです。わたしが好きな松原智恵子が祖母の役になっていたのは複雑な心境でしたが、片桐はいりもナイスな演技でした。

 市井昌秀監督の作品だったのも良かったです。昨年末、GYAO!で市井監督の「箱入り息子の恋」を観たばかりでした。いま人気絶頂の星野源が映画初主演を果たしたラブストーリーです。恋愛経験のまったくない主人公の青年が目が不自由な女性と恋に落ち、めくるめく感情に心を揺さぶられながら変化していく過程を描き出した傑作でした。

 「僕らのごはんは明日で待ってる」も、「箱入り息子の恋」と同じく、主人公の青年がイケメンでないところが好感が持てます。最初は「しまった、ジャニオタ映画だったとは!」と少し後悔しながら観始めたわたしでしたが、映画が始まるとすぐに物語の中に引き込まれました。主演の2人も表情豊かで、良い演技をしていました。関係ないですけど、中島裕翔はDAIGOに、新木優子はテレビ朝日アナウンサーの上山千穂に似ていると思いましたね。 主題歌は、ケツメイシの「明日のために・・・」でした。

 瀬尾まいこの小説を原作とするこの映画が単なる青春恋愛映画に終っていないのは、ずっと「死」の気配が漂っているからです。なにしろ、冒頭からお墓のシーンが登場します。兄が高校2年生の若さで病死した亮太は、ずっと深い悲しみと喪失感を抱いたまま日々を送っていました。そして、彼はひたすら登場人物が死ぬ設定の小説を次から次に読み漁ります。それを知った小春は自宅から大量の小説を持ってきて亮太に渡すのでした。そのほとんどは、殺人事件を描いたミステリーでしたが・・・・・・。

 それらの本を読み、小春と付き合っていくうちに、亮太は少しづつ明るさを取り戻していきます。いわば、小春は亮太の悲しみを軽くする役割を果たしたわけで、「僕らのごはんは明日で待ってる」はグリーフケア映画と言えるかもしれません。高校時代、「死とは何か」という問いを胸に抱きながら本を読みまくった亮太の姿は、わたし自身の高校時代の姿に重なりました。わたしも高校時代は毎日、膨大な量の本を読んで、「死」について考えました。「死」の他にも関心のあるテーマはありました。それは「幸福」です。
 わたしは「死」よりも先に「幸福とは何か」について考えたのです。

 わたしは、「幸福」について述べたあらゆる本を読み漁りました。そして、次のように考えました。政治、経済、法律、道徳、哲学、芸術、宗教、教育、医学、自然科学...、人類が生み、育んできた営みはたくさんある。では、そういった偉大な営みが何のために存在するのかというと、その目的は「人間を幸福にするため」という一点に集約される。さらには、その人間の幸福について考えて、考えて、考え抜いた結果、その根底には「死」というものが厳然として在ることを思い知りました。

 そこで、わたしが、どうしても気になったことがありました。
 それは、日本では、人が亡くなったときに「不幸があった」と人々が言うことでした。わたしたちは、みな、必ず死にます。死なない人間はいません。いわば、わたしたちは「死」を未来として生きているわけです。その未来が「不幸」ならば、必ず敗北が待っている負け戦に出ていくようなものです。
 わたしたちの人生とは、最初から負け戦なのでしょうか。
 どんな素晴らしい生き方をしても、どんなに幸福感を感じながら生きても、最後には不幸になるのでしょうか。亡くなった人はすべて「負け組」で、生き残った人たちは「勝ち組」なのでしょうか。

 そんな馬鹿な話はありません。わたしは、「死」を「不幸」とは絶対に呼びません。そう呼んだ瞬間、わたしは将来必ず不幸になるからです。
 死はけっして不幸な出来事ではありません。そして、そのことを知るための方法の1つが読書であると思います。拙著に、『死が怖くなくなる読書』(現代書林)という本があります。あなた自身が死ぬことの「おそれ」と、あなたの愛する人が亡くなったときの「悲しみ」が少しずつ溶けて、最後には消えてゆくような本を選んだブックガイドです。

 『死が怖くなくなる読書』の続編が、『死を乗り越える映画ガイド』(現代書林)です。前作では、読書という行為によって死の「おそれ」や死別の「かなしみ」を克服することができると訴えました。今回は映画です。長い人類の歴史の中で、死ななかった人間はいませんし、愛する人を亡くした人間も無数にいます。その歴然とした事実を教えてくれる映画、「死」があるから「生」があるという真理に気づかせてくれる映画、死者の視点で発想するヒントを与えてくれる映画などを集めてみました。

 今年になって、同書についての素晴らしいブログ記事がUPされました。
 「タイムトラベルものが好き!『死を乗り越える映画ガイド あなたの死生観が変わる究極の50本』(一条真也)」という記事で、若生悠矢さんという方が書いて下さいました。「かけがえのない時間」を永遠にするという映画の本質について書かれています。タイムトラベル映画が大好きという若生さんのブログを読んでいたら、わたしも観たくなってきました。
 機会があれば、この日観ることがなかった「ぼくは明日、昨日の君とデートする」を観ようかな? まだ観ていないので内容は知りませんが、タイトルから察するに「時間を超える」映画の匂いがプンプンしますので・・・・・・。

 じつは、「僕らのごはんは明日で待ってる」は、「死」の映画ではありません。「死を乗り越える」映画、つまり「生」の映画です。病床の亮太の兄が、17歳の若さで死んでいく無念を抱きながら弟にパンを渡すシーンがあります。そして、兄は「明日はおまえが食べられなくなるかもしれないんだ。だから、食べろ、飲め。誰にでも死は訪れる」と言うのでした。「食べろ、飲め」というのは「生きろ」ということです。ブログ「この世界の片隅に」で紹介したアニメ映画の大傑作を観てから、わたしは「すべての文学もコミックも映画も、メッセージは2つでいい」と思い至りました。その2つとは「生きろ!」ということ、そして「優しくあれ!」ということです。これ以外に、大事なメッセージなど存在するでしょうか?

 最後に、この日、忙しい時間をやり繰りして映画館に足を運んだのには、映画中毒の禁断症状が起きた以外にも、大きな理由がありました。
 今年から北九州市を代表する二大シネコンである「シネプレックス小倉」と「T・ジョイリバーウォーク北九州」の全スクリーンにおいて、サンレー創立50周年記念CMが流されているからです。わたしはシネプレックス小倉を訪れたのですが、映画館の巨大スクリーンにわが社のCMが流され、最後はわたしの顔も映りました。自分の顔が映画のスクリーンに映るなんて大感激です。なんだか、本当に映画に出演したくなってきます!(笑)

  • 出版社:幻冬舎
  • 発売日:2016/02/24
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