No.0267
3日に公開された映画「ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち」を観ました。
「ティム・バートン史上、最も奇妙。」の宣伝コピーが使われていますが、「ハリウッドの魔法使い」として知られるティム・バートン監督が、世にも奇妙なこどもたちが暮らす秘密の楽園をファンタスティックに描きます。
ヤフー映画の「解説」には以下のように書かれています。
「ランサム・リグズの小説『ハヤブサが守る家』を実写化したファンタジー。奇妙な子どもたちが暮らす屋敷を訪れた少年が、彼らに迫りつつある危険と自身の秘めた宿命を知る。監督は、『アリス・イン・ワンダーランド』などのティム・バートン。『悪党に粛清を』などのエヴァ・グリーン、『エンダーのゲーム』などのエイサ・バターフィールド、『アベンジャーズ』シリーズなどのサミュエル・L・ジャクソンらが顔をそろえる」
また、ヤフー映画の「あらすじ」には以下のように書かれています。
「少年ジェイクは、現実と幻想が交錯する中で、奇妙な子どもたちが暮らす"ミス・ペレグリンの家"を見つけ出す。子どもたちが不思議な能力を持ち、ひたすら同じ一日を繰り返す理由を知る一方で、彼らに忍び寄ろうとしている危険に気付くジェイク。さらに、ミス・ペレグリンの家へと導かれた理由と自身の役割を知る。やがて、真実が明らかになるとともに、子どもたちに思わぬ変化が起こるが・・・・・・」
「ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち」は、理屈抜きに楽しめるオモチャ箱のような映画でした。ちょっと冗漫な部分、突っ込みたくなる箇所もありますが、基本的には良くできた「お伽話」です。
キャストも魅力満点で、特にミス・ペレグリンを演じたエヴァ・グリーンが美しかったです。また、空気少女エマを演じたエラ・パーネルも輝いていました。この2人の美女の存在が映画全体を華やかなものにしています。
「ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち」はファンタジー映画なのですが、奇妙な子どもたちが暮らす施設の描写はホラー映画の雰囲気も漂わせています。わたしは、2007年のスペイン・メキシコ映画である「永遠のこどもたち」を連想しました。ダーク・ファンタジーの傑作である「パンズ・ラビリンス」の監督ギレルモ・デル・トロが製作した作品で、元孤児院の建物に引っ越してきた家族に起こる不思議な出来事を描いています。児童施設のイメージからは、わたしは浦沢直樹のコミック『モンスター』や、カズオ・イシグロの小説を映画化した「わたしを離さないで」なども連想しました。
「ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち」には多くの「奇妙なこども」が登場します。彼らはすべて普通の人間とは違った「異能者」であり、「フリークス」です。空気より軽くて鉛の靴を履いていないと宙に浮かび上がってしまう少女、植物を魔法のように育てられる少女、生命のないものに生命を与えて動かせる少年、後頭部にも口がある少女、体が透明な少年・・・・・・彼らが揃うと、そこは見世物小屋の世界そのものです。見た目は異形でない子どももいるのですが、奇妙な能力を持っています。彼らのキャラクターはファンタジー的ではあるのですが、力を合わせて敵と戦う場面は、アメコミ原作のヒーロー映画みたいでした。たとえば、超能力ユニットの活躍を描いた「ファンタスティック・フォー」みたいです。透明人間が登場するところは、「リーグ・オブ・レジェンド/時空を超えた戦い」も連想しました。
ティム・バートンは、ブログ「アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅」で紹介した映画を製作しました。同作品は、『鏡の国のアリス』をモチーフにした前作の続編で、アリスが時間の旅に出るファンタジーアドベンチャーです。帰らぬ家族をひたすら待っているマッドハッターを助けるべく、アリスが時をさかのぼり奮闘する姿を活写しています。いわば「時間を操る」というのが、「アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅」と「ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち」に共通するテーマなのですが、これはそのまま映画というメディアの本質でもあります。
拙著『死を乗り越える映画ガイド』(現代書林)のテーマは、「映画で死を乗り越える」です。じつは、わたしは映画を含む動画撮影技術が生まれた根源には人間の「不死への憧れ」があると思っています。
映画と写真という2つのメディアを比較してみましょう。写真は一般に「時間を殺す芸術」と呼ばれます。その瞬間を「封印」するという意味です。しかし映画は「時間を生け捕りにする芸術」です。かけがえのない時間をそのまま「保存」します。「時間を保存する」ということは「時間を超越する」ことにつながり、さらには「死すべき運命から自由になる」ことに通じます。写真が「死」のメディアなら、映画は「不死」のメディアなのです。だからこそ、映画の誕生以来、無数のタイムトラベル映画が作られてきたのでしょう。
たとえば、「タイムマシン 80万年後の世界へ」(1960年)、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」(1985年)、「バタフライ・エフェクト」(2004年)、「ミッドナイト・イン・パリ」(2011年)、「アバウト・タイム~愛おしい時間について~」(2013年)、「オール・ユー・ニード・イズ・キル」(2014年)といったところが、タイムトラベルあるいはタイムループを描いた名作であると思います。日本では、原田知世が主演した角川映画「時をかける少女」(1983年)を忘れることができません。これらの作品はすべてSF映画ですが、「アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅」や「ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち」はファンタジー映画です。ファンタジーで時間旅行を描いたというのは、ドイツの作家ミヒャエル・エンデの名作童話を映画化した「モモ」(1986年)が思い出されます。
『モモ』は1973年に刊行され、翌74年にドイツ児童文学賞を受賞しました。各国で翻訳されているますが、特に日本では根強い人気があり、日本での発行部数は本国ドイツに次ぎます。物語の舞台は、イタリア・ローマを思わせるとある街。「時間貯蓄銀行」と称する灰色の男たちが現われ、人々の時間を次々に盗みます。時間を盗まれた人の心からは余裕が消えてしまいます。しかし、貧しくとも友人の話に耳を傾け、その人自身をとりもどさせてくれる不思議な力を持つ少女モモが、冒険の中で奪われた時間を取り戻していくというストーリーです。86年に製作された映画にはエンデ自身が本人役で出演しています。
さて、「時間を操る」ことをテーマにした「ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち」には「ループ」という現象が登場します。ヤフー映画に、「面白いが突っ込み所も多い」という「ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち」の秀逸なレビューを書かれている「月光雀」という方がいます。月光雀さんは、以下のように「ループ」についてわかりやすく説明してくれます。
(1)ペリグリンは時間を操る能力を持ち「リセット」することで1日時間を巻き戻す事が出来る。これを「ループ」という。
(2)ループを始めたら、その時間を永遠に生きる事が可能だが、外では当然ながら時間は進み続けている。
ループの中に生きる者がそこから出て外の世界にしばらくいると「時間に追いつかれて」その分肉体が歳をとってしまう。なので「1943年」の時間軸にいるペリグリン達は、物語の設定が2016年のため、外に出たら「73年分」歳をとってしまい、死んでしまうという設定。
(3)ループを行うことが出来る能力者はペリグリンだけでは無く、世界中にいる(基本女性のみ。鳥に変身出来るのが特徴)。ループをスタートさせる年代はその人物によって違うので、世界中に様々な時間軸のループ世界が存在する。そのループ世界間の移動は可能。
(月光雀「面白いが突っ込み所も多い」より)
子どもたちはループによって、何度も何度も同じ時間を生きます。
つまり、永遠に子どものままで大人になれないわけです。
わたしは、このループから「荒れる成人式」を連想しました。
ブログ「北九州市成人式」で紹介したように、ここ数年来、北九州市の成人式は「派手すぎる」と注目を浴びてきました。その様子はテレビのワイドショーを通じて全国に流されました。金銀の羽織袴や花魁姿で傍若無人に振る舞う新成人が話題を呼びました。言うまでもなく、成人式は「こども」が「おとな」に変わる大事な儀式です。きちんと成人式をしないと、時間のループに閉じ込められて大人になれません。
逆に言えば、成人式という儀式はループを打ち破り、「こども」を「おとな」に変える魔法なのです。わたしは昨年の式典後すぐに北九州市の青少年課に連絡し、成人式の正常化への全面協力を訴え出ました。伏線として、かつて沖縄の「荒れる成人式」を、わが社の新成人が清掃活動によって変えた実績がありました。そして今年から、本社を置く北九州でも、会場周辺で取り組む「おそうじ大作戦」を開始。オリジナルデザインのゴミ袋も製作、市に寄贈しました。式典終了後、心ある若者たちは続々とゴミ袋を持って清掃を始めました。その姿を見たマスコミの取材クルーは、ど派手な連中から離れて、清掃する新成人たちの姿をカメラで追い始めたのです。わたしは、「北九州の成人式は変わる!」という確信を持ちました。なんとか、奇妙な「こども」たちを「おとな」にしたいです。
最後に、「ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち」はラストシーンが感動的でした。ネタバレにならないように気をつけて書きますが、この映画には1組の愛し合う男女が登場します。彼らは離れ離れになり、途方もなく遠大な距離を隔てられますが、最後は奇跡の再会を果たします。そのドラマティックなラストシーンは、ブログ「君の名は。」で紹介したアニメ映画を連想させてくれました。本当に、1本の映画から過去に観た多くの作品の記憶が甦ってきます。それにしても、「ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち」は、なんと今年になってから2本目の映画鑑賞です。いくら忙しいとはいえ、たまには映画館を訪れないと心が渇いてしまいますね!