No.0272


 24日に公開されたばかりの映画「ラ・ラ・ランド」を日比谷で観ました。
 アカデミー賞で作品賞他14部門でノミネートされている超話題作です。これは、アカデミー賞の史上タイ記録だとか。すごいですね!

 ヤフー映画の「解説」には以下のように書かれています。

「『セッション』などのデイミアン・チャゼルが監督と脚本を務めたラブストーリー。女優の卵とジャズピアニストの恋のてん末を、華麗な音楽とダンスで表現する。『ブルーバレンタイン』などのライアン・ゴズリングと『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』などのエマ・ストーンをはじめ、『セッション』でチャゼル監督とタッグを組んで鬼教師を怪演したJ・K・シモンズが出演。クラシカルかつロマンチックな物語にうっとりする」

 また、ヤフー映画の「あらすじ」には、以下のように書かれています。

「何度もオーディションに落ちてすっかりへこんでいた女優志望の卵ミア(エマ・ストーン)は、ピアノの音色に導かれるようにジャズバーに入る。そこでピアニストのセバスチャン(ライアン・ゴズリング)と出会うが、そのいきさつは最悪なものだった。ある日、ミアはプールサイドで不機嫌そうに1980年代のポップスを演奏をするセバスチャンと再会し......」

 この映画、正直言って、もう最高でした!
 わたしは映画の本質は「魔法」だと思っていますが、それを見事に表現してくれました。まさに、映画の中の映画です。いいね!!
 冒頭の高速道路の渋滞シーンから、もうシビレます。ブログ「マリアンヌ」で紹介した映画では、「ハリウッドの黄金時代」の再現を目指した作品ではないかと述べましたが、この映画でも同じことを感じました。これほど、往年のミュージカル映画へのリスペクトを示した作品は観たことがありません。
 「雨に唄えば」や「巴里のアメリカ人」、さらには「シェルブールの雨傘」へのオマージュ的場面も登場します。

 この映画、胸がキュンとするようなラブ・ロマンスでした。
 セバスチャンとミアが初めてデートしたのは映画館でしたが、そこでトラブルが発生し、彼らは天文台に場所を移して、キスをします。
 その場面を観て、わたしは「そう、映画館よりもロマンティックな場所といえば、天文台しかないな」と思いました。
 この映画の天文台でのラブ・シーンは映画史上に残る名場面ではないでしょうか。恋する2人にとっての最高の贈り物は、満点の星空です!

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ハートフルに遊ぶ』(東急エージェンシー)

 ちなみに、1988年に上梓したわが処女作ハートフルに遊ぶ』の中で、映画館とプラネタリウムを「ハートフルなデート・スポット」として論じています。「ハートフル」といえば、よく「ハートフル・ムービー」という表現がされます。巷で「ハートフル」の産みの親とされているわたしが断言しますが、「ラ・ラ・ランド」こそは100%のハートフル・ムービーです!

 さて、「ラ・ラ・ランド」を観終わって、わたしはある日本の歌謡曲を思い浮かべました。千昌夫の「星影のワルツ」です。意外に思われるかもしれませんが、この映画の世界観は明らかに「星影のワルツ」に通じています。そこで、わたしは映画鑑賞の夜、「東京の止まり木」こと赤坂見附のカラオケスナック「DAN」で「星影のワルツ」を歌いました。すると、数百人中で2位でした。わたしは「今夜は、千昌夫本人が歌ったのかもしれないな。いや、きっとそうに違いない」と思いました。これが、わたしの考え方です。(苦笑)

 それはともかく、この映画のラストシーンには泣けました。 かつて心から愛した恋人と別れた経験のある人ならきっとわかるでしょうが、「もし、この相手と結ばれていたら...」という想いは誰にでもあることと思います。もう1つの人生を夢想する......ライアン・ゴズリング演じるセバスチャンが最後に演奏するピアノには、そんな切ない想いが溢れています。

 やはり、この映画は「星影のワルツ」の世界です。

 この映画に出てくるセバスチャンもミアは、お互いに「夢をあきらめるな!」ということを訴えます。たとえ別れたとしても、そういう相手を一時的にでも得ることができたなら、「人生、儲けもの」だと思います。わたしは、いろいろな想いが湧いてきて、ラストシーンでは泣けて仕方がありませんでした。

 この映画、本年度のアカデミー賞の大本命だそうですが、わたしも受賞確実だと思います。映画評論家の町山智浩氏も言っていますが、この映画はハリウッドの素晴らしさを謳い上げている作品なわけですから、アカデミー賞の審査員たちも心から支持することでしょう。

 ミアを演じたエマ・ストーンのダンスも良かったです。
 彼女が途方もない豊かな才能を持ったマルチ女優だと知りました。 そして、全篇にわたって流れるジャズの音楽も本当に素晴らしい! 映画音楽がこんなに存在感を持つ映画も、久々ではないでしょうか?

 「ラ・ラ・ランド」はブログ「セッション」で紹介した映画のデイミアン・チャゼルが監督と脚本を務めています。「セッション」はものすごい傑作かつ怪作で、特にラストは凄まじい結末でした。わたしを含めた観客は、これまで映画では経験したことがないような孤高の芸術に立ち会いました。安っぽい師弟愛とか友情とか音楽への情熱など吹き飛んでしまうような圧倒的な「美」の世界であり、「狂」の境地でした。観終わると、グッタリと疲れた記憶がありますが、「ラ・ラ・ランド」はその反対で、切なさと爽やかさが残りました。

 チャゼル監督の才気には感心するばかりです。ちなみに、「セッション」は拙著『死を乗り越える映画ガイド』(現代書林)でも取り上げています。

 最後に、わたしは「セッション」を「一条さん、すごい映画ですよ。ぜひ観て下さい」と薦めてくれたある女性のことを思い出しました。彼女もミアのように夢を追っている人でしたが、もう長い間お会いしていません。そういえば、『死を乗り越える映画ガイド』を読んでくれたようで、一度、「一条さんならではの視点で書かれていて、素晴らしい映画論だと思いました」とのメールが届きました。とても嬉しかったです。映画館を出るとき、わたしは「彼女の夢は叶ったのかな?」と、懐かしく思い起こしました。今度は、わたしが薦める番です。彼女には、ぜひ「ラ・ラ・ランド」を観てほしいですね。

 ピアニスト、画家、詩人、俳優、そして起業家......すべての夢を追う人々のためにあるような映画。それが「ラ・ラ・ランド」です。

  • 販売元:ポニーキャニオン
  • 発売日:2017/08/02
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