24日に公開されたSF映画「パッセンジャー」を観ました。
 現在のハリウッドで最も旬な2人をダブル主演に迎え、極限状況に置かれた男女の愛と運命を壮大なスケールで描いています。いわば「宇宙版タイタニック」とでも呼ぶべきスペース・スペクタクル・ロマンです。

 ヤフー映画の「解説」には以下のように書かれています。

「航行中の宇宙船を舞台に、目的地到着前に目覚めてしまった男女の壮絶な運命を描くSFロマンス。宇宙空間で生き残るすべを模索する男女を、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』などのクリス・プラットと『世界にひとつのプレイブック』などのオスカー女優ジェニファー・ローレンスが演じる。『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』などのモルテン・ティルドゥムが監督を務め、『プロメテウス』などのジョン・スペイツが脚本を担当」

 また、ヤフー映画の「あらすじ」には以下のように書かれています。

「近未来、5000人を乗せた豪華宇宙船アヴァロン号が、人々の移住地に向かうべく地球を出発。到着までの120年、冬眠装置で眠る乗客のうちエンジニアのジム(クリス・プラット)と作家のオーロラ(ジェニファー・ローレンス)だけが、予定より90年も早く目覚めてしまう。絶望的な状況を打破しようとする二人は、次第に思いを寄せ合うものの、予期せぬ困難が立ちはだかり・・・・・・」

 わたしは宇宙が舞台のSF映画が大好きなので、楽しみにしていました。
 「パッセンジャー」に登場する宇宙船アヴァロン号の船内設備は、これまでのSF映画に出てくる宇宙船の中でも群を抜いて豪華でした。 宇宙船の中での孤独を描いた映画としては、ブログ「月に囚われた男」で紹介した作品があります。デヴィッド・ボウイの息子であるダンカン・ジョーンズの監督作品です。近未来、地球に必要なエネルギー玄を採掘するために月に派遣されたのは、サムというたった1人の男でした。サムと会社の契約期間は3年で、地球との直接通信は不可能です。孤独なサムの話し相手は、ガーディという1台の人工知能を持ったロボットだけです。サムは3年間の孤独ですが、「パッセンジャー」で人工冬眠から早く目覚めすぎたジムは90年もの時間を宇宙船の中で過ごさなければいけませんでした。

 それにしても、アヴァロン号は至れり尽くせりの宇宙船です。
 船内には、スポーツジムも、プールも、Wiiを立体化したようなゲームコーナーも、映画鑑賞のためのシアターも、アンドロイドのバーテンダーがいるBARもあります。たしかに自分以外に生身の人間がいないのは非常に寂しいですが、わたしならば、あとこの船に図書館、いや書斎があれば、90年でも退屈しないで過ごせるような気もします。

20090903230705.jpg
小宇宙としての「わが書斎


私のブログ「わが書斎」でご紹介したように、寓居の書斎には、わたしがこれまで読んできた、またこれから読もうとしている膨大な書物が収められています。そこはわが精神の巣であって、心の底からリラックスできる場所です。じつは、ときどき、この書斎がミニ宇宙船と化して、遥かな宇宙へと旅立つことを妄想することがあります。飲食をはじめとした生活面の心配さえなければ、毎日、宇宙空間で読書三昧できるというのは、わたしにとって立派な「天国」です。閉鎖された空間での読書ほど楽しいものはありません。

 もともと宇宙船を含む船とは1つの完成された世界です。
 ロラン・バルトは、名著『神話作用』で以下のように述べています。

「船舶の趣味は常に、完全に閉じこもること、品物を可能なかぎり多数手もとにおくこと、絶対的に限定された空間を所有することの喜びなのだ。船舶を愛好するのは、きびしく閉じこめられているのだから最上級の家を愛好することであり、あてどもない大旅行を好むことでは全くない。船は交通手段である前に居住の事実である」(篠沢秀夫訳)

20131014011949.jpg
遊びの神話』(東急エージェンシー)


 わたしも、拙著『遊びの神話』(東急エージェンシー)の中の「客船」の章に「人間は船を宇宙に変える」として書きました。じつは、かつてアニメの「宇宙戦艦ヤマト」がブームの頃(小学生でしたが)、わたしはヤマトの比ではない超スケールの宇宙船「宇宙大戦艦キング」というのを夢想して、かなり詳しい設計図を書いたことがあります。そして、巨大なわたしのキング号は、図書館はもちろん、美術館、博物館、それに水族館、植物園、動物園まで内蔵していたのです!

 バルトが『神話作用』で取り上げたSF作家ジュール・ヴェルヌは世界を収縮させ、人間で一杯にし、既知で範囲の定まった人間がその後で快適に居住できるような空間に還元しようと絶えず求めていました。そして彼は『海底二万里』のノーチラス号を描くのです。船こそはヴェルヌにとってのユートピアだったのです。伝説やフィクションに登場する船の大部分は、バルトが言うように「楽しい閉じこもり」が主題でしょう。

 ブログ「タイタニック3D」で紹介した映画には巨大な豪華客船が登場します。バルト説にならえば、まさに豪華客船とは閉じこもって遊ぶ場所なのです。タイタニック号の客室やレストランや娯楽室などは、外が海であるがゆえに本来の姿よりもずっとずっと輝く魅力的な空間であったはずです。客船に閉じこもって美味しいものを食べたり、ショーを楽しんだり、のんびり読書をしたりすることが、この上なくリッチな気分を与えてくれる秘密はここにあります。そして、タイタニック号の延長戦上に宇宙船アヴァロン号があることは明白です。

 宇宙船アヴァロン号は「楽しい閉じこもり」の場所でしたが、ジムはやはり孤独に耐えきれませんでした。そして、オーロラという女性と出会います。オーロラが目覚め、その後、彼女が自分の目覚めた本当の原因を知って苦悩する場面は、ホラー映画の古典的名作である「フランケンシュタインの花嫁」を連想させました。あの映画でも、フランケンシュタインの怪物はこの世に自分1人だけという孤独に耐えきれなかったのでした。

 閉鎖された空間に男女が2人だけでいるという状況は、官能映画の名作として知られる「流されて・・・」を連想させます。しかし、「パッセンジャー」のジムとオーロラはもっと上品でソフィスティケイトされた関係でしたが・・・・・・。2人は恋に落ちますが、悪い言い方をすれば、「猿山のサル」であり、「籠の中のつがいの鳥」といった見方もできます。

 ただ、思うのですが、「籠の中のつがいの鳥」というのも1つの「縁」ではないでしょうか。アダムとイブは、つがいの人間です。ノアの方舟には、あらゆる種類のつがいの動物が乗船しました。わたしは、恋愛や見合いに限らず、男女の出会いというのはすべては「縁」のたまものと思っています。
 わたしの好きなお笑い芸人のブルゾンちえみに「35億」というネタがあります。別れた元カレのことが忘れられないダメ・ウーマンに対して、デキるキャリア・ウーマンであるブルゾンちえみが「この地球上に男が何人いると思ってるの?」と質問した後で、「35億!」とブチかますギャグです。

 たしかに、わたしたちは35億人とまではいかなくとも、無数に近い相手の中から恋愛や結婚の対象と選んでいるわけで、まさに「浜の真砂」と言えるでしょう。ちなみに、ブルゾンちえみ以外で気に入っているお笑い芸人は、アキラ100%です。オーロラが目覚める前のジムは、アヴァロン号の船内でアキラ100%のように全裸で歩き回っていました。

 拙著『結魂論』(成甲書房)でも紹介したように、かつて古代ギリシャの哲学者プラトンは、元来が1個の球体であった男女が、離れて半球体になりつつも、元のもう半分を求めて結婚するものだという「人間球体説」を唱えました。元が1つの球であったがゆえに湧き起こる、溶け合いたい、1つになりたいという気持ちこそ、世界中の恋人たちが昔から経験してきた感情です。

 「パッセンジャー」のジムとオーロラは1個の球体に戻ったように思います。映画の終わりのほうで「眠れる森の美女」であるオーロラが物語とは逆にキスによって男性を目覚めさせるシーンが出てきますが、洒落ていました。それにしても、オーロラにような美女と2人きりで長い時間を共に過ごせるなんて、ジムはなんという幸せな男でしょうか! うらやましいぞ!

 「パッセンジャー」は、「縁」もそうですが、「運命」や「使命」というものについても考えさせてくれます。そして、何よりも「生」と「死」について考えさせてくれます。ジムとオーロラの人生には90年という時間が待っていましたが、人は誰でも限られた時間を生きています。その時間をどのように修めるか。そう、「人生の修め方」とは「時間の修め方」のことなのです。
 もうすぐ『人生の修め方』(日本経済新聞出版社)を上梓するわたしは、この秀逸なSF映画を観ながら、そんなことを考えました。