No.0279
シネスイッチ銀座で鑑賞しました。「マイ ビューティフル ガーデン」というイギリス映画です。
ヤフー映画の「解説」には以下のように書かれています。
「植物恐怖症の女性が、偏屈だが卓越した園芸家である隣人男性からガーデニングの手ほどきを受けるうちに人生が輝き始める人間ドラマ。変わり者のヒロインを、テレビシリーズ『ダウントン・アビー』などのジェシカ・ブラウン・フィンドレイ、庭いじりの好きな隣人を『イン・ザ・ベッドルーム』などのトム・ウィルキンソンが演じる。そのほか『007 スペクター』などのアンドリュー・スコット、『戦火の馬』などのジェレミー・アーヴァインらが脇を固める」
また、ヤフー映画の「あらすじ」には以下のように書かれています。
「庭付きの部屋に暮らしているベラ(ジェシカ・ブラウン・フィンドレイ)は植物が苦手なため、せっかくの庭を荒れ放題にしていた。ある日、1か月以内に庭をきれいにできないならアパートを立ち退くようにと家主から勧告されてしまう。困り果てたベラは、庭いじりの好きな隣人アルフィー(トム・ウィルキンソン)と共に、庭造りに取り組み始めるが・・・・・・」
「マイ ビューティフル ガーデン」を観終えたわたしは、「ああ、この物語は、現代の『秘密の花園』だな」と思いました。
『秘密の花園』は、イギリス生まれのアメリカの作家フランシス・ホジソン・バーネットが1909年に発表した小説です。「あらすじ」は以下の通りです。
イギリス植民地時代のインド、少女メアリーは荒涼とした屋敷の庭の中で、壁に囲まれた一角を見つけます。そこは亡き伯母が生前大切にしていた庭園でしたが、彼女の死後伯父によって閉じられていました。メアリーはひょんなことから庭園の鍵と入り口を見つけ、早速侵入します。庭園は荒れ放題でしたが、そこの植物が実は生きていることに気づいた彼女は花園を蘇らせようと決心、行動を開始します。やがて季節は春へ移り、屋敷の周りにはヒースやハリエニシダの花が咲き始めます。そしてメアリーと花園を中心に、魔法がかかったような素晴らしい出来事が起こり始めるのでした。
この作品は何度か映像化されていますが、1993年、アニエスカ・ホランド監督で映画化されました。制作総指揮はフランシス・フォード・コッポラ、メアリー役はケイト・メイバリーでした。「マイ ビューティフル ガーデン」は、明らかに現代版「秘密の花園」だと思います。
主演のジェシカ・ブラウン・フィンドレイは、ポスターやチラシなどで見るとわかるように、ものすごい美女ですよね。しかし、映画の前半部ではダサくて、野暮ったくて、だらしなくて、少しも美人ではありませんでした。それが、庭が再生するのに平行して彼女まで美しく変わっていくのです。 このあたりの演出は、じつに見事だと思いました。 また、彼女は図書館で働いているのですが、本ぼ置かれている場所や作家の名前などは知らないことはないくらいに詳しいです。これには、わたし的に大変好感を抱きました。ブログ「スプリング・ガーデン」にも書いたように、わたしは本と花をこよなく愛する人間です。そして、「書斎」と「庭園」を合わせた「書庭」こそが、わが理想の空間なのです。
トム・ウィルキンソン演じるヒロインの隣人も良かったです。
ラストはブログ「世界一キライなあなたへ」で紹介した映画の結末を連想させる、ちょっと美談過ぎる印象もありますが、口は悪いが心は優しい隣人の存在が映画に良いアクセントをつけていました。その他の登場人物もみな良い味を出しており、「マイ ビューティフル ガーデン」は、ガーデニング映画でもあり、隣人映画ででもあると思いました。
さて、わたしは『花をたのしむ』(現代書林)という本を書きました。
そう、わたしの人生には、つねに花の存在があります。
じつは、わたしの趣味はガーデニングなのです。
『花をたのしむ』(現代書林)
いま、わたしが住んでいる家は昭和5年に建てられた築80年以上の超ボロ家ですが、上海でホテル業をやっていた人が建てたらしくて、当時の日本では珍しいヴィクトリア様式の洋館です。そしてかなり広い庭がありますが、しばらく人が住んでいなかったこともあって、わたしたち家族が約20年前に引っ越して来たときは荒れ放題で見るも無残でした。
古い洋館に荒れはてた庭では、もう幽霊屋敷そのものです。いくら、わたしがゴシック・ロマンスなどの怪奇小説が好きでも、あんまりだということで、ぜひ庭をきれいにつくり直すことを決意しました。張り切って休日に庭づくりをやりはじめたのはいいものの、ものすごく大変で、すぐに後悔しました。ガーデニングというと「園芸」と訳されることが多いので静かな趣味と思われがちですが、とんでもありません。盆栽とは訳が違います。
はっきり言って、ガーデニングはホビーというよりスポーツです。わたしもスポーツジムや自宅でウェイトトレーニングをやっており力仕事にはけっこう自信がありましたが、半日も庭にいて重い岩を持ち上げて移動させたり、鍬で土を耕やしたりすると、翌日は筋肉痛になりました。でも、そのうちに荒れていた庭がだんだんイングリッシュ・ガーデンらしくなってきました。
庭園をよみがえらせるなんて、まるで『秘密の花園』ですが、実際、映画化された「秘密の花園」のDVDを観てイメージ・トレーニングしながら庭づくりに励みました。春になって紫のムスカリや白のノースポールや、黄色のラッパスイセンや、色とりどりのヒヤシンス、すみれ、その他の花々が一気に咲き出したときは「秘密の花園」の感動そのもので、もう本当に嬉しかったことをおぼえています。
そんなわけで、わが家のささやかな庭にはさまざまな花が植えられています。一年を通じてその季節ならではの花を楽しんでいますが、4月の中旬になれば、庭で一番の老木である桜が花を咲かせはじめます。わたしは、4月だけのために一年中、この厄介な桜の木に耐えているといっても過言ではありません。夏には毛虫、秋には毎日落ちてくるうっとおしい落葉の掃除にもじっと耐えているのは、この4月に開花するわずかな期間の感動のためなのです。
数日間暖かい日が続くと、またたく間に桜は満開になります。見上げると、空の青に桜の薄いピンク、その色のコントラストの見事さに時の過ぎるのも忘れて見とれてしまいます。そして、さらに美しいのは、散りゆく桜の花びらが風が吹くたびに文字通りの桜吹雪になって宙に舞うときです。くるくる舞いながら無数の花びらが落ち、やがて地面は薄いピンクのカーペットになってしまいます。
桜が散る頃、ときを同じくして、秋に球根を植えたチューリップが咲き、パンジーやリナリアやプリムラといった一年草が花壇を飾ります。
これまでの冬のモノトーンの世界からやっとカラフルな世界が出現するさまは、まるで1939年に公開された映画史上の名作「オズの魔法使い」でジュディ・ガーランド扮する少女ドロシーが愛犬トトと一緒にマンチキンランドに足を踏み入れたとたんに映画が白黒から総天然色に一変する場面を連想させます。そして、目いっぱい色のある庭に歓喜しながら、わたしは春の息吹を体じゅうで感じるのです。まさに「至福のとき」です。
そして5月になれば、バラとストロベリーキャンドルが咲きだします。
バラは虫が付きやすく厄介ですが、消毒と冬のあいだの肥料と簡単な剪定をしてやれば、意外と元気に咲き誇ります。かつて、珍しいオールドローズがはじめて咲いた日は狂喜して、庭でウクレレを弾きながらマイク真木の「バラが咲いた」を歌ったものです。
以前、わたしはリゾート・プランナーをやっていたことがあります。この世に楽園をつくろうと思って、数多くのリゾート計画に携わりました。その多くはバブル崩壊などで立ち消えになりましたが、現代人の病んだ心を癒す幸福の空間としてのリゾートは必要だと今でも思います。そして日本において、リゾート・ブームはガーデニング・ブームにその姿を変えたのだと気づきました。「どこか」に楽園を求めるのではなく、「ここに」楽園をつくるということ。わたしにとっての楽園とは、自ら作ったマイ・ガーデンなのです。
そんなガーデニング大好きなわたしにとって、「マイ ビューティフル ガーデン」は本当に楽しい映画でした。特に、4月に観ることができて良かったです。本当は14日から角川シネマ有楽町で公開されている「ターシャ・テューダー 静かな水の物語」も観たかったのですが、とても時間が取れませんでした。いつか、どこかの映画館で観たいと思っています。そうそう、夏ぐらいに「小倉昭和館」で、「マイ ビューティフル ガーデン」と「ターシャ・テューダー 静かな水の物語」の2本立て上映してくれないかな?
できれば、「ガーデニング映画祭」として、他の庭園が登場する映画も上映してほしいですね。