No.0280


 29日に公開されたばかりの日本映画「無限の住人」を観ました。昨年末に解散したSMAPのメンバーだった木村拓哉主演で、第70回カンヌ国際映画祭特別招待作品です。

 ヤフー映画の「解説」には以下のように書かれています。

「監督・三池崇史、主演・木村拓哉で、国内外で高い評価を受ける沙村広明の人気コミックを実写映画化したアクション。無為に生きる不死身の剣士・万次と、復讐のために彼を用心棒として雇った少女・凜が、壮絶な戦いに身を投じる姿が描かれる。オール京都ロケで撮影された、残酷かつ躍動感あふれる世界観の映像、三池監督の演出と木村による殺陣にも注目」

 また、ヤフー映画の「あらすじ」には以下のように書かれています。

「100人斬りの異名を持つ万次(木村拓哉)は、わなによって妹を失い、謎の老人に永遠の命を与えられる。死ぬことのできない無限の体となった今、斬られた傷は自然に治るが、剣術の腕は落ちていた。ある日、孤独な万次の前にあだ討ちを頼みたいという少女・浅野凛(杉咲花)が現れる。彼女の願いを聞き入れた万次は、凛と共に剣客集団・逸刀流の首領である天津影久(福士蒼汰)の命を狙う」

 わたしは基本的にコミックが原作になっている実写映画があまり好きではありません。コミックのアニメ化ならいいのですが、実写化だと原作と映画の世界観がどうしてもお互いに殺し合うと思うからです。実際、これまでに公開された日本を代表するコミックの名作の実写化映画のほとんどの評価は低かったです。でも、この「無限の住人」、非常に面白かったです。
 もっとも、わたしは原作コミックを読んでいませんでしたが、純粋なエンターテインメントとして存分に楽しめました。

 それにしても、すごい豪華キャストです。主演の木村拓哉をはじめ、杉咲花、福士蒼汰、市原隼人、戸田恵梨香、北村一輝、栗山千明、満島真之介、金子賢、山本陽子、市川海老蔵、田中泯、山崎努・・・・・・まさに綺羅星のように名優が並んでいますが、彼らが演じるキャラクターの濃いことといったら! こういう魅力的なキャラは原作に由るものですから、沙村広明氏のコミックの魅力が窺い知れます。

 濃いキャラばかりの中でも、やはりキムタク演じる万次の存在感の大きさはピカイチです。万次は不死身ですが、映画を観た率直な感想は「あまり強くないな」です。けっこう相手に不覚をとって斬られまくっています。不死身の体でなければ、何度も死んでいます。まあ、そういうところも緊迫感を出す一因になっているのかもしれません。

 彼の着物の背中には「万」の文字が大きく書かれています。もちろん、万次の「万」ですが、原作コミックやアニメ版では「卍」でした。映画版では「卍」を「万」に改変したわけですが、これはカンヌで上映されることを意識したのかもしれません。というのも、欧米の人々は仏教のシンボルである「卍」をナチスの「卐」と同一視することがほとんどだからです。本当は「卐」は鉤十字であり、仏教よりもキリスト教と関係の深いシンボルなのですが。

 それから、万次に次いで強烈な存在感を示していたのは市川海老蔵演じる閑馬永空でした。実生活での心労を思うと、海老蔵の見事な演技には頭が下がりますが、それ以上に彼の存在そのものが映画に花を添えていました。万次と永空の絡みを観ていて思ったのは、「やはり、キムタクと海老蔵のオーラは超弩級だ!」ということでした。

 万次と永空の対決シーンは緊迫感に満ちていました。
 その雰囲気が何かに似ていたので、しばし考えたところ、黒澤明の「椿三十郎」で実現した三船敏郎と仲代達矢が演じる侍同士の決闘シーンでした。「椿三十郎」のラストシーンは伝説となっていますが、エンターテインメント時代劇のクライマックス・シーンとしては最高だと思います。ミフネも仲代も凄い存在感でした。今のキムタクや海老蔵は、あの頃のミフネや仲代に近いオーラを放っていると思います。要するに、役者の色気、男の色気がプンプン漂っているのです。

 ミフネの話が出ましたが、「無限の住人」を観て、昔なら間違いなくミフネが万次を演じていたのではないかと思いました。そして、今回、見事に万次を演じ切ったキムタクの表情や雰囲気がミフネを彷彿とさせるものがありました。それは、かつて「椿三十郎」のリメイク作品で主演した織田裕二などよりもずっとミフネ的でした。「武士の一分」を観たときも思ったのですが、キムタクには剣士がよく似合います。これからも剣士を演じてほしいです。
 あと、TBSドラマ「A LIFE~愛しき人~」での医師役も良かったです。いつか、ミフネの代表作の1つ「赤ひげ」がリメイクされたら、ぜひキムタクに主役の医師を演じてほしいですね。

 「A LIFE~愛しき人~」といえば、キムタクが演じた主人公の沖田医師の父親役が田中泯でした。ブログ「永遠の0」で紹介した映画にヤクザの親分役で出演しているのを観てから、わたしは田中泯の大ファンになりました。
 「無限の住人」では、幕府の新番頭の吐鉤群を演じていましたが、これも渋かったです。特に、万次や天津影久(福士蒼汰)が死闘を繰り広げているのを見下ろしながら、悠々と握り飯を食うシーンが最高でした。

 この映画、女優陣も充実していますが、やはり万次の妹の町と浅野凛の二役を演じた杉咲花が光っていました。ブログ「湯を沸かすほどの熱い愛」で紹介した映画を観たときにも思ったのですが、杉咲花の演技力は本当に素晴らしいです。味の素の「Cook Do」のCMで回鍋肉を食べる少女の印象が強かった彼女ですが、いつの間にか凄い女優になっていました。

 あと、乙橘槇絵を演じた戸田恵梨香、百琳を演じた栗山千明も存在感はありましたが、できればもっと百琳の物語が観たかったですね。彼女の出番が少なすぎて、せっかく栗山千明を起用したのに勿体なかったです。タランティーノの「キル・ビル」で披露した彼女のアクション・シーンが観たかった!
 そして、何といっても驚いたのは、八尾比丘尼を演じた山本陽子。 あの大女優が、まさかこんな怪演をするとはビックリですね。

 最後に、「無限の住人」を観て思ったこと。それは、SMAPの解散直後にこのような凄い演技を見せてくれたキムタクの覚悟です。一連の解散騒動によって彼は大変なバッシングを受けました。人気ランキングのベスト1だった彼が、逆にワースト1になるという逆境を体験しました。何よりも、25年も苦楽を共にしたSMAPのメンバーたちとの不和や別れはやはり辛かったと思います。それでも、彼は何も愚痴を言わず、1人の芸能人として、俳優として、「無限の住人」で最高のパフォーマンスを見せてくれました。
 男として、プロとして、木村拓哉は立派であると思います。

  • 出版社:講談社
  • 発売日:2017/04/26
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