トム・クルーズ主演映画「ザ・マミー/呪われた砂漠の王女」を観ました。ユニバーサル・スタジオの礎を築くモンスターの世界の新たなる幕開けとなる「ダーク・ユニバース」の第一弾として話題の作品ですが、期待していたほど怖くはありませんでした。ホラー映画というよりは、アクション・アドベンチャー大作という感じでしたね。

 ヤフー映画の「解説」には以下のように書かれています。

 「1932年製作の『ミイラ再生』を新たによみがえらせたアクションアドベンチャー。エジプトの地下深くに埋められていた王女の覚醒と、それを機に始まる恐怖を活写する。監督は『トランスフォーマー』シリーズの脚本や『グランド・イリュージョン』シリーズの製作などを務めたアレックス・カーツマン。トム・クルーズやラッセル・クロウら、ハリウッドスターが出演している」

 また、ヤフー映画の「あらすじ」には以下のように書かれています。

 「中東で、古代エジプトの文字が刻まれた石棺が発見される。その発掘に居合わせたアメリカ軍関係者のニック(トム・クルーズ)は、考古学者のジェニー(アナベル・ウォーリス)らと共に調査のために石棺をイギリスに運ぶ飛行機に乗り込む。だが、フライト中に思いも寄らぬアクシデントが起きて、ニックをはじめとする軍関係者を乗せたまま輸送機はロンドン郊外に墜落し、石棺の所在もわからなくなってしまう」

 物語の発端は、古代エジプトです。
 誰よりも気高く美しい王女アマネットは、次期女王として選ばれていましたが、その約束は無惨に裏切られます。激しい怒りを抱いた彼女は闇に堕ち、生きながらにして棺に封印され、地下深くに埋められてしまいます。それから2000年の時を経て、イラクの砂漠で調査中に彼女の棺が発掘されます。憎悪を募らせたアマネットは再びこの世に目覚め、この世のすべての者たちに恐ろしい復讐を開始するのでした。

 少し前にツタンカーメン王墓の「隠し部屋」が発見され、古代エジプトが熱い注目を浴びました。古代エジプトといえば、ミイラ、ピラミッド、極彩色に彩られた壁画や巨大な石造りの神殿など、そこにはどこまでも「死」のイメージがついて回ります。古代エジプトは大いなる「死」の文化が栄えていました。わが書斎にはツタンカーメンの棺が鎮座しているように、わたしは古代エジプトに憧れています。若い頃からエジプトに行きたくてたまらず、何度も視察の計画を立てたのですが、そのたびにテロなどの事件が起きて、夢をかなえることができませんでした。せめて、エジプトが舞台の映画を観て欲求不満を解消していたのですが、その中でも「ハムナプトラ/失われた砂漠の都」(1999年)は大のお気に入りでした。その後のシリーズも全部観ています。

 「ハムナプトラ/失われた砂漠の都」はスティーブン・ソマーズ監督・脚本のアメリカ映画ですが、ミイラ映画の名作「ミイラ再生」(1932年)のリメイク作品です。「ミイラ再生」はカール・フロイント監督のユニバーサル作品で、同じくユニバーサルの「フランケンシュタイン」(1931年)で主役のモンスターを演じた名優ボリス・カーロフが主演しました。「ミイラ再生」は1959年に、英国ハマー・フィルム・プロダクションが制作した「ミイラの幽霊」(テレンス・フィッシャー監督)でリメイクされており、「ハムナプトラ/失われた砂漠の都」が2度目のリメイク、さらに今回の「ザ・マミー/呪われた砂漠の王女」は3度目のリメイクとなります。それぞれ「リメイク」作品というよりも、新しく生まれ変わった「リブート」作品と言ったほうがいいかもしれませんね。

 ただし残念だったのは、「ハムナプトラ/失われた砂漠の都」と違って、「ザ・マミー/呪われた砂漠の王女」はイギリスのロンドンやイラクが舞台で、肝心のエジプトが登場しなかったことです。よって、ピラミッドも登場しませんでした。最近の国際情勢では、エジプト・ロケは難しかったのか?
 それとも、観光化された現在のエジプトでは絵にならないのか? そのあたりをアレックス・カーツマン監督に聞いてみたいですね。

 「ザ・マミー/呪われた砂漠の王女」は、「ダーク・ユニバース」プロジェクトの第一弾作品です。ユニバーサルといえば、モンスター映画の老舗として知られますが、同社が「アヴェンジャーズ」や「ジャスティス・リーグ」ばりのフランチャイズ企画として立ち上げたのが「ダーク・ユニバース」です。自社の財産である怪物キャラを再生させていくのが目的だと言えるでしょう。

 「ダーク・ユニバース」では、1920~1950年代にユニバーサルが精力的に作っていた「ユニバーサル・モンスターズ」シリーズより、「魔人ドラキュラ」「フランケンシュタイン」「ミイラ再生」「透明人間」「フランケンシュタインの花嫁」「狼男」「オペラの怪人」「大アマゾンの半魚人」などの中からリブート作品を製作していくようです。

 「ダーク・ユニバース」のFacebook公式ページなどのSNS上では、ラッセル・クロウ、ハビエル・バルデム、トム・クルーズ、ジョニー・デップ、ソフィア・ブテラが一同に介した写真が公開されていますが、とんでもない豪華メンバーたちが新時代のモンスター映画で競演してくれることになりそうです。「ザ・マミー/呪われた砂漠の王女」の次は、ブログ「美女と野獣」で紹介した映画を手掛けたビル・コンドン監督が、1935年の名作「フランケンシュタインの花嫁」で新たにメガホンを取ります。あと、ハビエル・バルデムがフランケンシュタインを、ジョニー・デップが透明人間を演じるという話があるようです。楽しみですね!

 「ダーク・ユニバース」では、トム・クルーズはミイラ映画に主演しました。これまでの彼の一連の主演作品とは一味違った役どころを演じていますが。ユニバーサル映画ではありませんが、彼はモンスター映画というか、ホラー映画の歴史に残る大傑作に出演したことがあります。 そう、「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」(1994年)です。 アン・ライスによる小説『夜明けのヴァンパイア』の映画化作品ですが、トム・クルーズは吸血鬼レスタトを演じました。

 当初、原作者のライスはこの配役を批判し、「クルーズが私の吸血鬼レスタトになるのなら、エドワード・G・ロビンソンがレット・バトラーになれる」とコメントし、この配役は「とても変。どうしてこれでうまくいくのかほとんど想像できない」とまで言いました。しかしライスは出来上がった作品を見てクルーズの演技に満足し、「彼が登場した瞬間から、トムは私にとってレスタトだった」、また「トムがレスタト役を成功させたことは、私には予知できなかったこと」と述べ、『デイリー・バラエティ』誌に謝罪広告まで出しています。

 さて、「ダーク・ユニバース」には、「プロディジアム」という組織が登場します。プロディジアムは、1000年以上守り通してきた秘術を使って、文明社会に影を落とす悪から人々を守るというミッションを持っています。どの政府からも後ろ盾なく行動し、モンスターたちを追跡調査し、世界に危害を及ぼす場合は撃退する任務を負っている謎の組織です。このプロディジアムを率いるのが、かのジキル博士&ハイド氏なのですが、映画ではラッセル・クロウが演じています。しかし、彼が太り過ぎていることと、変身前のジキル博士と変身後のハイド氏の容姿がほとんど変わらないので見分けがつかないことが残念でした。
 このあたりは、もっと何とかしてほしかったですね。

 ジキル博士&ハイド氏は、「リーグ・オブ・レジェンド 時空を超えた戦い」(2003年)にも登場します。この映画でのハイド氏は巨大化していました。「リーグ・オブ・レジェンド 時空を超えた戦い」はドリアン・グレイ、トム・ソーヤー、ネモ船長、透明人間などの伝説の人物が一堂に会する物語ですが、彼らをまとめるリーダーがH.R.ハガードの伝奇ロマン小説『ソロモン王の洞窟』の主人公アラン・クォーターメインでした。ショーン・コネリーがアラン・クォーターメインを演じましたが、今回の「ダーク・ユニバース」におけるラッセル・クロウも同じ役割なわけです。おそらく、ユニバーサルのモンスターたちも、どこかのタイミングで全員集合するのでしょう。

 ところで、ブログ「バットマンvsスーパーマン ジャスティスの誕生」にも書きましたが、わたしはアメリカを「神話のない国」であると考えていますが、「ザ・マミー/呪われた砂漠の王女」を観て、その考えが間違っていないことを確認しました。『ハートフル・ソサエティ』(三五館)の「共感から心の共同体へ」にも書きましたが、神話とは宇宙の中における人間の位置づけを行うことであり、世界中の民族や国家は自らのアイデンティティーを確立するために神話を持っています。日本も、中国も、インドも、アフリカやアラブやヨーロッパの諸国も、みんな民族の記憶として、または国家のレゾン・デトール存在理由として、神話を大事にしているのです。
 ところが、神話というものを持っていない国が存在し、それはアメリカ合衆国という現在の地球上で唯一の超大国なのです。

 建国200年あまりで巨大化した神話なき国・アメリカは、さまざまな人種からなる他民族国家であり、統一国家としてのアイデンティー獲得のためにも、どうしても神話の代用品が必要でした。それが、映画です。映画はもともと19世紀末にフランスのリュミエール兄弟が発明しましたが、他のどこよりもアメリカにおいて映画はメディアとして、また産業として飛躍的に発展しました。映画とは、神話なき国の神話の代用品だったのです。
 それは、D・W・グリフィスの「國民の創生」や「イントレランス」といった映画創生期の大作に明確に現れていると言えます。

 「風と共に去りぬ」にしろ、「駅馬車」にしろ、「ゴッドファーザー」にしろ、すべてはアメリカ神話の断片であると言えます。
 それは過去のみならず、「2001年宇宙の旅」「ブレードランナー」「マトリックス」のように未来の神話までをも描き出します。そして、スーパーマン、バットマン、スパイダーマンなどのアメコミ出身のヒーローたち、さらには吸血鬼ドラキュラ、フランケンシュタインの怪物、狼男なども、映画によって神話的存在になったと言えるでしょう。

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『死を乗り越える映画ガイド』(現代書林)

 ブログ「上智大『グリーフケア映画』講義」で紹介したように、26日に拙著『死を乗り越える映画ガイド』(現代書林)をテキストにした講義を行いました。同書は「映画で死を乗り越える」ことについて書かれていますが、よく考えれば、吸血鬼や人造人間やゾンビや甦ったミイラなどはすべて「不死」を扱った映画ということに気づきます。わたしが、彼らに強く心を惹かれるのも、その背景に「不死」というテーマがあるからかもしれません。もともと、わたしはユニバーサル映画のモンスターが大好きで、DVDを揃えているのはもちろん、彼らのフィギュアが書斎の怪奇小説の文庫本コーナーの棚に並んでいます。「ダーク・ユニバース」のこれからが非常に楽しみです!

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三度の飯よりもホラー映画が好き!

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わがユニバーサル映画DVDコレクション

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わが書斎のモンスター・フィギュアたち

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わが書斎に鎮座するマミー(ツタンカーメン)!