No.0297


 東京・日比谷の「TOHOシネマズシャンテ」で映画「ビニー/信じる男」を観ました。ボクシング界の衝撃の実話に基づく作品で、とても感動しました。


 ヤフー映画の「解説」には以下のように書かれています。

 「交通事故から奇跡の復活を遂げたボクシングの元世界チャンピオン、ビニー・パジェンサの生きざまを描く人間ドラマ。誰もが再起不能と思う中、トレーナーと二人三脚で王座奪還を目指す姿を映す。ボクサーのビニーを『セッション』などのマイルズ・テラー、トレーナーのケビン・ルーニーを『サンキュー・スモーキング』などのアーロン・エッカートが演じる。製作総指揮は巨匠マーティン・スコセッシが務め、『マネー・ゲーム』などのベン・ヤンガーがメガホンを取った」

 ヤフー映画の「あらすじ」には以下のように書かれています。

 「世界チャンピオンとなり栄光を手にしたボクサー、ビニー・パジェンサ(マイルズ・テラー)は、交通事故で首を骨折する。歩くこともままならず復帰を絶望視した周囲の人々が離れていく中、ビニーは諦めず再起を決意。トレーナーのケビン(アーロン・エッカート)に支えられ過酷なトレーニングに励み、再び王座に君臨すべく必死に努力を重ね・・・・・・」

 「ビニー/信じる男」は実話に基づくボクシング映画ですが、ボクシングのシーンは俳優ではなく、本当にプロのボクサー同士が闘っているような迫力でした。ブログ「セッション」で紹介した映画で名門音大に入学したドラマーのニーマンを演じたマイルズ・テラーです。

 伝説の鬼教師フレッチャーの狂気のレッスンの果て、映画のラストでニーマンは衝撃のセッションを行います。その「セッション」のラスト9分19秒の衝撃が、「ビニー/信じる男」の最後のボクシングの熱闘と重なります。気の弱そうなニーマンと野獣のようなビニー・パジェンサの両方を演じきったマイルズ・テラーの役者魂には感服です。

 ビニー・パジェンサは実在のアメリカのプロボクサーで、1962年生まれ。わたしよりも1歳年上ですね。ロードアイランド州クランストン出身。第5代IBF世界ライト級王者。第26代WBA世界スーパーウェルター級王者。世界2階級制覇王者。瀕死の重傷から世界チャンピオン復帰を目指したビニーの実話をもとに作られた映画が、この「ビニー/信じる男」です。

 ビニー・パジェンサの主な戦歴を見てみると、1991年7月2日、シビックセンターでUSBA全米スーパーウェルター級王者ロブ・アムンデンセンと対戦し、12回3-0の判定勝ちで王座獲得に成功。1991年10月1日、30戦無敗のWBA世界スーパーウェルター級王者ジルベール・デュレと対戦し、最終12回2分10秒TKO勝ちで念願の2階級制覇を達成。

 これ以上ないほどの順調なボクシング人生を歩んでいたビニーでしたが、思いもしなかった災難に巻き込まれます。1991年11月12日、正面衝突の交通事故を起こし、助手席に乗っていたビニーは首を骨折するなどの瀕死の重傷を負うのでした。その結果、1992年にWBA世界スーパーウェルター級王者を剥奪されてしまいます。

 その後、奇跡的に復帰したビニーは1993年12月28日、リッツ・カールトンでIBO世界スーパーミドル級王者ダン・シェリーと対戦し、11回KO勝ちで王座獲得に成功します。そして、1994年6月25日、MGMグランド内MGMグランド・ガーデン・アリーナでIBC世界スーパーミドル級王者で元世界4階級制覇王者ロベルト・デュランと対戦し、12回3-0の判定勝ちで王座獲得に成功するのでした。

 ボクシング映画では、よく再起をかける人間が描かれます。
 その代表作は、なんといってもシルベスター・スタローンの出世作となった「ロッキー」(1976)でした。ごく普通の人間が、困難に勝ち抜いてアメリカンドリームを手に入れる物語に世界中が感動し、アカデミー賞10部門にノミネートされ、最優秀作品賞をはじめ4部門を獲得しました。

 ロッキー・バルボア(シルベスター・スタローン)は、フィラデルフィアのボクシング・クラブに所属するうだつの上がらないボクサーですが、ヘビー級の世界チャンピオンと対戦するチャンスが与えられます。ロッキーは、一生に一度のチャンスであるチャンピオンへの道を走り出すのでした。

 「ロッキー」は実話映画ではありませんが、ロッキー・バルボアにはモデルとされる人物がいました。アメリカプロボクシング界では少数派のホワイトホープ・白人ボクサーとして活躍したチャック・ウェップナーです。ニューヨークのスラム街で育ち、少年院・刑務所と服役。服役中にボクシングを覚え、出所後に27歳でプロデビューを果たしています。

 1975年3月24日、ウェップナーはモハメド・アリの持つ世界王座に挑戦しました。9Rにダウンを奪うも、15RにTKO負けしてしまいます。しかし、ウェップナーにとっては予想を裏切る大健闘であり、この試合がボクシング映画史上に残る名作「ロッキー」のヒントになったとされています。

 ウェップナーは、プロレスラーとの異種格闘技戦でも知られています。 モハメド・アリがアントニオ猪木と闘った1976年6月26日、ニューヨークのシェイ・スタジアムで、プロレスラーアンドレ・ザ・ジャイアントと対戦したのです。結果は、場外に落とされ、3R1分15秒リングアウト負けでした。

 また1977年10月25日には、日本武道館でアントニオ猪木と「格闘技世界一決定戦」で対戦しています。オープンフィンガーグローブを着用した猪木とのパンチ勝負では何度もダウンを奪いましたが、最後は6R1分35秒に逆エビ固めで敗れました。

 話を「ビニー/信じる男」に戻します。 この映画を観終わって、わたしのブログ記事「シュガーマン 奇跡に愛された男」で紹介した映画を思い出しました。2012年のスウェーデン・イギリスのドキュメンタリー映画で、アカデミー長編ドキュメンタリー賞を受賞しています。1960年代後期にアメリカでデビューした歌手ロドリゲスの奇跡的な人生を描いた作品です。もう本当に「驚愕の事実」が描かれているのですが、そのメッセージを集約すれば、「人生、何が起こるわからない」「人生、絶対にあきらめてはいけない」ということになるでしょうか。

 それと同じメッセージを「ビニー/信じる男」からも感じました。