No.0310
日本映画「ラストレシピ~麒麟の舌の記憶~」を観ました。歴史に消えた究極のフルコースをめぐる感動のヒューマンドラマですが、ミステリーの要素も相まって、素晴らしい映画でした。じつはあまり興味がなかったのですが、本当に観て良かったです。ここまで7作連続でハリウッドで製作されたアメリカ映画を観てきましたが、日本映画もいいね!
ヤフー映画の「解説」には以下のように書かれています。
「『おくりびと』などの滝田洋二郎監督と『母と暮せば』などの二宮和也が初タッグを組み、幻のレシピを追い求める男の姿を描く感動作。"麒麟の舌"と呼ばれる究極の味覚を持つ料理人が、戦時下の混乱の中で消失した伝説の"料理全席"を追い求めるうちに、約70年前のある謎に迫る姿を描写する。西島秀俊、宮崎あおい、綾野剛、竹野内豊といったキャスト陣が共演。異なる時代に生きた二人の天才料理人の宿命に息をのむ」
また、ヤフー映画の「あらすじ」には以下のように書かれています。
「佐々木充(二宮和也)は、『最期の料理人』として顧客の『人生最後に食べたい料理』を創作して収入を得ていた。絶対味覚を持つ天才でありながらも、彼は料理への熱い思いを忘れかけていた。そんな折、彼のもとにかつて天皇陛下の料理番だった山形直太朗(西島秀俊)が作り上げたという、"大日本帝国食菜全席"のレシピを再現する仕事が舞い込む」
まず、いつもこのブログでは映画のポスター画像を紹介しているのですが、今回はそれができません。主演の二宮和也がジャニーズ事務所所属だからです。ご存知のように、同事務所は所属タレントの画像のネット掲載を禁じています。たとえば、わたしがコラムを連載している「サンデー毎日」の表紙にジャニーズ事務所のタレントが使われても、同誌はネットで表紙画像をそのまま公開できず、当該タレントが写っている部分は黒塗りです。
元SMAPの3人が新しくネット戦略を打ち出して大成功を収めたというのに、一体、ジャニーズ事務所は何をやっているのか。映画のポスターさえネットに公開できないのでは、宣伝上もマイナスでしかないでしょうに。
さて、わたしは、なぜこの映画を観たのか。一条真也の映画館「ザ・サークル」で紹介した映画があまりにも面白くなかったので、このまま映画嫌いになってはいけないと思い、ネットでの評価が非常に高かった「ラストレシピ」を観たのですが、こちらは大当たりでした。なによりも、「ザ・サークル」と違って、脚本が素晴らしい!俳優陣も良かったです。主演の二宮和也をはじめ、西島秀俊、宮崎あおい、綾野剛、竹野内豊...すべて熱演でした。
映画パンフレットの中には「大日本帝国食菜全席」のメニュー表が!
映画に登場するオムライス、チャーハン、ビーフカツサンド...本当にどれも美味しそうでした。鮎の春巻、ロールキャベツの雑煮風はそれほど美味しそうには思えませんでしたが。しかし、わたしの本業の1つであるホテル業を営む上で大変勉強になる内容でした。なにしろ、「究極のフルコース」を作る話なのですから。秦の始皇帝が食したという「満漢全席」を超える「大日本帝国食菜全席」のメニュー構成は興味深かったです。その内容が掲載されているので、久々に映画のパンフレットも購入しました。
メニューを考える料理人の創意工夫、それから、さまざまな苦労も知ることができました。わたしは、わが社の「松柏園ホテル」で働いてくれている料理スタッフの顔を思い浮かべながら、この映画を観ました。じつは、最近、松柏園では「究極のフルコース」作りに挑戦したばかりだったのです。
「サンレーグループ創立50周年記念祝賀会」のようす
それは、ブログ「サンレーグループ創立50周年記念祝賀会(業界)」で紹介した食事会においてでした。10月25日、冠婚葬祭互助会業界のみなさまをお迎えして、「サンレーグループ創立50周年記念祝賀会」が開催されました。全国から有力互助会のオーナーさんたちが集結。会場は松柏園ホテル新館「ヴィラルーチェ」でした。
なにしろ、北海道から沖縄まで、全国の結婚式場やホテルのオーナーばかりが数十人も集まる食事会でしたので、わが社としても総力をあげて「おもてなし」に努めました。「おもてなし」のメインは何といっても、フルコースの内容です。わたしと弟は試食会を重ねて、当日に臨みました。結果、正直すべてが想い通りにはいきませんでしたが、現在のわが社が提供しうる最高のフルコースを実現することはできたと思います。多くのお客様からも「本当に美味しかったです」とのお言葉を頂戴いたしました。
じつは、この祝賀会の翌日、小倉に天皇陛下がお越しになられました。陛下は松柏園ホテルとは違うホテルにご宿泊されたようですが、わたしは「陛下は何をお召し上がりになったのかな?」と考えました。不遜ではありますが、本当はわが社の50周年記念祝賀会でのフルコースを召し上がっていただきたかったです。「ラストレシピ」を観ながら、そのことを思い出しました。なにしろ、この映画は天皇陛下のための「究極のフルコース」を作るという物語なのですから...。
『徹底比較!日中韓 しきたりとマナー~冠婚葬祭からビジネスまで』(祥伝社黄金文庫)
「ラストレシピ」では、満州国に赴いた"天皇の料理番"の 山形直太朗が大日本帝国が掲げる「五族協和」の理想を料理で実現したいと考えます。彼にとっての料理とは「平和」と結びついていたのです。先日、アメリカのドナルド・トランプ大統領が日本・韓国・中国を歴訪しました。晩餐会ではそれぞれの国の最高のフルコースを食したことでしょう。わたしは、日本料理も韓国料理も中華料理も好きです。いま日中韓の平和を考えるとき、「食」による平和という発想も必要だと思います。
わたしは『徹底比較!日中韓 しきたりとマナー~冠婚葬祭からビジネスまで』(祥伝社黄金文庫)の監修を務めましたが、日本も韓国も中国も儒教国です。儒教では「礼」が最重視されますが、そこでは「楽」や「食」といったものが重要です。「礼」とは究極の平和思想です。そして、音楽や料理などの言語の壁を超えた芸術こそが最高の「礼」を実現するのです。
「礼」といえば、「葬礼」から生まれ、発展したコンセプトです。
「ラストレシピ」の冒頭は葬儀のシーンから始まります。二宮和也演じる主人公・佐々木充は、育ての親の葬儀に参列しないのでした。それを綾野剛演じる充の親友が「最低の男だ!」と罵ります。
この場面を観て、わたしは「ああ、また葬儀を軽視する話なのか」と思いましたが、ラストのどんでん返しで、その思いが間違いだったことを知りました。なにしろ、この映画は一条真也の映画館「おくりびと」で紹介した、葬儀の意味と素晴らしさを説く名作を監督した滝田洋二郎がメガホンを取った作品なのです。葬儀を軽んじるはずがありません。
『なぜ、一流の人はご先祖さまを大切にするのか?』(すばる舎)
葬儀とは「縁」や「絆」を可視化する儀式ですが、この映画のテーマであるレシピも「縁」や「絆」が深く関わっています。ネタバレになるので詳しくは書けませんが、この映画のラストでは血縁の不思議さ、そして「ご先祖さま」の有難さが見事に描かれていました。わたしは『なぜ、一流の人はご先祖さまを大切にするのか?』(すばる舎)を書きましたが、「一流」ということと「先祖を敬う」ということの関係には「伝統」というキーワードがあります。あるいは連綿と続く「歴史」を現代に生かすこと、と言っていいかもしれません。長い年月の中で培われた〝英知〟の一部に「伝統」というものがあります。
たとえば一流の旅館、一流の料理店があります。
「老舗」という言葉もあります。
「さすがに一流のホテルはサービスが違う」
「あそこの寿司の味は、一流だよ」
「一流を知っているから、ものの価値がわかるんだね」
こうした一流の陰には、「伝統」というものがつねに見え隠れしていることに、お気づきでしょうか。別に高級である必要はありません。老舗料亭だけでなく、路地裏のラーメン店でも一流の店は存在します。
たとえば、わたしがよく通うラーメン店は、先代からのスープづくりを守り続けている店です。一杯700円という価格ですが、「超」がつく一流店だと、胸を張って人にすすめることができます。焼き鳥店やうなぎ店でも、秘蔵のたれをつぎ足しながら、一方で新しい味を追求している店を知っています。
つまり一流とは、長い時間の中で培われてきた英知を、惜しげもなく提供することです。それを「伝統」と呼びます。ただみな、守っているだけではありません。そこに時代に合わせた創意工夫があり、それができることもまた、一流の証です。これを「革新」といいます。
わたしは「ご先祖さまを敬う」ことは、こうした伝統を継承し、一方で、それをいまに生かすために「革新するこころ」を持つことだと感じています。
でも「革新する」といっても、どこをどう変えたらいいのかがわからなければ、革新しようがありません。革新には試行錯誤が必要になります。しかし、どこを軸にして試行すればいいのか、その基準が不可欠です。その準備となるのが「伝統」です。革新的なことを成し遂げた多くの人の話を聞くと、まず「いままでやっていたことのいいところを洗い出すこと」から始めるそうです。そして次に「どこを直せばいいのか?」を考える。「どこを直すか?」という革新の発想の根拠には、「これまでに受け継いできた伝統」があるのです。
伝統とは、あなたに〝伝えられた〟「ご先祖さまの生き方、考え方」です。それが血脈となって、あなたの中に流れ、何かの局面にさしかかったとき、「あ、こうすればいいのか?」と考えることができるのです。これ以上はネタバレになるので書きませんが、「ラストレシピ~麒麟の舌の記憶~」には先祖を大切にし、一流の人間になるための方法がしっかりと描かれていました。