日本映画「今夜、ロマンス劇場で」を観ました。モノクロ映画のヒロインと現実世界の青年の切ない恋を描いたファンタジー映画です。映画というものはもともとウソの世界ですから、思い切って素敵なウソを描いてくれる作品が一番です。そんな意味で、この作品はあまりにも映画らしい映画で、感動しました。早くも、今年度の「一条賞」の有力候補作品であります。

 ヤフー映画の「解説」には以下のように書かれています。

 「『海街diary』などの綾瀬はるかと、『ナラタージュ』などの坂口健太郎を主演に迎えたラブストーリー。映画監督を目指す青年と、スクリーンから飛び出した、長年彼の憧れだったお姫さまとの不思議な恋愛模様を描く。『のだめカンタービレ』シリーズなどの武内英樹がメガホンを取り、脚本を『信長協奏曲』などの宇山佳佑が担当する」

 また、ヤフー映画の「あらすじ」には以下のように書かれています。

 「映画監督志望の健司(坂口健太郎)は、映画館『ロマンス劇場』に通い詰めていた。彼はそこで一人の女性と出会うが、彼女こそ健司がずっと恋い焦がれてきたスクリーンの中のお姫さま・美雪(綾瀬はるか)だった。美雪はモノクロの世界から抜け出して、色にあふれた現実の世界を満喫するが......」

 綾瀬はるかが演じたヒロインは「お転婆姫と三獣士」という戦前の日本映画に登場するお姫さまです。三獣士の中には狸もおり、「狸御殿」シリーズで知られる木村恵吾原作の「オペレッタ喜劇」を連想しました。昭和14年(1939年)に第1作が公開されているので、「お転婆姫と三獣士」の製作時期と合います。「狸御殿」シリーズでは、お転婆なお姫さまを美空ひばり、雪村いずみ、若尾文子らが演じました。わたしは綾瀬はるかという女優をあまり意識したことがなく、「今夜、ロマンス劇場で」の出演者では本田翼のほうが好みなのですが(実際、この映画での本田翼は素晴らしかったです)、今回ばかりは綾瀬はるかを見直しました。可憐なルックスだけでなく、思ったよりも演技力のある役者さんですね。

 スクリーンの中から映画の登場人物が出てくるというアイデアは、「カイロの紫のバラ」(1985年)で知られています。ウッディ・アレンが脚本・監督したファンタスティックなラブ・ロマンスです。古き良き30年代、熱心に映画館に通いつめるウェイトレスに、ある日、スクリーンの中から映画の主人公が語りかけてきます。銀幕を飛び出し、現実世界へ降り立ったその主人公は、ウェイトレスを連れて劇場を後にします。大慌ての興行者たちをよそに、2人の仲は進展していきます。そして、主人公を演じた本物のスターの出現によって事態は混乱を極めていくのでした。

「お転婆姫と三獣士」の中でティアラをつけた美雪姫の姿は、「ローマの休日」(1953年)でオードリー・ヘップバーンが演じたアン王女を彷彿とさせます。ヨーロッパ最古の王室の王位継承者であるアン王女は、欧州各国を親善旅行で訪れていました。ローマでも公務を無難にこなしていきますが、彼女はこれまでのハードスケジュールで疲れやストレスが溜まっていました。主治医に鎮静剤を投与されるものの、気の高ぶりからか逆に目が冴えてしまった彼女は、こっそり夜のローマの街へ繰り出します。そこでアメリカ人の新聞記者ジョー(グレゴリー・ペック)と出会います。彼は、、彼女が一国の王女であることも知らずに自分のアパートで休ませ、その後、ローマ観光に連れていくのでした。まさに「ロマンス」という言葉がぴったりなロマンティックな永遠の青春映画です。

「今夜、ロマンス劇場」には、作品の舞台である映画館「ロマンス劇場」で「お転婆姫と三獣士」の他にも有名な外国映画が上映される場面が出てきます。「カサブランカ」(1942年)です。第二次世界大戦にアメリカが参戦した翌年に製作が開始され、物語の設定時点の1941年12月時点では親ドイツのヴィシー政権の支配下にあったフランス領モロッコのカサブランカを舞台にした、これまた「ロマンス」という言葉がぴったりな恋愛映画の名作です。主演のハンフリー・ボガードとイングリッド・バーグマンは永遠の「ロマンス」映画のアイコンとなりました。
 それにしても、「どうして、『今夜、ロマンス劇場で』の中で『カサブランカ』の一部を流したのだろう?」と疑問に思いましたが、じつは両作品ともワーナー・ブラザースの映画なのですね。納得しました。

 綾瀬はるかが演じる美雪はモノクロの世界の住人ですが、色のある世界へ出てきたことによって、見るものすべてに感動します。空の青やポストの赤に感動し、さまざまな花々の色に感動します。その場面を見て、わたしは「オズの魔法使い」(1939年)でジュディ・ガーランド扮する少女ドロシーが愛犬トトと一緒にマンチキンランドに足を踏み入れたとたんに映画がモノクロからカラー、白黒から総天然色に一変する場面を思い出しました。
 また、カラー画面の中で一点だけモノクロを使うとか、モノクロ画面の中で一点だけカラーを使うなどのアイデアは昔からありますが、「今夜、ロマンス劇場」ではその両方を惜しみなく駆使しており、「ああ、この映画を作った人たちは、本当に映画が好きなんだなあ!」と思って嬉しくなりました。

 このように、「今夜、ロマンス劇場で」を観ていると、さまざまな名作映画を次々に連想するのですが、わたしが一番好きなロマンス映画はなんといっても「風と共に去りぬ」(1939年)です。中学生の頃、北九州の黒崎ロキシーという映画館で「風と共に去りぬ」がリバイバル上映されたことがあります。テレビの「水曜ロードショー」で生まれて初めてこの名画を観て以来、映画館で観たいとずっと願っていたわたしは狂喜し、勇んで小倉から黒崎まで出かけました。そして、ついにスクリーンで鑑賞するという悲願を達成したのです。

 そのとき、スクリーン上のヴィヴィアン・リーの表情があまりにも生き生きとしていて、わたしは「ヴィヴィアン・リーは今も生きている!」という直感を得ました。特に、彼女の二人目の夫やアシュレーがKKKに参加して黒人の集落を襲っているとき、女たちは家で留守番をしているシーンを観たときに強くそれを感じました。椅子に座って編み物をしているヴィヴィアン・リーの顔が大写しになり、眼球に浮かんだ血管までよく見えました。それはもう、目の前にいるどんな人間よりも「生きている」という感じがしたのです。それを観ながら、「こんなに生命感にあふれた彼女が実際はもうこの世にいないなんて」と不思議で仕方がありませんでした。

 そう、ヴィヴィアン・リーも、ジュディ・ガーランドも、イングリッド・バーグマンも、オードリー・ヘップバーンも、みんなもうこの世を去っています。彼女たちは死者なわけですが、「風と共に去りぬ」や「オズの魔法使い」や「カサブランカ」や「ローマの休日」を観れば、彼女たちは今でも生きているとしか思えません。そして、「今夜、ロマンス劇場で」のヒロインを演じた女優も、坂口健太郎が演じる健司と出会うはるか昔に亡くなっているのでした。実際、モノクロの姿でスクリーンから出てきた美雪に対して、健司は「もしかして、女優さんの幽霊?」と質問します。ここで、わたしたちは、映画とは死者と出会えるメディアなのだという事実に気づきます。


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   『死を乗り越える映画ガイド』(現代書林)


 拙著『死を乗り越える映画ガイド』(現代書林)で、映画を含む動画撮影技術が生まれた根源には人間の「不死への憧れ」があると述べました。映画と写真という二つのメディアを比較してみましょう。写真は、その瞬間を「封印」するという意味において、一般に「時間を殺す芸術」と呼ばれます。一方で、動画は「時間を生け捕りにする芸術」であると言えるでしょう。かけがえのない時間をそのまま「保存」するからです。そのことは、わが子の運動会をデジタルビデオで必死に撮影する親たちの姿を見てもよくわかります。


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   『唯葬論』(サンガ文庫)


「時間を保存する」ということは「時間を超越する」ことにつながり、さらには「死すべき運命から自由になる」ことに通じます。写真が「死」のメディアなら、映画は「不死」のメディアです。だからこそ、映画の誕生以来、無数のタイムトラベル映画が作られてきたのでしょう。そして、時間を超越するタイムトラベルを夢見る背景には、現在はもう存在していない死者に会うという大きな目的があるのではないでしょうか。わたしには『唯葬論』(サンガ文庫)という著書がありますが、すべての人間の文化の根底には「死者との交流」という目的があると考えています。映画そのものが「死者との再会」という人類普遍の願いを実現するメディアでもあると思っています。

 死者とまではいかなくても、映画をはじめとする動画は過去の人物とも会わせてくれます。わたしは「今夜、ロマンス劇場で」の主人公である健司が憧れのヒロインと会えたことが羨ましくて仕方がありませんでした。
 というのも、わたしには心から逢いたくて逢いたくてたまらないヒロインがいるからです。それは、歌手で女優の園まりさんです。

 元々はクラシックの歌手を目指していた園さんは、1960年11月NET「あなたをスターに」で優勝。61年4月渡辺プロダクションに入社。62年5月「鍛冶屋のルンバ」でレコードデビュー。7月フジテレビ「レッツゴー三人娘」で中尾ミエ、伊東ゆかりと「スパーク3人娘」を結成。伝説の番組である「シャボン玉ホリデー」(日本テレビ)などに出演しました。「NHK紅白歌合戦」には63年から68年まで6回連続出場しています。最大のヒット曲は「逢いたくて逢いたくて」(1966年)で、66年と67年にはマルベル堂のブロマイド売り上げで女性歌手の第1位に輝いています。

 わたしは1963年生まれなので、園まりさんの全盛期をリアルタイムで知りません。というか、園さんはわたしの母親の世代なのですね。そんなわたしは現在、園さんの魅力の虜になっています。というか、完全に恋をしています。最初は「クレージー黄金作戦」(1967年)というクレージーキャッツの映画をDVDで観たら、若き日の園さんが出演しており、「とても、かわいらしいなあ!」と思ったのが始まりです。

 そして、園さんは「逢いたくて逢いたくて」という映画に主演しています。1966年6月1日に日活系で公開され、園さんが自ら主演し、道子という女子大生の他、自分自身の二役出演となっています。歌手・園まりがのどを痛めたため、道子が彼女の替え玉になるという話だとか。相手役は渡哲也でした。この映画の一部がYouTubeで視聴できるのですが、わたしは映画そのものが観たくて仕方ありません。DVDが2014年に日活から発売されていますが、現在は入手できません。どうしても観たいです!

「一条真也は大の園まりファン」という情報、拡散希望です!(笑)断っておきますが、園まりさんは今でも現役の歌手です。中尾ミエさん、伊藤ゆかりさんとの3人娘として全国でコンサートも行っています。女性の年齢のことを言うのは失礼ながら、3人とも70代になられて「後期高齢者」に近くなりましたが、大人気でコンサートも盛況だとか。ぜひ、わが社でも、「光輝好齢者」のアイドルとして、小倉に3人娘をお呼びしたいです!


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   「小倉昭和館」は、わが「ロマンス劇場」


 まあ、それとは別に、わたしは若き日の園さん逢いたくて逢いたくて仕方がありません。映画「逢いたくて逢いたくて」をブログ「小倉昭和館」で紹介した小倉の名画座で上映してほしいものです。館主の樋口さん、よろしくお願いいたします。もしも小倉昭和館で「逢いたくて逢いたくて」を上映していただけるのなら、できれば観客はわたし1人で、スクリーンから当時の園さんが抜け出してくれれば最高なのですが......そんな妄想まで抱かせてくれるほど、「今夜、ロマンス劇場で」は素敵な映画でした。

 久々にスクリーンで観た加藤剛の枯れた演技も印象的でしたし、大スター役の北村一輝も決まっていたし、シェネルが歌った主題歌「奇跡」も良かったです。じつは映画の途中からラストシーンの予想はついたのですが、それでも非常に感動的でした。わたしには結婚式の場面のように見えました。 いやあ、映画って、本当にいいもんですねえ!