No.370


11月1日の夜、この日公開されたばかりの日本映画「ビブリア古書堂の事件手帖」をレイトショーで観ました。一条真也の読書館『ビブリア古書堂の事件手帖』で紹介した累計680万部の大ベストセラーの映画版です。わたしは原作をすべて読んでいます。

 ヤフー映画の「解説」には、こう書かれています。
「古書にまつわる謎を解き明かす若くて美しい古書店主が主人公の人気小説を、『幼な子われらに生まれ』などの三島有紀子監督で映画化したミステリー。古書店主のヒロインと彼女の推理力に心酔する青年が、希少本を狙う謎の人物の正体に迫るさまを描く。古書の知識が豊富で推理力に長けたヒロインを『小さいおうち』などの黒木華、ヒロインを手伝う青年を『サクラダリセット』シリーズなどの野村周平が演じる」

 ヤフー映画の「あらすじ」には、こう書かれています。 「北鎌倉にある古書店『ビブリア古書堂』。夏目漱石の直筆と推察される署名入りの『それから』を持ち込んだ五浦大輔(野村周平)は、持ち主である亡き祖母の秘密を解き明かした店主・篠川栞子(黒木華)の推理力に驚く。その後栞子を手伝うことになった大輔は、彼女が所有する太宰治の『晩年』の希少本が、『人間失格』の主人公と同じ『大庭葉蔵』を名乗る人物に狙われていることを知る。

 TVドラマ版では主人公の栞子を今話題の剛力彩芽が演じましたが、違和感がありました。映画版では黒木華が演じていて、適役だと思いました。 黒木華といえば、一条真也の映画館「日日是好日」で紹介した日本映画でも好演しましたが、本当に良い女優さんですね。なんだかんだいって、この昭和顔は最強です。「栞子を演じるのは、もう黒木華しかいない!」と思えるほどのハマリ役でした。
 しかし、もう1人の主人公である五浦大輔を演じた野村周平がピンときませんでしたね。演技力も今イチだし、それほどイケメンだとも思えませんでした。女子には人気ががるようですが、彼のどこが良いんでしょうかね。わたしには、わかりません。

 そんな二人が胸キュン・シーンを展開しても、まったくドキドキしませんでした。黒木華も色気のない女優ではないのですが、この映画ではあまり色気を感じさせませんでしたね。むしろ、夢中になって本を読み耽っている場満などのほうが艶っぽかったです。思うに、知性というものは色気を醸し出すのですね。しかし、野村周平に至っては渋谷でうろうろしているアンちゃんみたいで、プロの男優としてのオーラを感じませんでした。彼の持っている軽さのようなものは、この映画には似合わないと思いました。

 一方、東出昌大と夏帆の過去のカップルのほうは恋する二人という感じでしたが、ちょっと話に無理があったように思います。第一、まだ小説を1作も書いていない作家志望の青年が西伊豆の旅館にカンヅメになって小説を執筆するとか、そこに食堂の女房がわざわざ訪ねてくるという設定にリアリティが感じられません。自身の秘密の恋の思い出が隠された本に触れたからといって、おばあさんが可愛い孫を二発も殴るというのも何だかねぇ......。殴られた孫は、そのトラウマで文字の詰まった本が読めなくなるというのですが、これもちょっとねぇ......。

 原作に関しては、わたしは1~3巻を紹介した一条真也の読書館『ビブリア古書堂の事件手帖』のみならず、『ビブリア古書堂の事件手帖4』『ビブリア古書堂の事件手帖5』『ビブリア古書堂の事件手帖6』でも、その内容に詳しく言及しました。もともとは、「ダンディ・ミドル」こと大迫益男さんに教えていただいた本です。わたしに「あんた、これ絶対に面白いから、読んだほうがいいよ」と言って、本シリーズをススメてくれました。

 いわゆるライトノベル小説ということで、最初は読むのに少し抵抗がありました。これまで、わたしは乙一のホラーぐらいしかラノベを読んだことがないのです。しかし、思いきって『ビブリア』の第1巻を読んでみると、想像していたよりもずっと落ち着いた大人向きの物語で、ちょっと意外でした。 古都・鎌倉の片隅にある古本屋「ビブリア古書堂」が舞台です。店主の篠川栞子は若くて美しい女性ですが、大変な人見知りで、初対面の人間とは口もきけません。しかし、古書の知識はハンパではありません。何よりも彼女は、古書を心の底から愛していました。わたしも古書を愛する人間なので、すっかり栞子が好きになりました。

 大好きな本には人一倍の情熱を燃やす栞子のもとには、奇妙な客たちが集まってきます。いわくつきの古書が持ち込まれることも稀ではありません。古書にまつわる謎と秘密を、まるで見てきたかのように持ち前の不思議な嗅覚で解き明かしていく栞子と、体質的に読書ができない店員・大輔の2人を中心にサスペンスフルな古書ドラマが展開されます。本書には、さまざまな実在の古書が登場します。映画版では夏目漱石『漱石全集・新書版「それから」』(岩波書店)と太宰治『晩年』(砂子書房)のエピソードが登場します。考えてみたら、太宰治の小説ってラノベの要素があるかもしれませんね。
 もしかして、太宰がラノベの元祖かも?

 原作の面白さに比べて、映画版の「ビブリア古書堂の事件手帖」は正直イマイチでした。しかし、黒木華という適役の女優を得た栞子の書物愛は見ていて心地良かったです。「万能の読書術」というサブタイトルがついた拙著『あらゆる本が面白く読める方法』(三五館)にも書きましたが、わたしは、本が好きで好きでたまりません。できれば、1冊の本を愛撫するかのごとく撫で回しながら、ゆっくりと味わいたいと思います。そして、読書する喜びという至上の幸福を取り戻したいと思います。
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あらゆる本が面白く読める方法(三五館)


 松岡正剛氏は「読書は編集」だと語っています。松岡氏に対抗して、わたしなりの概念を提示するとすれば、「読書は恋愛」だと考えています。まず、人は本を愛さなければいけない。そうすれば、本から愛されることもあるかもしれない。もちろん、片思いに終わることが多いでしょう。でも、愛情を傾ければ傾けるほど、読書の快楽は大きくなるはずです。本は読むだけのものじゃない。愛するものです。できれば、撫でまわし、匂いを嗅ぎ、頬ずりする。舐めることはしませんが(笑)、揉んだりはする(本気)。本を愛すれば愛するほど、読書は豊かになります。速読によって、「使える部分」だけを読むという読書だけではなく、こういう読書のかたちだって、当然あっていいのです。