No.390


 デンマーク映画「THE GUILTY/ギルティ」を観ました。電話からの声と音だけで誘拐事件を解決するというユニークな物語が評判となり、第34回サンダンス映画祭で観客賞を受賞するなど、数々の映画賞に輝いた話題作です。

 ヤフー映画の「解説」には、こう書かれています。
「主人公が電話の声と音を通して誘拐事件の解決を図ろうとする異色サスペンス。本作が長編初監督作となるグスタフ・モーラーが、緊急ダイヤルの通話を頼りに誘拐事件と向き合うオペレーターの奮闘を描く。ドラマシリーズ北欧サスペンス『凍てつく楽園』などのヤコブ・セーダーグレンが主人公を演じ、イェシカ・ディナウエ、ヨハン・オルセン、オマール・シャガウィーらが共演している」


 ヤフー映画の「あらすじ」は、以下の通りです。
「警察官のアスガー・ホルム(ヤコブ・セーダーグレン)はある事件を機に現場を離れ、緊急通報司令室のオペレーターとして勤務していた。交通事故の緊急搬送手配などをこなす毎日を送っていたある日、誘拐されている最中の女性から通報を受ける」


 この映画を観終わって、わたしは「これは、やられた!」と思いました。こんな複雑な感想を抱かせる映画もそうそうありません。一条真也の映画館「search/サーチ」で紹介したサスペンス・スリラー映画をちょっと連想しました。「search/サーチ」も「THE GUILTY/ギルティ」もわずかな手掛かりから犯罪者を探し出し、被害者の生命を救おうとする物語ですが、前者が100%パソコンの画面で物語が展開されるのに対して、後者は主人公が電話の声と音を通して誘拐事件の解決を図ろうとします。

「映画.com」で映画評論家の高橋諭治氏が「『THE GUILTY/ギルティ』緻密な"音"のスペクタクルが生み出す重層的なサスペンスとドラマ」というタイトルで、「言うまでもなく映画とは、映像と音によって成り立つ表現形態である。しかし俳優の演技や視覚効果といった直接スクリーンに映し出されるものに比べると、その場の状況や登場人物の感情をサポートする役目にとどまりがちな音について語られる機会は格段に少ない。デンマークの新人監督グスタフ・モーラーは、そんな私たちの目には見えない"音"の比重を格段に高め、それ自体が主役と言っても過言ではない斬新なクライム・スリラーを完成させた」と述べています。まさに、その通りというしかありません。

 "音"に焦点を当てたサスペンスといえば、
 一条真也の映画館「クワイエット・プレイス」で紹介したホラー&SF映画が思い起こされます。音に反応し人間を襲う何かが潜む世界で、"音"を立てずに生き延びようとする一家を映す物語ですが、映画における"音"の存在感というものを最大限に示した作品ということで、本作「THE GUILTY/ギルティ」にも通じるところが多々あります。

 主人公の警官アスガーは、日本で言うところの110番=緊急通報室のオペレーターです。相手の素性もわからないのに、電話相手の声だけを情報源として、さまざまな問題の解決に取り組んでいきます、わたしは、アスガーが困惑したり、焦燥したりする姿を見て、企業の電話オペレーターのことを考えました。わが社にもテレホン営業のスタッフ、お客様相談室のスタッフなどが日々、電話だけで多くの方々とコミュニケーションを取っていますが、彼らの苦労や悩みなどについて考えました。そして、彼らに対する感謝の念が湧いてきました。

 それにしても、電話のやりとりだけで、ここまで緊迫したサスペンス・ドラマが作れるとは驚きました。「デンマーク映画、おそるべし!」ですね。声優たちの演技も含め、「THE GUILTY/ギルティ」で緻密に設計された音が生み出すスペクタクルは映画史に残るものではないかと思います。日本語では「有罪」となるタイトルも非常に意味深でした。これ以上はネタバレになるので書けません。悪しからず。