No.448


 映画「ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密」を観ました。「007」シリーズでジェームズ・ボンドを演じているダニエル・クレイグが名探偵になったと話題の映画です。ストーリーそのものよりも遺産相続で醜く争う家族の姿を見て気が滅入りました。

 ヤフー映画の「解説」には、こう書かれています。
「『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』などのライアン・ジョンソン監督がメガホンを取ったミステリー。ニューヨーク郊外の大邸宅で起きた殺人事件をめぐり、くせ者の家族たちがだまし合う。『007』シリーズなどのダニエル・クレイグ、『アベンジャーズ』シリーズなどのキャプテン・アメリカでおなじみのクリス・エヴァンスをはじめ、ジェイミー・リー・カーティス、キース・スタンフィールド、クリストファー・プラマーらが出演」

 ヤフー映画の「あらすじ」は、以下の通りです。
「85歳の誕生日を迎えた世界的ミステリー作家のハーラン・スロンビー(クリストファー・プラマー)が、その翌日に遺体で見つかる。名探偵のブノワ・ブラン(ダニエル・クレイグ)は、匿名の依頼を受けて刑事と一緒に屋敷に出向く。ブランは殺人ではないかと考え、騒然とする家族を尻目に捜査を始める」

 物語は本格ミステリーを思わせる入り組んだ構造になっていますが、それほどミステリーに詳しくないわたしでも「ちょっとなあ・・・」と思えるような現実味の薄いトリックでした。ライアン・ジョンソン監督がアガサ・クリスティに捧げた作品だそうです。アガサ・クリスティといえば、直前に観た一条真也の映画館「9人の翻訳家 囚われたベストセラー」で紹介した映画のオチは、クリスティの代表作の1つと同じでしたね。ミステリー映画としては「9人の翻訳家 囚われたベストセラー」のほうが面白かったです。

「ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密」は、ストーリーの良し悪しというよりは、そこに描かれている家族間の骨肉の争いに胸が痛みました。「家族ほど難しい」「親子や兄弟でも、なかなか分かり合えない」というのは世の常ですが、お金が絡めば、ますます家族の関係はこじれます。遺産欲しさに、兄弟同士で罵り合い、ついには相手の人格まで完全否定するシーンを見て、そのあまりの醜さに虫唾が走りました。でも、わが子や孫たちが仲違いをするような遺言を残す故人の罪も大きいと思います。

「ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密」では、老ミステリー作家が莫大な財産を遺して亡くなりますが、その遺言をめぐって、家族が大揉めに揉めます。別にニューヨーク郊外でなくても、日本でもよくある話です。相続問題に強い弁護士検索サイト「相続弁護士相談Cafe」の「遺産相続トラブルが起こる9つの理由と対策方法」によれば、遺産相続で揉める理由は主に以下の9つだといいます。

(1)目録がなく、相続財産の内容が不透明

(2)遺産の使い込みを疑う

(3)隠し財産を疑う

(4)相続財産の多くが不動産

(5)生前贈与が行われている

(6)遺言の内容が偏っている

(7)同居と別居の立場をわかり合えない

(8)兄弟姉妹(相続人)の配偶者との不仲

(9)長男と他の兄弟の考え方が合わない

 同記事では、「相続トラブルを避けるための注意点」として、以下の3つを指摘しています。

●相続財産の内容を明らかにする

●偏った分け方をしない

●相続人らがお互いを信頼する

「家族葬」といった不思議なセレモニーも日本で流行していますが、一体、家族とは何なのでしょうね。「かけがえのない血縁」とか「家族の絆」といった言葉は聞こえはいいですが、ひとたびカネが絡めば、そんなものはどこかに吹っ飛んでしまう。かの孔子はそういった人間の本性を知り尽くしたうえで、親子愛としての「孝」とか兄弟愛としての「悌」といった思想を打ち出したのかもしれないなどと思います。「ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密」を観終えた後、『論語』が読みたくなりました。