No.449


 7日から公開されたホラー映画「アントラム/史上最も呪われた映画」を観ました。ネットではさんざん酷評されていますが、なかなか面白かったです。ただし、映画館はガラガラでした。小倉のシネコンの一番小さなシアターで鑑賞したのですが、わたしを含めて観客は2名しかいませんでした。だからこそ、内容以上に怖く感じたのですが(苦笑)。

 ヤフー映画の「解説」には、こう書かれています。
「長い間封じられてきた、1本の呪われた映画をめぐる衝撃のドキュメンタリー。行方がわからなかった映画『アントラム』を発見したことから始まる恐怖を映し出す。マイケル・ライシーニとデヴィッド・アミトが監督を務め、時間をかけて情報を収集した」

 ヤフー映画の「あらすじ」は以下の通りです。
「1970年代のアメリカ・カリフォルニア州で映画『アントラム』が撮影されたが、ずっとお蔵入りになっていた。この作品を観た者は不幸に見舞われるというジンクスのためだが、1988年にハンガリーのブダペストで初上映される。すると映画の上映中に火災が起きて映画館は焼失し、56人もの犠牲者を出す大惨事となる」

 40年間封印されてきた呪われた映画の全貌を明らかにするドキュメンタリーということですが、もちろん実話ではありません。上映館が焼失して56人の犠牲者を出した悲劇も含めて、すべてフィクションです。つまり、この映画はフェイクドキュメンタリーなのです。その点を指摘し、「これはドキュメンタリーではない」などと糾弾しているレビュアーもいますが、わたしは「おいおい、幼稚なことを言いなさんな」と言いたいです。それではプロレスを「格闘技ではない!」と怒るのと変わりがありません。「真剣勝負」を謳ったUWFが格闘技ではなくプロレスだったように、フェイクドキュメンタリーとはドキュメンタリーではなくフィクションです。それを理解した上で映画を楽しまないと!

 フェイクドキュメンタリーとは、架空の人物や事件といったフィクションを"ドキュメンタリータッチ"で描く映像作品です。「モキュメンタリー」などとも呼ばれます。擬似を意味する「モック」と、「ドキュメンタリー」のかばん語であり、「モックメンタリー」「モック・ドキュメンタリー」ともいいます。フェイクドキュメンタリーのジャンルの起源は明確には分かっていませんが、映像作品以前では1938年に放送され、オーソン・ウェルズによる実況中継風の演出が話題となったラジオドラマ「宇宙戦争」が有名です。

 映画では1950年代に登場していますが、なんといっても魔女伝説を扱った低予算映画「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」(1999年)の存在が大きいです。この映画は興行収入の面で大きな成功を収めました。依頼、フェイクドキュメンタリーは、アイデアさえあれば低予算であってもヒットを狙える作品として若手作家の登竜門となりました。
「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」以後も、ある家族に起こる怪奇現象を扱った「パラノーマル・アクティビィティ」(2007年)など、多くの作品が制作されています。

 日本では、白石晃士監督がフェイクドキュメンタリーの第一人者として知られています。白石監督は1973年生まれ、2005年「ノロイ」で劇場作品デビュー。以降、フェイクドキュメンタリーの手法を使った作風が評価され、2012年からリリースを開始したオリジナルビデオシリーズ「戦慄怪奇ファイル コワすぎ!」では、ホラー映画ファンを中心に大きく話題を集めました。また、劇場公開監督作としても多くの佐久本がありますが、わたしは「オカルト」(2008年)、「カルト」(2013年)、韓国との合作「ある優しき殺人者の記録」(2014年)などが傑作であると思っています。

 さて、そんなフェイクドキュメンタリーの「アントラム」ですが、40年の時間を経て、ドキュメンタリー映画作家のマイケル・ライシーニとデビッド・アミトが、長期間にわたる調査の結果、行方知らずだった「アントラム」の35ミリフィルムを発見したというストーリーです。2人は、新たに撮影された関係者、研究者たちの証言を交え、その封印を解くことを決意します。そして、「何が起きても、全ては見た人の自己責任」であるという"警告付き"で、ついに全世界に披露されることになったのでした。実際、日本の観客に対しても"くどい"くらいの警告が続いてから上映が開始されます。

 しかし、冒頭では、映画史における地獄や悪魔の描写がスクリーンに映し出され、これがなかなかオドロオドロしかったです。また、劇中映画の「アントラム」も子どもが地面を掘っていたら地獄に通じて悪魔が出てきたというストーリーはあまりにもお粗末ですが、全編が何とも言えない不気味な雰囲気に包まれており、観客を不安な気分にさせるという点では成功していると思いました。さらには、ネタバレにならないように書くと、この映画には悪魔主義者らしき2人組が登場するのですが、こいつらが超アブナい感じです。イカレタ野郎どもをよく描いていました。悪魔の姿をした焼却炉の造形も禍々しかったですし、この映画が本当に「呪われた映画」かどうかは知りませんが、やたらと不安をおぼえたり、不愉快になるシーンが満載で、「トラウマ映画」としては合格だと思います。

 さて、「アントラム/史上最も呪われた映画」は7日に公開されましたが、この日に公開されたホラー映画は他にもあります。ジャパニーズ・ホラーの「犬鳴村」です。これは福岡県に実在する「旧犬鳴トンネル」という心霊スポットであります。その先には「犬鳴村」と呼ばれる村があり、日本国憲法が適用されないエリアであるなどと噂されています。この恐怖の都市伝説がJホラー映画の第一人者である清水崇によって禁断の映画化されました。「アントラム/史上最も呪われた映画」と同じくネットでは酷評されていますが、わたしの好きな三吉彩花が主演なので、観てみようかな?