No.450


 ジャパニーズ・ホラーの最新作「犬鳴村」を観ました。
 一条真也の映画館「アントラム/史上最も呪われた映画」で紹介した映画と同じく7日公開の作品ですが、両作ともネットでは酷評されています。でも、それなりに面白かったです。

 ヤフー映画の「解説」には、こう書かれています。
「『呪怨』シリーズなどの清水崇監督が、福岡県の有名な心霊スポットを舞台に描くホラー。霊が見えるヒロインが、次々と発生する奇妙な出来事の真相を突き止めようと奔走する。主演を『ダンスウィズミー』などの三吉彩花が務める。『戦慄迷宮3D THE SHOCK LABYRINTH』『貞子3D2』などを手掛けてきた保坂大輔が清水監督と共同で脚本を担当した」

 ヤフー映画の「あらすじ」は、以下の通りです。
「臨床心理士の森田奏(三吉彩花)の周りで、不思議な出来事が起こる。奇妙なわらべ歌を歌う女性、行方不明になった兄弟など、彼らに共通するのは心霊スポット『犬鳴トンネル』だった。さらに突然亡くなった女性が、死ぬ間際にトンネルを抜けた後のことを話していた。奏は何があったのかを確かめるため、兄たちと一緒に犬鳴トンネルに向かう」

 同じ7日に公開されたホラー映画でも、一条真也の映画館「アントラム/史上最も呪われた映画」で紹介した作品はガラガラでした。小倉のシネコンの一番小さなシアターでもわたしを含めて2名しかいませんでした。だからこそ、このイカれたフェイクドキュメンタリーが内容以上に怖く感じたのですが(苦笑)、「犬鳴村」のほうは大盛況でしたね。小倉の別のシネコンの2番目に大きいシアターがほぼ満員でした。ただ、普段は映画館に足を運ばないと思しき観客も多く、上映中に喋る人や、やたらとスマホを発光させるようなマナーの悪い人もいて閉口しました。さらに、わたしは上映直後の暗いシアターに入ってきた人から足を踏まれました。相手は気づかなかったようなので、わたしが「あなた、わたしの足を踏みましたね」と低い声で言うと、「すみません」と謝っていましたけど。正直、満員状態の北九州の映画館は苦手です。

 それはともかく、映画「犬鳴村」はなかなか面白かったです。特に、冒頭のシーンは怖かったです。臨場感があって、極上の「お化け屋敷」を訪れたような体験でした。さすがは清水監督は「Jホラー」の第一人者ですね。「呪怨」シリーズを連想させる心霊描写はさすがで、「幽霊を描かせたら、天下一品!」という感じです。ただ、ラスト近くの登場するクリーチャー紛いの「犬女」はいただけませんでしたね。ハリウッドのB級映画を観ているもたいで、とにかく安っぽかったです。また、ストーリーの設定には難ありです。脚本も清水監督が手掛けていますが、村に焦点を当てなければいけないところを、いつの間にか家系に焦点が移ってしまい、ブレてしまいました。せっかく時空を超越したSF的なオチを見せたのに、ラストで奏の顔が一変する演出でブチ壊し。おそらくはマイケル・ジャクソンの「スリラー」のPVへのオマージュだと思いますが、あれでは「まだ呪いが続いているのか?」と観客に思わせて困惑させてしまい、なんとも中途半端な終わり方でした。

 主人公が臨床心理士である点、YouTuberが心霊スポットの動画を撮影したことが物語の発端となる点などは、一条真也の映画館「貞子」で紹介した映画と共通しています。「リング」シリーズの中田秀夫監督の作品ですが、清水監督とともに「Jホラー」の両巨頭として知られていますね。この「犬鳴村」では「水」が重要な役割を果たし、溺死する犠牲者が続出します。このあたりは中田監督の「リング」(1998年)、「仄暗い水の底から」(2002年)を連想しました。また、「犬鳴村」では少年の母親役として奥菜恵が出演していましたが、彼女が初めてホラー映画の主演を務めた「弟切草」(2001年)や清水監督の代表作である「呪怨」(2003年)を思い出して、懐かしかったですね。

「呪怨」での奥菜恵の絶叫演技は見事で、「和製ホラー・クイーン」の貫禄さえ感じました。今回の「犬鳴村」の主演女優である三吉彩花も悪くはなかったのですが、どうにもこういうホラー映画のスクリーンで見るには違和感もおぼえました。やはりモデル並みにスタイルが良すぎるので、ストーリーよりも彼女の容姿の方に注意が行ってしまいます。一条真也の映画館「ダンスウイズミー」で紹介した彼女の主演映画も、この「犬鳴村」も、演技そのものは下手ではなく、「熱演」と呼べるレベルなのですが、どうも彼女向きの作品ではないような気がしてならないのはわたし1人でしょうか? 素晴らしい逸材ではありますので、女優としてのこれからの活躍に期待したいです。

 ところで、この「犬鳴村」という映画、当初はあまり観たいとは思いませんでした。というのも、実在の場所を舞台とした物語は良くないと思っているからです。なぜなら、その場所に住む人々への偏見を生み、差別を助長する危険性があるからです。横溝正史の探偵小説を映画化した作品にもそのような側面がありますが、金田一耕助が訪れるのはいずれも山奥とか離れ島のような辺境でした。しかし、映画「犬鳴村」の舞台は、福岡市や北九州市の両政令指定都市から近い福岡県宮若市と同県糟屋郡久山町との境を跨ぐ「犬鳴峠」です。

 犬鳴峠とはいかなる場所か?Wikipedia「犬鳴峠」の「概要」には、「犬鳴峠という名前は側に位置する犬鳴山から来ている。由来は諸説あり、文献『犬鳴山古実』には『この山を犬啼と呼ぶのは谷の入口には久原へ越える道筋に滝があり、昔 狼が滝に行き着いたが、上に登れないことを悲しんで鳴いていた』と記されている。他にもこの犬鳴山はとても深いため、犬でも越えることが難しく泣き叫んだため犬鳴山と命名された説がある。他にも、律令時代に稲置(いなぎ)の境界線に位置していたことから、次第に『いんなき』と変化していった説がある。筑前方言で犬は『イン』と呼ぶため、『インナキとうげ』とも呼ばれる」と書かれています。

 また、Wikipedia「犬鳴峠」の「犬鳴村伝説」には、「旧犬鳴トンネル近くに、法治が及ばない恐ろしい集落『犬鳴村』があり、そこに立ち入ったものは生きては戻れない」という都市伝説であるとして、こう書かれています。
「この都市伝説に関しては諸説あるが、概ね以下の内容である。トンネルの前に『白のセダンは迂回してください』という看板が立てられている。日本の行政記録や地図から完全に抹消されている。村の入り口に『この先、日本国憲法は適用しません』という看板がある。江戸時代以前より、激しい差別を受けてきたため、村人は外部との交流を一切拒み、自給自足の生活をしている。近親交配が続いているとされる場合もある。入り口から少し進んだところに広場があり、ボロボロのセダンが置いてある。またその先にある小屋には、骸が山積みにされている。旧道の犬鳴トンネルには柵があり、乗り越えたところに紐と缶の仕掛けが施されていて、引っ掛かると大きな音が鳴り、斧を持った村人が駆けつける。『村人は異常に足が速い』と続く場合もある。全てのメーカーの携帯電話が『圏外』となり使用不能となる。また近くのコンビニエンスストアにある公衆電話は警察に通じない。若いカップルが面白半分で犬鳴村に入り、惨殺された」
 もちろん、以上の伝説はすべて事実ではありません。

 いずれにせよ、このような馬鹿げた都市伝説に基づいた「犬鳴村」というホラー映画を犬鳴峠の周辺に住む方々が観たらどんな気分になるでしょうか。映画化によって差別・いじめなどの問題は起こらないのでしょうか。本気で心配になります。この映画、やたらと「実在の最凶心霊スポット、映画化」などと煽っていますが、映画の中で「この映画に登場する場所は実在の場歩とは一切関係ありません」というテロップぐらい流すべきではないでしょうか。それが映画の舞台にされた場所への「礼」であると思います。

 最後に、あいかわらず新型コロナウイルスが猛威を奮っています。8日、中国政府は、湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルスによる肺炎で、同日午前0時(日本時間同1時)時点の死者は722人、感染者は3万4546人に増えたと発表しました。新型肺炎の死者数は、2002~03年に大流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)の全世界の死者774人に迫る勢いですが、近日中に確実にSARSを抜くでしょう。この日、「犬鳴村」を鑑賞した映画館の観客のマナーが悪かったことはすでに書きましたが、一番嫌だったのは、マスクもしないでやたらと咳をする老人が近くにいたことでした。それも尋常ではなく、上映中ずっと咳をしているのです。どんなホラー映画よりも、これが最高に怖かったですね。もちろん、わたしはマスクを装着していました。