No.407
日本映画「貞子」を観ました。正直、「今さら、貞子?」と思いましたが、「令和の時代にふさわしい貞子に会えるのだろう」と期待して観たのですが、これが大ハズレ。怖くもないし、面白くもない駄作でした。監督が「リング」シリーズの中田秀夫だったので期待したのですが、残念です。
ヤフー映画の「解説」には、こう書かれています。
「鈴木光司のベストセラー小説『リング』シリーズの一つ『タイド』を原作にしたホラー。記憶を失ってしまった少女と向き合う心理カウンセラーの女性が怪現象に見舞われる。メガホンを取るのは、『リング』シリーズや『スマホを落としただけなのに』などの中田秀夫。『映画 みんな!エスパーだよ!』『一礼して、キス』などの池田エライザがヒロインを演じる」
ヤフー映画の「あらすじ」は、以下の通りです。
「心理カウンセラーである茉優(池田エライザ)の勤め先に、警察に保護された少女が入院してくる。記憶を失い名前も言えない彼女のカウンセリングにあたる茉優だが、周囲で奇怪な現象が頻発する。同じころ、茉優の弟で動画クリエイターの和真(清水尋也)は、アップロードした映像の再生回数が伸びないことに焦りを感じていた。そこで、死者5人を出した火災の起きた団地に侵入し、心霊動画を撮ろうとする」
貞子といえば、日本が誇るホラー・アイコンでしたが、初登場した「リング」が1998年の公開なので、もう21年が経過したことになります。その間、貞子は世界的に有名になり、ハリウッドでリメイクされ、3D化され、ついには一条真也の映画館「貞子vs伽椰子」で紹介した映画で「呪怨」シリーズの伽椰子&俊雄と闘う始末でした。その活躍ぶりは、日本発の世界的キャラクターとして、かのゴジラさえも連想させたほどでした。さらにはプロ野球の始球式にも登場し、すっかり怖くなくなってバラエティ・キャラと化した貞子を、中田監督は本来の恐怖の対象に戻そうとしたようです。
『よくわかる「世界の怪人」事典』(廣済堂文庫)
もともと、貞子とは何か。わたしが監修した『よくわかる「世界の怪人」事典』(廣済堂文庫)には、「井戸の奥に潜む腐乱した女」「長い髪を垂らして迫る女の怨念」として、以下のように書かれています。
「ビデオを見たものは1週間後に死ぬ――呪いのテープにこめられた怨念か、テレビ画面から女がはい出す。白いワンピースに顔を覆うほどの長い黒髪。そして、彼女の素顔を見たものは、衝撃のあまりおぞましい形相のまま死んでゆく」
『よくわかる「世界の怪人」事典』より
「彼女は千里眼の能力をもつ山村志津子を母とし、伊豆大島の差木地で生まれた。18歳のときに入団した劇団でイジメを受けた貞子は、団員を呪い殺し、父の入院していた病院の井戸に父の担当医によって突き落とされる。この絶望の底で、母から受け継いだ魔力を使って怨念をビデオテープに念写したのだ。しかも貞子は、転落してから30年間、井戸の奥で腐乱状態のまま生きていたとされる。ちなみに、映画と異なり原作では、貞子は性別の判断がむずかしい半陰陽だった。また、怨霊と化す前は肌の白い長身の美少女であったという」
このように貞子はもともと、ものすごく怖い怨霊でした。日本の歴史を見ても、かの『四谷怪談』のお岩と並ぶ存在と言ってもいいでしょう。井戸の中から出てくる怨霊という意味では、『番町皿屋敷』のお菊に通じますが......いずれにしろ、貞子はいかにも日本人好みのホラー・アイコンだったのです。「リング」で真田広之演じる主人公の前にテレビのブラウン管から初めて出てきた貞子は本当に怖かった!
今回の「貞子」の興味は、昭和の時代にビデオテープに宿り、テレビのブラウン管から出てきた貞子が令和になってどのようにアップデートを果たしたかです。池田エライザ演じる主人公の弟がユーチューバーで動画撮影中に貞子に憑かれたり、その動画が炎上したり削除されたり、それを主人公がスマホやタブレットで観たりと、現代風の味付けは一応されていましたが、なんか取ってつけたような安っぽさを感じましねたね。
貞子を恐怖の対象に戻すという試みは、今回は失敗だったと思います。ストーリーもビジュアルもショボかったです。むしろ、白石晃士が監督した「貞子vs伽椰子」のほうが怖い貞子を再生させることに成功したのではないでしょうか。ちなみに、「貞子」にはライザップでスリムになった佐藤仁美が出演していますが、彼女は貞子を目撃した生存者という設定でした。じつは、中田秀夫が監督した「リング」「リング2」にも佐藤仁美は出演していたのです。きっと、本作が過去の2作と同じ時間軸上にあると主張したかったのでしょう。
主演の池田エライザは悪くなかったです。悪くはないのですが、いかんせんシナリオが悪かったですね。本当は彼女が少女に対して示したような優しさを貞子に対しても示していれば、「シックス・センス」のような仏教的世界観を持つホラー映画となったかもしれません。まあ、相手がいくら慈悲深くても容赦しないのが貞子かもしれませんが......。池田エライザといえば、一条真也の読書館「ルームロンダリング」で紹介した作品にも霊が登場しましたが、あれはなかなかハートフルな心霊映画でしたね。