No.465


 新型コロナウイルスの猛威が衰えません。
 世界での感染者が200万人、死者は15万人を超えました。しかし、医療施設の乏しいアフリカで何も対策が講じられなかった場合、人口約13億人のアフリカ地域で、年内に12億人以上が感染、330万人が死亡すると予想されています。各国が厳しい感染拡大抑制策を実施する最善のシナリオの下でも、1億2280万人が感染、30万人が死亡するといいます。そのアフリカで発生した非常に致死性の高いウイルスによる未曾有の「バイオハザード(微生物災害)」に立ち向かう人々を描いたパニック映画「アウトブレイク」(1995年)をDVDで観ました。

「アウトブレイク(Outbreak)」とは、疫学用語の1つです。医学・医療の分野において悪疫(たちの悪い疾病)・感染症の突発的発生を意味します。通例、感染症に対して用います。一条真也の映画館「コンテイジョン」で紹介したウイルス感染パニック映画では、新種のウイルスの致死率が20~30%に設定されていました。それに比べて、ウォルフガング・ペーターゼン監督の「アウトブレイク」では、エボラ出血熱を連想させる致死率100%の究極の殺人ウイルスが引き起こすパニックを描きます。現在の新型コロナウイルスの感染拡大とシンクロする「コンテイジョン」のリアリズムに比べて、この「アウトブレイク」では、活劇調のスリルも込められており、ドラマ性を重視した印象が強いですね。映画の中では、目に見えないウイルスが人から人へ空気感染する瞬間の視覚化まで試みていました。

 ヤフー映画の「解説」には、こう書かれています。
「アフリカ奥地で発生した未知の伝染病がアメリカに接近。厳戒の防護措置が取られるもウィルスはとある地方都市に侵入! 街は完全に隔離され、米陸軍伝染病研究所はウィルスの謎を懸命に解き明かそうとするが・・・・・・。エボラ出血熱を遥かに凌ぐ致死性を持つウィルスの恐怖と、それに立ち向かう人々の姿を描いたパニック・スリラー」

 Wikipedia「アウトブレイク」の「ストーリー」には、以下のように書かれています。
「1967年。ザイールのモターバ川流域で内戦に参加していた傭兵部隊に原因不明の出血熱が流行し、多数の死者を出した。調査の為に現地を訪れたアメリカ陸軍は想像以上の感染に驚き、感染者の血液を採取した後、隠蔽のため部隊のキャンプを燃料気化爆弾の投下で壊滅させる。時は流れ、モターバ川流域の小さな村で未知のウイルスによる出血熱が発生する。兵士を伝染病等から守る"医学防衛"を任務とするアメリカ陸軍所属の研究機関『アメリカ陸軍感染症医学研究所(United States Army Medical Research Institute of Infectious Diseases:USAMRIID(ユーサムリッド))』のLEBEL4(最高警戒度)研究チームを率いるサム・ダニエルズ軍医大佐がビリー・フォード准将の命令で現地に赴くも時既に遅く、村の医師と村から離れて暮らしていた祈祷師を除いて村は全滅状態となっていた。空気感染は無いとしながらも、ダニエルズはウイルスの致死率の高さと感染者を死に至らしめるスピードの早さに危機感を抱き、軍上層部と『アメリカ疾病予防管理センター(The Centers for Disease Control and Prevention:CDC)』に勤務する元妻のロビー・キーオに警戒通達の発令を要請するが、双方から却下されてしまう。喧嘩別れしたロビーはともかく、軍上層部の反応にダニエルズは不審を抱く」

 続けて、「ストーリー」には、こう書かれています。
「そんな折、アフリカから1匹のサルがアメリカに密輸入された。密売人のジンボはカリフォルニア州沿岸の田舎町シーダー・クリークのペットショップに売りつけようとするが失敗し、持て余したサルを森に放す。その後、サルを輸送している最中に飲んでいた水を顔にかけられたジンボと、彼とキスをしたジンボの恋人アリス、サルに腕を引っかかれたペットショップの店長ルディーらが次々とモターバ熱を発症し死亡する。更に、不注意でルディーの血液を浴びた血液検査技師ヘンリーが恋人と町の映画館へ行ったのを機に、飛沫感染によって『アウトブレイク(爆発的な感染)』が始まってしまう。上層部のドナルド・マクリントック少将とフォード准将は、この伝染病が以前モターバ川流域で派生した伝染病と同じであることに気づく。かつて患者を救うどころか抹殺して持ち帰った血液は、マクリントックの指示によって、医師でもあるフォードも絡んで密かに細菌兵器として保管されており、血清も作られていた。正義感の強いダニエルズに細菌兵器の存在を知られる事を恐れて彼を今回の伝染病対策から外したフォード達だが、人命優先のダニエルズは命令を無視して密かに部下と共にシーダー・クリークへ飛び、ロビー率いるCDCのチームと協力して治療法の研究と感染ルートの特定を進める」

 さらに、「ストーリー」には、こう書かれています。
「その最中、宿主のサルが食べていたバナナを盗み食いして感染した別のサルが、軍から運び込まれた医薬品によって回復する。ダニエルズは既に血清が作られていたことと細菌兵器にされたモターバ・ウイルスの存在に気がつくが、空気感染するウイルスに変異した伝染病には血清が効かなかった。更に調査を進めると、空気感染しないアフリカン・モターバも変異して空気感染するようになったヤンキー・モターバも、共にアメリカに持ち込まれた宿主が保菌しているという結論に行きつく。その矢先、ダニエルズの友人でもあるケイシー・シュラー中佐が不慮の事故で感染・死亡して、ロビーも彼から採血する際に偶然注射針で指を刺し感染してしまう。彼女が発症する前に血清を完成させようと奔走するダニエルズは、部下のソルト少佐と2人で陸軍のヘリを盗み、感染源の調査を続ける。一方、マクリントックは細菌兵器の存在を隠し通すために策謀を巡らせ、モターバ川流域で傭兵部隊のキャンプを焼き払った時のように、燃料気化爆弾を搭載した爆撃機を差し向ける」

 そして、「ストーリー」には、こう書かれているのでした。
「宿主であるサルが森に逃がされた事も突き止めたダニエルズらは、軍からの追っ手を振り切りつつサルを捕獲、アフリカン・モターバ用の血清をベースとして、ヤンキー・モターバ用の血清を合成する。ロビーへの臨床試験も成功し、治療の目処が立ったが、爆撃機はもう目前まで迫っていた。ダニエルズとソルトはヘリで爆撃機の進路を阻みつつ、無線通信で爆撃機の操縦士に作戦中止を懇願するも、最終的には爆弾が投下される。あわや住民達も新しい血清も灰燼に帰するかに思われたが、爆弾はシーダー・クリークから大きく逸れ、沖合で炸裂する。操縦士達は歪んだ軍命に従うよりも人命を救うことを選び、風で流されたように見せかけて狙いを外したのだ。そして、フォードも人間として行動することを選択しマクリントックを逮捕、ダニエルズは快方に向かうロビーと共に新たな人生を踏み出すのであった」

 この映画に登場する「モターバ・ウイルス」は、感染が確認された村の近くを流れる「モターバ川」に由来する架空のウイルスですが、その殺傷力はすさまじいです。高熱、下痢、全身や消化管からの出血などエボラ出血熱に似た症状を引き起こし、ウイルスの形状もエボラと似ています。体内に侵入すると驚異的なスピードで増殖を行い、内臓を融解させます。そして、感染者を数日で死に至らしめるわけですが、致死率は100%という究極の殺人ウイルスです。そんなウイルスと果敢に戦うダスティン・ホフマン演じるサム・ダニエルズ大佐、レネ・ルッソ演じるロビー・キーオ、そしてゼイクス・モカエ演じるベンジャミン・アイワビ医師をはじめとした医療関係者の奮闘には感動をおぼえます。 現在の新型コロナウイルスの感染者治療においても世界中の医療関係者の方々が大活躍されており、多くの人々が心からの感謝の気持ちを示しています。

 エボラ出血熱の流行にインスパイアされたことが明らかな「アウトブレイク」では、森林伐採という環境破壊もテーマとなっています。『感染症の世界史』石弘之著(角川ソフィア文庫)には、映画「アウトブレイク」にも言及して、以下のように書かれています。 「過去のエボラ出血熱の流行の大部分は熱帯林内の集落で発生した。だが、ギニアの奥地でも人口の急増で森林が伐採されて集落や農地が広がってきた。森林の奥深くでひっそり暮らしていたオオコウモリが、生息地の破壊で追い出されてエボラ出血熱ウイルスをばらまいたのかもしれない。映画『アウトブレイク』のなかで、アフリカの呪術師のこんな言葉が引用されている。『本来人が近づくべきでない場所で人が木々を切り倒したために、目を覚ました神々が怒って罰として病気を与えた』」

 エボラ出血熱の流行は大規模な自然破壊の直後に発生することが多いとして、石氏は以下のように述べています。
「近年は中国が西アフリカの地下資源開発に巨額な投資をしており、採掘、搬出道路、労働者の宿舎などのために森林破壊が加速している。エボラ出血熱が流行している西アフリカだけで2万人を超える中国人が働いている。中国は2009年に米国を抜いて、アフリカの最大の貿易国になった。アフリカからの輸出の9割が原油や木材などの天然資源だ。エボラウイルスの発見者の1人であるロンドン大学のピーター・ピオット教授は、アフリカとの濃密な関係を考えると、エボラウイルスがいつ中国に持ち込まれてもおかしくない、と断言する。その結果起こる大流行は、想像するだけで背筋が寒くなる。この結果、開発は野生動物が残された森林地帯に集中するようになった。ゴリラやチンパンジーは、生息頭数は大幅に減っているのに、生息密度は上がっている。そのうえ、この一帯では農村から都市部への人の動きが激しくなり、ウイルスの封じ込めは困難になっている」

 中国といえば、大気汚染大国として知られています。大気汚染は森林伐採と並ぶ重大な環境問題ですが、新型コロナウイルスの感染拡大で中国の大気汚染が劇的に改善されていることがわかりました。これまで中国は大気汚染対策に力を入れてきましたが、依然として世界の中で最悪級にランクされていました。世界保健機関(WHO)の推計では、汚染された大気に含まれる微小粒子状物質のために死亡する人は年間およそ700万人に上りました。しかし、米スタンフォード大学の研究者は、中国が新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために打ち出した厳重な対策のおかげで大気汚染が改善され、5万~7万5000人が早死にリスクから救われた可能性があるという推計をまとめたのです。この推計は同大学のマーシャル・バーク准教授が、社会と環境の関係をテーマとする学術サイトの「G―Feed」に発表したものですが、「大気汚染の減少によって中国で救われた命は、同国で今回のウイルス感染のために失われた命の20倍に上る可能性が大きい」と指摘しています。
 こうなると、ウイルスの発生および感染拡大とは「地球の逆襲」ではないのかとも思えてきますね。

  • 販売元:ワーナー・ホーム・ビデオ
  • 発売日:2010/04/21
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