No.500


 

 九州が記録的な大雪に見舞われた夜、家から出ることができないわたしは、書斎で何か映画のDVDでも観ようかと思いました。すると、「一条真也の映画館」があと1回で、ちょうど500回目になることに気づきました。それなら、わたしの一番好きな作品を再鑑賞して記念すべき500回目を迎えたいと思い、映画史上に燦然と輝く名作である「風と共に去りぬ」を観ました。何度観ても、感動してしまいます!



 ヤフー映画の「解説」には、「1939年に製作され、アカデミー賞主演女優賞を始め10部門に輝いた不朽の名作。大富豪の令嬢スカーレット・オハラが、愛や戦争に翻弄されながらも、力強く生き抜く姿を描く。66年の歳月を経てデジタル・ニューマスター版となった本作は、最新の技術により当時の鮮明な映像を再現することに成功した。ヒロインを演じたヴィヴィアン・リーのチャームポイントであるグリーンの瞳が、より一層魅力的に輝いている」とあります。

 ヤフー映画の「あらすじ」は、「南北戦争勃発寸前のアメリカ。南部の大富豪の娘にして、絶世の美女スカーレット・オハラは、名家の御曹司アシュレー(レスリー・ハワード)に思いを寄せていた。しかし、彼が別の女性と結婚するといううわさを聞いてしまい、嫉妬からとんでもない行動を取ってしまう」です。

 わたしは、小学6年生のときに『風と共に去りぬ』と出合いました。本よりも映画との出合いのほうが先で、1975年10月にテレビの「水曜ロードショー」で2週にわたって放映された「風と共に去りぬ」を観たのです。新聞のテレビ欄を見ていた母が「テレビで『風と共に去りぬ』が放送される。すごいね!」と言っていた記憶があります。普段は夜遅くまでテレビを観ることは許されないのに、その日の夜は母と一緒に「風と共に去りぬ」を観たのでした。主役のスカーレット・オハラを演じたヴィヴィアン・リーの美しさに子ども心に一目惚れしたわたしは、「将来、この人に似た女性と結婚したい!」と思いました。

 すっかり「風と共に去りぬ」とヴィヴィアン・リーの虜になってしまったわたしは、少しでも関連情報を得たくて、「スクリーン」や「ロードショー」といった映画雑誌の定期購読を始めました。映画音楽のLPの全集なども買いましたね。そして、雑誌で紹介されているブロマイドやスチール写真の通販を買い求め、ついにはレット・バトラー(クラーク・ゲーブル)とスカーレットが抱き合っている巨大パネルを購入して勉強部屋に飾っていました。ずいぶんマセた小学生でしたが、このパネル、なんとわたしが結婚したしたときに寝室にも飾ったのです。幼かった長女がその写真を見て、「パパとママだ!」と言っていたことが思い出されます。わたしの妻が本当にヴィヴィアン・リーに似ていたかどうかは秘密です。(笑)
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「サンデー毎日」2016年10月9日号



 さて、「水曜ロードショー」では、ヴィヴィアン・リーの吹き替えを栗原小巻さんが担当したが、ラストシーンの「明日に希望を託して」というセリフが子ども心に深く残りました。原作では"Tomorrow is another day."というセリフですが、訳書では「明日は明日の風が吹く」と訳していました。それをテレビでは「明日に希望を託して」というセリフに変えて、栗原さんが力強く言い放ったのです。わたしは非常に感動し、わが座右の銘となったのでした。「風と共に去りぬ」をリアルタイムで上映した小倉昭和館の77周年祝賀会で、栗原小巻さんにお会いしました。わたしは、栗原さんに少年時代の感動のお礼を申し上げました。栗原さんは、とても喜んで下さいました。まことに至福の時間となりました。

 わたしが小学6年生のときに感動したスカーレットの最後のセリフについて、一条真也の読書館『謎解き『風と共に去りぬ』で紹介した名著の中で、著者の鴻巣友季子氏が以下のように述べています。
「Tomorrow is another day.はもともと16世紀前半まで起源を遡る諺のようなもので、原型は Tomorrow is a new day.だった。スカーレット・オハラの『口癖』であり、彼女は絶体絶命のピンチに陥るたびに、これを『おまじない』のように唱える。そう、口癖なので、むしろラストシーンらしい華々しい決め台詞的な訳語は似合わない。なのに、つい決め台詞らしく訳してしまうのは、いろいろな要素が関係しているだろう。全編を単独で訳すか、一貫したポリシーをもってチェックしないかぎり、このシンプルな台詞がヒロインの口癖だと気づきにくいのだと思う。同様に、レット・バトラーの有名な台詞"I don′t give a damn."(どうでもいいね)も彼がよく使う言い回しである。これは、わたし自身も全編を訳してみて初めてわかったことだ」

 "Tomorrow is another day."について、さらに鴻巣氏は「スカーレットはこのおまじないを唱えて、何度となく危機を乗り越えていく。そのため、映画や舞台では『明日に希望を託しましょう』などと前向きに訳されたこともある。実際、16世紀に登場したこの英語の諺には、『今日うまく行かなくても明日には好転するかもしれない』という励ましがある。とはいえ、その根底には、むしろネガティヴなキリスト教的ニヒリズムがないだろうか? 日本語でネガティヴというと悪い意味にとられそうだが、『後ろ向き』『否定的』というより、『受動的』と訳したらいいだろうか」と述べます。
 ちなみに、このフレーズと同様の意味をもつ、あるいはその下地と考えられている文言に、『新約聖書』の「マタイ福音書」の6:34、Take therefore no thought for the morrow:for the morrow shall take thought for the things of itself.があります。「明日のことは思い悩むな。明日のことは明日が考える」という意味です。感動のセリフのルーツは、なんと「マタイ福音書」にあったのですね!

 テレビで映画「風と共に去りぬ」を観た後、マーガレット・ミッチェルの原作小説も買いました。小倉の金山堂書店(現在は「資さんうどん」の場所にありました)で河出書房新社から出ていたソフトカバーの3巻本を買いました。表紙にはヴィヴィアン・リー演じるスカーレットの写真をはじめ、映画のスチール写真が使われていました。戦後翻訳界の第一人者であった大久保康雄の訳でしたが、やはり小学生には難しく苦戦しました。それでも、1カ月くらいかけて3巻本を読破した記憶があります。海外文学の長編を読み通したのも、それが初体験だったと思います。

 さて、一条真也の新ハートフル・ブログ「『1939年映画祭』のお知らせ」で紹介したように、2019年は、わが社のセレモニーホールで画期的なイベントを開催しました。 ブログ「友引映画館」で紹介したように、わが社は互助会の会員様や高齢者の方向けに無料の映画上映会を行ってきましたが、ついに映画史に残る三大名作を上映。

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 1939年は映画史における奇跡の年でした。西部劇の最高傑作「駅馬車」、ラブロマンスの最高傑作「風と共に去りぬ」、そしてミュージカルおよびファンタジー映画の最高傑作「オズの魔法使い」の3本が誕生したからです。その3つは、すべて、その年のアカデミー賞を受賞しています。そして、それぞれが現代作品にも多大な影響を与え続ける、名作中の名作たちが今年で製作80周年を迎えました。この3作を愛してやまないわたしは、2019年にわが社のコミュニティセンターの施設数が80となったことを機として、「1939年映画祭」を開催することにしたのです。
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本日の看板の前で



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上映会場となる大ホールの前で



 2019年10月31日は、ハロウィンの日でもありましたが、そんな若者のお祭り騒ぎとは無縁の高齢者の方々が小倉紫雲閣の大スクリーンで「風と共に去りぬ」を楽しまれました。「風と共に去りぬ」は、わたしが生まれて初めて観た本格的長篇映画であり、わたしにとって歴代ベスト1の名作です。f:id:shins2m:20191031181132j:plain

おかげさまで満員になりました!



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「1939年映画祭」のオープニングロゴ



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主催者挨拶をしました



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ご来場いただき、ありがとうございます!



 上映に先立って、主催者挨拶があり、わたしが登壇しました。わたしは、超満員の観客席に向かって一礼してから、以下のように挨拶しました。
「みなさん、こんばんは。本日は、友引映画館へご来場いただき、ありがとうございます。映画上映に先立ちまして、わたしどもサンレーがこの映画上映会を行っている理由を簡単にご説明いたします。サンレーでは日ごろお世話になっている地域の皆さまに対し、社会貢献として少しでも還元する意味で、各地にあるセレモニーホール紫雲閣を葬儀だけでなく、趣味の会などの行事にも活用できるように無料開放しております。本日の映画上映会もその一つで、葬儀が行われることが比較的少ない友引の日に主に実施するということで2018年7月に始まりました」f:id:shins2m:20191031173056j:plain
これから「風と共に去りぬ」を上映します!



 また、わたしは以下のように述べました。
「今月から12月にかけて合計8回上映するのは、いずれも1939年のアカデミー賞を受賞した、西部劇の『駅馬車』、ラブロマンスの『風と共に去りぬ』、ミュージカルの『オズの魔法使』の3本です。3つの作品とも制作されて80年となりますが、ちょうどわたしどもの紫雲閣の数がこの度全国80カ所に達したのを記念し、いわば『末広がり』の80つながりで開催することにいたしました」
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どうぞ、最後までお楽しみください!



 さらに、わたしは以下のように述べました。
「本日の上映作品は、『風と共に去りぬ』ですが、この作品は上映時間が3時間40分余りの大作でございますので、間に一度15分程度のトイレ休憩の時間を挟んで上映いたします。どうぞ自由な席にお座りいただき、大きなスクリーンで映画館の感覚を味わっていただければと思います。『風と共に去りぬ』はわたしが一番好きな映画です。わたし自身、とても楽しみにしています。どうぞ、最後までお楽しみください!」

 繰り返しになりますが、わたしが初めてテレビで観た本格的な長編映画が「風と共に去りぬ」でした。それまでTVドラマは観たことがあっても、映画それも洋画を観るのは生まれて初めてであり、新鮮でした。まず思ったのが「よく人が死ぬなあ」ということ。南北戦争で多くの兵士が死に、スカーレットの最初の夫が死に、二人目の夫も死に、親友のメラニーも死ぬ。特に印象的だったのが、スカーレットとレットとの間に生まれた娘ボニーが落馬事故で死んだことです。わたしは「映画というのは、こんな小さな女の子まで死なせるのか」と呆然としたことを記憶しています。
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明日に希望を託して!



 このように、わたしは人生で最初に鑑賞した映画である「風と共に去りぬ」によって、「人間とは死ぬものだ」という真実を知ったのです。多くの愛する人を亡くしたスカーレットは、最後には最愛のレットにも去られますが、深い悲しみの中で「明日に希望を託して」と宣言します。わたしは、「風と共に去りぬ」とは大いなるグリーフケアの物語であったことに今更ながら気づきました。そして、無性に感動しました。
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大いなるグリーフケアの物語



 逆に、「スクリーンの中で人は永遠に生き続ける」と思ったこともありました。中学時代、北九州の黒崎ロキシーという映画館で「風と共に去りぬ」がリバイバル上映されたことがあります。狂喜したわたしは、勇んで小倉から黒崎まで出かけ、この名作をスクリーンで鑑賞するという悲願を達成したのです。そのとき、スクリーン上のヴィヴィアン・リーの表情があまりにも生き生きとしていて、わたしは「ヴィヴィアン・リーは今も生きている!」という直感を得ました。
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ヴィヴィアン・リーは今も生きている!



 

 特に、彼女の二人目の夫やアシュレーがKKKに参加して黒人の集落を襲っているとき、女たちは家で留守番をしているシーンを観たときに強くそれを感じました。椅子に座って編み物をしているヴィヴィアン・リーの顔が大写しになり、眼球に浮かんだ血管までよく見えました。それはもう、目の前にいるどんな人間よりも「生きている」という感じがしたのです。f:id:shins2m:20160908133140j:image

死を乗り越える映画ガイド』(現代書林)



 それを観ながら、わたしは「こんなに生命感にあふれた彼女が実際はもうこの世にいないなんて」と不思議で仕方がありませんでした。拙著『死を乗り越える映画ガイド』(現代書林)の中で展開した「映画は不死のメディア」という考えは、このときに生まれたのかもしれません。
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感動しました!



 黒崎ロキシーで初めてスクリーンで「風と共に去りぬ」を観た時も感動しましたが、それから40年後、わが小倉紫雲閣の大スクリーンで「風と共に去りぬ」を観ることができ、本当に感無量でした。現在、新型コロナウイルスの感染拡大防止のために「友引映画館」はお休みしていますが、コロナが落ち着いたら、また感動の名画を続々と上映していく予定です。無料ですので、よろしければ、ぜひお越し下さい!
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「西日本新聞」2019年12月3日朝刊



 アメリカで人種差別撲滅のための「Black Linves Matter」運動が続く中、昨年6月に映画「風と共に去りぬ」がストリーミングサービス「HBO Max」の配信ラインナップから削除されたことが話題を呼びました。問題視された理由は「奴隷制を肯定的に描いたり」「南部戦争以前の南部を賛美したり」しているからだといわれていますが、それでも、わたしは「風と共に去りぬ」が映画史に残る不朽の名作であることに変わりはないと思います。もちろん黒人差別は絶対悪ですが、政治と芸術は別であり、現代の政治運動が歴史的名作を抹殺することはあってはなりません。

「風と共に去りぬ」こそは、わたしに映画の楽しさ、素晴らしさを教えてくれた究極の作品であり、これからも死ぬまで何度も観直すことでしょう。最後に、現在、世界中で猛威を振るっている新型コロナウイルスが風と共に去ってくれることを願ってやみません。
I hope covid-19 will go away with the wind!
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わたしの所蔵しているスペシャルDVD

  • 販売元:ワーナー・ホーム・ビデオ
  • 発売日:2004/11/19
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