No.502
24日の日曜日、シネプレックス小倉で英米合作のコメディドラマ映画「どん底作家の人生に幸あれ!」を観ました。2019年の作品ですが、いわゆるミニシアター系の映画を公開日に小倉のシネコンで鑑賞できるとは嬉しいですね。正直言って違和感も覚えた部分もありましたが、全体的には面白かったです。
ヤフー映画の「解説」には、「イギリスの文豪チャールズ・ディケンズの半自伝的小説「デイヴィッド・コパフィールド」を、『スターリンの葬送狂騒曲』などのアーマンド・イアヌッチ監督が映画化。不遇な幼少期を過ごした作家の波乱に満ちた半生を描く。『LION/ライオン ~25年目のただいま~』などのデヴ・パテルが主演を務め、ドラマシリーズ『ドクター・フー』などのピーター・キャパルディ、ドラマシリーズ『Dr.HOUSE -ドクター・ハウス-』などのヒュー・ローリーのほか、ティルダ・スウィントン、ベン・ウィショーらが共演する」とあります。
ヤフー映画の「あらすじ」は、以下の通りです。
「優しい母と家政婦と共に幸せに暮らしていたデイヴィッドは、母の再婚相手によって都会の工場に売り飛ばされてしまう。過酷な労働に明け暮れる中、最愛の母が亡くなり独りぼっちになったデイヴィッド(デヴ・パテル)は、やがて唯一の肉親である変わり者の伯母(ティルダ・スウィントン)に引き取られる。伯母の助けで進学した上流階級の名門校を卒業後、恋に落ち、法律事務所に職を得てようやく幸せをつかみかけた矢先、事態が暗転する」
この映画、ディケンズの自伝的要素が入った小説である『デイヴィッド・コパフィールド』を、自分の人生を織り込んだ小説を書く青年の話に翻案していますが、いろいろ気になるところがありました。まず、白人の役をアジア人や黒人が演じていますが、観ていてかなり混乱しました。今どきの「ダイバーシティ」を意識しているのでしょうが、舞台ならまだしも、映画でこれをやられると観客が混乱します。もちろん人種差別は絶対悪ですが、ディケンズという文豪の大いなる遺産に政治的メッセージなどは込めないでいただきたいですね。アーマンド・イアヌッチ監督の「スターリンの葬送狂騒曲」もWOWOWで鑑賞しましたが、政治臭が強いのに我慢できずに途中で観るのを止めたことを思い出しました。
この映画には、イギリス史の中でも特に暗いとされているヴィクトリア朝時代を懸命に生きようとした人々が次々に登場します。みんな非常に個性的ですが、それぞれの役を素晴らしい名優たちが演じています。映画そのものも波乱万丈で面白かったですが、デイヴィッドの艱難辛苦ぶりは観ていて同情せざるを得ませんでした。ヴィクトリア朝時代の工場で働く子どもの悲惨さも胸が痛みました。ストーリーが起伏に富んでいますが、幼少の頃より、さまざまな名前で呼ばれて不遇の人生を歩んできたデイヴィッドが、生まれたときの名前であり父の名前を選び取るという物語であることがわかりました。それならば、「どん底作家の人生に幸あれ!」などといったショボい邦題など付けずに、「デイヴィッド・コパフィールド」というタイトルで直球勝負をしてほしかったです。そでないと、文豪ディケンズにも失礼ではないですか!
名優揃いの中でも、ユライア・ヒープを演じたベン・ウィショーの怪演には圧倒されました。現在40歳の彼は、英国王立演劇アカデミーを卒業後、舞台・映画・テレビ映画とさまざまな作品に出演。2005年公開の「ブライアン・ジョーンズ ストーンズから消えた男」でザ・ローリング・ストーンズのキース・リチャーズを演じました。また、トレヴァー・ナン演出の舞台「ハムレット」のタイトルロールを演じて批評家から絶賛され、この舞台を見た監督のトム・ティクヴァ、プロデューサーのベルント・アイヒンガーの目に留まり、映画「パフューム ある人殺しの物語」の主演に抜擢。その後、「007 スカイフォール」にて、ジェームズ・ボンドを支えるQ役に起用されています。これから、ますます楽しみな役者ですね。
原作者であるチャールズ・ジョン・ハファム・ディケンズ(1812年~1870年)は、ヴィクトリア朝時代を代表するイギリスの小説家。主に下層階級を主人公とし弱者の視点で社会を諷刺した作品を発表しました。英語圏では、彼の本、そして彼によって創造された登場人物が、根強い人気を持って親しまれています。『オリバー・ツイスト』『クリスマス・キャロル』『デイヴィッド・コパフィールド』『二都物語』『大いなる遺産』などは、忘れ去られることなく現在でも度々映画化されており、英語圏外でもその作品が支持され続けていることを反映しています。
『ハートフルに遊ぶ』(東急エージェンシー)
この映画、さまざまな人生の苦難を最後にペンの力でひっくり返したところが爽快でした。じつは、わたしは単位の取得を間違えて、大学を1年留年したことがあります。そのとき、同級生たちが就職して先に社会人になったのに、自分だけがあと1年も大学に通わなければいけない状況に落ち込みましたが、「それならば、この1年を人生で最も価値のある1年にしてやろう!」と考えました。そして、その1年間で、わたしは生涯の伴侶となる妻と出会い、かつ処女作『ハートフルに遊ぶ』を書き上げて、翌年入社したばかりの東急エージェンシーの出版事業部から刊行することができました。その後、妻とは30年以上も連れ添っており、著書も100冊以上書いたのですから、まさに人生でも「最も価値のある1年」であったと思います。
『「鬼滅の刃」に学ぶ』(現代書林)
父から「何事も陽にとらえる」という考え方を受け継いではいましたが、もともと、わたしは負けず嫌いなのだと思います。それで、「失意の年を未来への飛躍となる年に変えたい」と発想したのだと思います。この発想法は30年以上経った2020年にも発揮され、新型コロナウイルスであらゆる予定が台無しになった1年を意味のあるものにしたいと願い、年末も押し迫ってから最新作『「鬼滅の刃」に学ぶ』(現代書林)を書き上げたのです。今月28日発売の同書は、現在、紀伊國屋書店新宿本店やクエスト小倉本店などで先行販売されていますが、ありがたいことに非常に売れ行きが良いようです。
恵まれない作家の人生に幸あれ!
もし同書がベストセラーになったら、「黒を白に変換する」オセロゲームのような展開になります。これは「何事も陽にとらえる」という思考法が「何事も陽に変える」という行動力に進化したようにも思えます。これまで、わたしは多くの本を書いてきました。もちろん、社会的に大切なメッセージを発信し続けてきたという自負はありますが、本の売れ行きという面ではけっして恵まれていたとは思いません。内容がド直球過ぎたのでしょう。さすがに「どん底作家」とまでは呼ばれたくありませんが、「恵まれない作家の人生に幸あれ!」というのが新著にかける願いです。