No.503

 イギリス映画「ズーム/見えない参加者」を鑑賞。
 ロンドンを舞台にした心霊ホラー映画ということで公開前は楽しみにしていましたが、公開後はネットでの評価があまりにも低いために観ることを躊躇。でも、最近やたらとお世話になっているZoomを題材にした新感覚ホラーだというので気になり、また現在、進めているオンライン葬儀の参考になるかもしれないと思って観ました。わたしを含めて観客は2人だけでしたが、もう1人が途中で帰った(その理由は後述)ことによって、最後はわたし1人で鑑賞しました。

 ヤフー映画の「解説」には、「新型コロナウイルスの影響によりロックダウン中のイギリスを舞台に、全編がウェブ会議ツール『Zoom』で撮影されたホラー。Zoomを介して集まった友人同士が交霊会をしていると、それぞれの部屋で怪現象が起こり始める。監督は『ストリングス(原題)』が英国インディペンデント映画賞レインダンス賞を受賞したロブ・サヴェッジ。出演はヘイリー・ビショップ、ジェマ・ムーア、エマ・ルイーズ・ウェッブなど」とあります。

 ヤフー映画の「あらすじ」は、以下の通りです。
「新型コロナウイルスの流行でロックダウン下のイギリス。定期的にZoomを介して集まっている友人同士のグループが、霊媒師をゲストに招いてZoom交霊会を開催することに。和やかな雰囲気の中、Zoom交霊会はスタートするが、それぞれの部屋で不思議な出来事が起こり始める。霊媒師が除霊を行うも効果はなく、事態はますます激しさを増していく」


 上映時間は68分と非常に短く、値段は特別鑑賞料金として1000円でした。しかい、まあ、ネットの評判通りにショボい内容でしたね。ストーリーも何もなく、ただ怖がらせるというか、驚かせるだけの遊園地のお化け屋敷みたいな映画ですが、Zoomの機能をフルに使っているところはユニークで、音声がミュートになって声が聞こえなくなったり、画面がフリーズしまくったり、霊が顔認証してマスクを被ったり、無料版Zoomゆえに40分の時間制限があるところなどはリアルでした。いっそ映画館で観るよりも、出演者たちと同じく自室のPCの前でロウソクに火を灯し、部屋を暗くして観た方がさらにリアルかも?

 この映画の原題は「Host」です。オンラインで繋がったデバイスなどの意味ですが、Zoomではチャットを始めるためにアカウントが必要な利用者のことを指します。霊媒師を招いてZoom交霊会を開いたグループが遭遇する怪異現象を、Zoom画面そのものを使って見せていくのですが、細かく分割されているため、どこを観たらいいのかわかりにくかったです。それゆえ、怪異が起こったといわれても「?」という場面が多かったですね。さらには、エンドロール後に「本当に怪異が起こった」という触れ込みのメイキング映像が付いていますが、これがまた何が何だかわからなくて、つまらなかった!
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生まれて始めてZoom会議に参加!



 ブログ「オンライン会議」で紹介したように、わたしは昨年5月11日(57歳の誕生日の翌日)に生まれて初めてZoom会議に参加しました。一般社団法人・全日本冠婚葬祭互助協会(全互協)の儀式継創委員会の会議でしたが、わたしは初体験で緊張したあまり、また、委員長が会議に遅刻して開始時に不在だった気まずさもあって、ジェイソンや狐の仮面を被ったりして大ボケをかましてしまいました(笑)。それはともかく、パソコンの画面に複数の人物が出現して動いたり、話したりする様子を見て、得体の知れない不気味さを感じたことを憶えています。こんな不気味なメディアを使って交霊会などを開けばロクなことが起こらないことぐらいは予想がつきます。


 霊媒を意味する「メディウム」と「メディア」の語源は同じですが、霊というのは最新の映像メディアと相性が良いもの。名著『心霊写真』(宝島社文庫)を書いた作家の小池壮彦氏は、一条真也の読書館『心霊ドキュメンタリー読本』で紹介した本の中で、「今日的な"心霊"の観念が確立したのは近代以後のことで、その証拠に心霊主義者は必ずと言っていいほど、幽霊の実在の根拠として心霊写真を持ち出してきた。現代の幽霊のイメージは、心霊写真に起原を持つ。だいいち私たちは多くの場合、写真のなかでしか幽霊を見たことがないのである。あとはせいぜい映像に映る幽霊だろう。つまり、今日の幽霊は写真によって作られ、映像がそのイメージを決定的にした。映像にあらわれない幽霊のことなど知ったことではないというのが、20世紀この方の幽霊事情だったのだ」と書いています。

 小池氏の言うように、写真、ビデオ、インターネットといった映像メディアを題材として、これまで多くのホラーが作られてきました。しかし、なんといっても有名なのは日本のホラー映画「リング」(1998年)でしょう。見た者を1週間後に呪い殺す「呪いのビデオテープ」の謎を追う、鈴木光司の同名小説『リング』を原作とする映画作品で、監督は中田秀夫。 配給収入10億円を記録するヒット作品となり、後に続くジャパニーズホラーブームの火付け役となりました。テレビのブラウン管から這い出してくる貞子の姿は、世界中のホラー・マニアを震え上がらせました。

 日本映画界からは「回路」(2001)というインターネットを題材とした心霊ホラー映画も生まれました。黒沢清監督作品で、キャッチコピーは「幽霊に会いたいですか?」。2001年に、カンヌ国際映画祭で国際批評家連盟賞を受賞。2006年にはアメリカ・リメイク版「パルス」が公開されました。観葉植物販売会社「サニープラント販売」で同僚が自殺してからというもの、ミチの周辺では身近な人たちが次々と黒い影を残し姿を消していってしまいます。同じ頃、大学生の亮介は、"ウラヌス"というプロバイダでパソコンで噂で聞いていた「幽霊に会いたいですか」と問う奇妙なサイトにアクセスしてしまいます。次々に人々は黒い影を残して消え、世界は不気味に変容しはじめるのでした。なかなか怖い映画でした。

 一方、アメリカではビデオを使った最恐ホラーが作られました。かの「ブレア・ウイッチ・プロジェクト」(1999)です。超低予算(6万ドル)・少人数で製作されながらも、全米興行収入1億4000万ドル、全世界興行収入2億4050万ドルを記録したインディペンデント作品です。「魔女伝説を題材としたドキュメンタリー映画を撮影するために、森に入った3人の学生が消息を絶ち、1年後に彼らの撮影したスチルが発見されました。彼らが撮影したビデオをそのまま編集して映画化した」という設定ですが、実際は脚本も用意された劇映画です。この手法は、擬似ドキュメンタリー(モキュメンタリー)映画の先駆けとなりました。とても怖い映画でしたね。

 モキュメンタリーの手法が使われたアメリカのホラー映画といえば、「パラノーマル・アクティビィティ」(2007)を忘れることができません。タイトルの意味は"超常現象"。この映画は実話に基づいて作られているそうですが、家族設定や怪奇現象等、異なる点もいくつかあるとか。同棲中のカップル、ミカとケイティーは夜な夜な怪奇音に悩まされていました。その正体を暴くべくミカは高性能ハンディーカメラを購入、昼間の生活風景や夜の寝室を撮影することにした。そこに記録されていたものは彼らの想像を超えるものでした。これも、かなり怖い映画でした。

「ズーム/見えない参加者」は明らかに「パラノーマル・アクティビィティ」の影響を受けていますが、もう1つ影響を受けていると思われるのが一条真也の映画館「search/サーチ」で紹介した作品。「娘が行方不明 唯一の手がかりは24億8千万人のSNSの中にある」のキャッチコピーで、失踪した16歳の娘を捜すために彼女のパソコンを操作する父親の姿が描かれます。家出なのか誘拐なのか不明のまま37時間が経過。娘の生存を信じる父親は、娘のパソコンでInstagramなどのSNSにログインしますが、そこで彼が見たのは自分が知らなかった娘の一面でした。この「search/サーチ」は、100%すべてPC画面の映像で展開するサスペンス・スリラーですが、全編Zoomの画面で展開される「ズーム/見えない参加者」のアイデアのルーツでしょう。

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唯葬論』(三五館)



 このように「ズーム/見えない参加者」には、さまざまな映画のアイデアが反映されていると思われますが、わたしが思ったのは「交霊会も儀式である」ということでした。さまざまな宗教儀式は神や仏とアクセスするためのものですが、交霊会は霊とアクセスするためのものです。そして、それには宗教儀式と同じく、正しいやり方が存在します。この映画の交霊会に参加したのは、霊には詳しくない6人と、プロの霊媒であるセイランです。映画では、「霊に敬意を払って」と言うセイランの忠告を軽んじたジェマという若い女性が「嘘のエピソード」を話したところから偽の霊が生まれ、それが悪霊と判明し、そこからそいつが大暴れします。もう「悪霊無双」というべき暴れっぷりですが、「霊に敬意を払う」とは交霊会の基本でしょう。ちなみに、拙著『唯葬論』(三五館、サンガ文庫)の「交霊論」にも書いたように、心霊主義(スピリチュアリズム)はアメリカで生まれましたが、この映画の舞台でもあるイギリスのロンドンで19世紀後半から20世紀前半にかけて大流行しました。
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儀式論』(弘文堂)



 拙著『儀式論』(弘文堂)では、「神話と儀式」「宗教と儀式」「芸術と儀式」など、さまざまな角度から儀式を立体的に浮かび上がらせ、儀式が人類存続のための文化装置であることを説きましたが、じつは「魔術と儀式」として黒ミサや悪魔召喚儀式、「心霊と儀式」として交霊会やコックリさんなどを取り上げるプランもありました。あと、この映画を観て気づいたのは、Zoom交霊会の途中で霊媒であるセイランが退場したことの重要性です。ネット環境に問題があったようですが、唯一のプロである彼女が不在になったために、素人ばかりが残され、悲惨な結果を生んでしまいました。現在、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、結婚式や葬儀などでもオンライン方式が流行しつつあります。しかし、祭主としての神主や神父や牧師や僧侶といった儀式のプロは、必ず現場にいないといけないということを思い知りました。わが社も葬儀オンラインを進めており、葬儀中継も視野に入れていますが、それはあくまでも参列者がネットで参加するレベルであり、「礼(霊)」の専門家としての儀式マスターは必ずその場にいる必要があります。
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交霊会のようす



 また、参加者は祭主に敬意を払う必要があります。この映画ではZoom交霊会の参加者がセイランのことを小馬鹿にしていましたが、儀式マスターへの敬意と信頼がなければ、儀式は必ず失敗します。もっとも、セイランの方にも問題はあって、Zoom交霊会が開始されて間もなく、彼女の自宅に料理のデリバリー(ウーバーイーツ?)が訪問して家のチャイムが鳴り、彼女は中座します。その料理がナス料理だったというのは微笑ましいですが、それを知った一同は爆笑。一瞬で交霊会の緊張感や儀式の厳粛さが失われてしまいました。やはり、リモートだから、儀式マスターが中座するなどという事態が起きるのです。本来、交霊会というのは、霊媒を中心に一同が輪になって、手をつなぎ合うものです。霊媒の不在など、ありえません。やはり、リモートで行っていいものと行ってはいけないものとがあるのです。しかしながら、コロナ禍の現状では、「一同が輪になって、手をつなぎ合う」こと自体が難しいわけですが・・・・・・。
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和のこえ withコロナ」のようす



 ウイズ・コロナの儀式を考える上で、わが社の式典で行っている「和のこえ withコロナ」(本来は社員同士が手をつなぎ合って「がんばろー!」と3回唱和しますが、手はつながずに、各自が腰に左手を当て、右手を突き出してマスク越しに小声で唱和する)などは、新生活様式での1つの試みになっていると思います。コロナ禍の中、わたしは改めて「礼」というものを考え直しています。特に「ソーシャルディスタンス」と「礼」の関係に注目し、相手と直接接触せずにお辞儀などによって敬意を表すことのできる小笠原流礼法が「礼儀正しさ」におけるグローバル・スタンダードにならないかなどと考えています。コロナ禍のいま、冠婚葬祭は制約が多く、ままならない部分もあります。身体的距離は離れていても心を近づけるにはどうすればいいかというのは、この業界の課題でもあります。
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小倉コロナワールド の前で(写真は別の日!)



 最後に、わたしはこの映画を、小倉コロナシネマワールド(!)というシネコンで鑑賞しました。小倉コロナワールド(!)という名称の商業施設に入っているのですが、数日前にこのコロナワールドの従業員の方に新型コロナウイルスの陽性患者が出たことを公式HPで知りました。そのせいもあってか、全部で10館あるシネコンの中で3番目に大きいシアターでしたが、観客が2人でした。夜の最終上映でしたが、上映直前までわたし1人しかいませんでした。すると、まさに場内が暗くなってあと1秒で上映開始というタイミングで1人の若い男性が入ってきました。しばらくは彼と2人で観ていましたが、1時間ぐらい経ったとき、最後列から3列目のわたしの5列くらい前に座った彼がスマホを取り出していじり出しました。
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結局、1人でホラー映画を鑑賞しました



 

 暗闇の中でスマホの照明が目障りだったので、わたしはマスク越しに大きな声で「スマホを閉まって下さいよ!」と言いました。すると、彼はものすごく驚いて、なんとそのまま逃げるように退場してしまったのです。残されたわたしは、そのまま1人で最後まで映画鑑賞しました。そういえば、このコロナシネマでは奥菜恵主演の「弟切草」をはじめ、何本かのホラー映画を1人で観た記憶があります。1人だと映画館側も空調を節約しようとしたのでしょうか、まったく暖房が効いておらず、映画は怖くなくても寒さで震え上がりました。最後に、この映画を観て、「Zoom会議って、やっぱり、なんか苦手だなあ」と思っていたところ、明日27日は副理事長を務める冠婚葬祭文化振興財団のZoom会議に参加しなくてはならないことを思い出しました。とほほ。