No.539


 11月13日の土曜日、T-JOYリバーウォーク北九州で映画「マリグナント 狂暴な悪夢」を観ました。「ソウ」「インシディアス」「死霊館」などを手掛けたジェームズ・ワン監督のホラー最新作で、「恐怖の最終進化形」を謳っています。確かに、これまでのホラー映画にはない想定外の展開には驚かされました。しかし、「怖かったか?」と聞かれれば、あんまり怖くはなかったですね。

 ヤフー映画の「解説」には、こう書かれています。
「『アクアマン』などのジェームズ・ワンが製作と監督などを手掛けるホラー。殺人鬼による犯行現場を目撃するという悪夢に悩まされる主人公に、魔の手がのびる。『スカイスクレイパー』などのエリック・マクレオド、『死霊館 悪魔のせいなら、無罪。』などのジャドソン・スコットらが製作総指揮を担当。『アナベル 死霊館の人形』などのアナベル・ウォーリス、『アイ・ソー・ザ・ライト』などのマディー・ハッソン、ジョージ・ヤング、ミコール・ブリアナ・ホワイトらが出演する」

 ヤフー映画の「あらすじ」は、「マディソンは、あるときから目の前で殺人を目撃するという悪夢を見るようになる。超人的な能力で次々と犠牲者を殺めていく漆黒の殺人鬼による夢の中の殺人事件が、ついに現実世界でも起きてしまう。人が殺されるたびに、殺人現場を疑似体験するようになったマディソンに魔の手が忍び寄る」です。

「マリグナント(MALIGNANT)」というのは「悪性の」を意味する形容詞ですが、邦題は「マリグナント」のみが良かったですね。「エクソシスト」とか「サスペリア」とか「アンテベラム」みたいにシンプルなタイトルの方がホラー映画の王道という印象があるからです。わたしは、タイトルに「狂暴な悪夢」を加えたのは蛇足であり、失敗だと思います。冒頭のシーンは洋館の上に満月が懸っているという、ゴシック・ホラーそのままのビジュアルで、多様なホラー作品からの引用も含めて、かなりマーケティング的手法で作られた映画だと思いました。

 夢の中の殺人事件が現実化するといえば、「エルム街の悪夢」(1984年)を連想してしまいます。たしかに、「マリグナント 狂暴な悪夢」の前半部分は「エルム街の悪夢」に似た雰囲気を持っています。でも、多くの犠牲者を生み出す殺人鬼の正体ですが、フレディとガブリエルではずいぶんと違う存在ですが......。とにかく、ガブリエルの正体がわかったときには驚きましたね。一条真也の映画館「アンテベラム」で紹介したスリラー映画と同じく、松田優作演じるジーパン刑事の最期みたいに「なんじゃこりゃ!」と叫びたくなる自分がいました。まあ、両作品ともヤバい映画であることは間違いありませんが、衝撃度で言えば「アンテベラム」の方が上でした。

「マリグナント 狂暴な悪夢」を観て、「とにかく、ジェームズ・ワンはアイデアマンだなあ!」と感心しました。「ソウ」「インシディアス」「死霊館」・・・・・・いずれも大ヒットしたホラー・シリーズを彼は手掛けました。ホラー映画の鬼才にして商売の達人でもある彼ですが、「観客から飽きられないように、新しい恐怖を提供しなければ」という意気込みを強く感じます。一歩間違えば「B級ホラー」になりかねないアイデアなのですが、そこを力技でB級にはしないところが「さすが」ですね。この映画には、さまざまな過去の名作ホラー映画の要素が盛り込まれています。まずは、ワン監督が強い影響を受けたというダリオ・アルジェンド監督の「サスペリア」(1977年)。この映画は魔女の恐怖を描いていますが、殺人事件の真犯人を探すミステリー要素もあり、ナイフによるリアルな殺害シーンや、赤を基調としたカラフルなビジュアルも影響が感じられます。

「サスペリア」や「エルム街の悪夢」以外にも、多くのホラー映画の影響が感じられます。たとえば、ガブリエルの電気製品を操る能力はウェス・クレイヴン監督の「ショッカー」(1989年)、腫瘍の憎悪という点ではウィリアム・ガードラー監督の「マニトウ」(1978年)、デイヴィッド・クローネンバーグの「ザ・ブルード/怒りのメタファー」(1979年)。双子の奇談という点ではブライアン・デ・パルマ監督の「悪魔のシスター」(1972年)、デイヴィッド・リンチ監督の「バスケットケース」(1982年)、クローネンバーグの「戦慄の絆」(1988年)。いじめた相手にまとめて復讐する点ではデ・パルマの「キャリー」(1976年)。以上の作品が連想されます。まさに、名作ホラーのオンパレード!

 このような過去の名作ホラー映画のエッセンスを片っ端から取り入れながら、監督オリジナルの仰天アイデアで「マリグナント 狂暴な悪夢」をまとめた感がありますね。その技が巧みすぎて、どうしても「うまく、まとめたな」という印象が残ります。結果的に、ちょっと引いてしまいます。ワン監督の「代表作である「死霊館」シリーズでは、余計な小細工はしないで、悪魔の姿をバンバン見せます。シンプルな怖さがウリの「死霊館」にはかなわないと思いました。それにしても、ホラー映画の新しい可能性を執拗に追及するジェームズ・ワン。彼が現在の世界ホラー映画界の頂点に位置することだけは間違いないですね。