No.709


 ゴールデンウィークも終盤ですね。5月6日、会社でいくつか打ち合わせをした後、前日から公開のイタリア・ベルギー・フランス合作映画「帰れない山」をシネプレックス小倉で鑑賞。大型連休にどこにも行かなかったので、せめてヨーロッパ映画でも観たいと思ったのです。上映時間が147分あるのですが、正直「長い!」と思いました。不覚にも、前半15分ぐらいで完全に寝てしまいました。
 
 ヤフー映画の「解説」には、こう書かれています。
「パオロ・コニェッティの小説を実写化し、第75回カンヌ国際映画祭で審査員賞に輝いたドラマ。山麓の小さな村を舞台に、都会育ちの少年と牛飼いの少年の友情と成長を描く。監督は『ビューティフル・ボーイ』などのフェリックス・ヴァン・ヒュルーニンゲン、『プライム・ターゲット』などで俳優としても活動してきたシャルロッテ・ファンデルメールシュ。『マーティン・エデン』などのルカ・マリネッリのほか、アレッサンドロ・ボルギ、フィリッポ・ティーミらが出演する」
 
 ヤフー映画の「あらすじ」は、以下の通りです。
「都会で育った少年ピエトロ(ルカ・マリネッリ)は、山を愛する両親と山麓の小さな村で休暇を過ごす。そこで彼は、同い年で牛飼いのブルーノ(アレッサンドロ・ボルギ)と出会う。繊細なピエトロと野性味にあふれたブルーノは対照的な性格だったが、一緒に大自然を駆け回りながら同じ時間を過ごすうちに固い友情を育んでいく。だが、思春期に入ったピエトロは、父親に反抗したことを機に家族や村から距離を置く。月日が流れ、父の訃報を受けたピエトロは村を訪れ、ブルーノと久々の再会を果たす」
 
 原作は映画と同名の小説『帰れない山』です。アマゾンの内容紹介には、「街の少年と山の少年 二人の人生があの山で再び交錯する。山がすべてを教えてくれた。牛飼い少年との出会い、冒険、父の孤独と遺志、心地よい沈黙と信頼、友との別れ――。北イタリア、モンテ・ローザ山麓を舞台に、本当の居場所を求めて彷徨う二人の男の葛藤と友情を描く。イタリア文学の最高峰「ストレーガ賞」を受賞し、世界39言語に翻訳された国際的ベストセラー」と書かれています。著者のパオロ・コニェッティは、1978年ミラノ生まれ。大学で数学を学ぶも中退、ミラノ市立映画学校で学び、映像制作の仕事に携わる。2004年、短篇集『成功する女子のためのマニュアル』で作家デビュー。2012年短篇集『ソフィアはいつも黒い服を着る』で「ストレーガ賞」の最終候補となる。初の本格的な長篇小説となる『帰れない山』で、「ストレーガ賞」と同賞ヤング部門をダブル受賞。
 
「帰れない山」は、最初から最後まで山の話です。途中で町の描写もありますが、後はとにかく山、山、山......。それもアルプスの山もあれば、ヒマラヤの山もある。山好きにはたまらない映画と言えるでしょう。しかし、スクリーンにひたすら山の美しい光景が映っても人間界のドラマはなかなか進まないので、たいそう眠たくなる映画でもあります。原作は世界的ベストセラーとのことですが、このような静かな物語ならば、上映時間の147分は長すぎます。100分ぐらいで充分です。
 
 この映画では、「途方もない友情」というものが描かれています。12歳のときに知り合ったピエトロとブルーノの友情です。彼らは少年時代に山で遊びました。また大人になって再会してからは一緒に山小屋を作ります。その山小屋は、もともとピエトロの父親が一人で住んでいたものでしたが、父が亡くなったので、雪で壊れかけた山小屋をピエトロとブルーノが再建したのです。山小屋がついに完成して抱き合う二人。彼らの友情は永遠に続くかのようでしたが、最後にブルーノがその小屋の周辺で亡くなります。親を亡くした人は過去を失い、配偶者を亡くした人は現在を失い、子を亡くした人は未来を失うというのはわが持論です。ならば、親友を亡くした人は自分の一部を失うのではないでしょうか。そう、ブルーノを亡くしたピエトロは自分の一部を失ったのです。
 
「帰れない山」のメインテーマは「友情」であることは明らかですが、もうひとつ「父と子」という大きなテーマがあります。ブルーノの父親は幼い彼を捨てて町に出てしまいます。ピエトロは父親に反発して、「ぼくは誓う。けっして父さんのような人生は歩まないことを」と言い放ちます。それを聞いて深く傷ついた父は家を出て、山小屋で孤独に暮らすのでした。一方、父に訣別宣言までしたピエトロも村を離れます。月日が流れ、父の訃報を受けたピエトロは村を訪れ、ブルーノと久々の再会を果たします。ブルーノから亡父の思い出話を聞くうちに、ピエトロはあれほど嫌悪していた父をなつかしく想うのでした。

「父と子」の対立と和解は、ハリウッド映画の底に流れるメインテーマであるとされます。この「帰れない山」はヨーロッパ映画ですが、そこにも「父と子」の対立と和解(父はすでに亡くなっていますが)がしっかりと描かれていました。ハリウッド映画やヨーロッパ映画だけではありません。「帰れない山」を観た前日に観た一条真也の映画館「銀河鉄道の父」で紹介した日本映画でも、宮沢賢治と父・政次郎の対立と和解が描かれていました。「父と子」は、どうやら映画という芸術そのものに潜むテーマのようですね。

法則の法則』(三五館)
 
 
 
 しかし、宮沢賢治やピエトロは父親の人生や人格を完全否定するような発言をしたことは感心できません。父にしろ、母にしろ、自分という人間がこの世に誕生した根本原因であり、親を否定して自分が幸福になることは絶対にありません。拙著『法則の法則』(三五館)では、「幸福になる法則」というものを提示しました。「引き寄せの法則」とやらで、いくら欲望を追求しても人間は絶対に幸福にはなれません。なぜなら、欲望とは今の状態に満足していない「現状否定」であり、この宇宙を呪うことにほかならないからです。ならば、どうすれば良いのか。それは、「現状肯定」して、さらには「感謝」の心を持つことです。では、何に感謝すればよいか。それは、自分をこの世に生んでくれた両親に感謝することが最初のスタートでしょう。親に感謝すれば幸福になる。意外にも超シンプルなところに「幸福になる法則」は隠れているのです。