No.711


 5月15日、映画「MEMORY メモリー」をシネプレックス小倉で鑑賞。人生2回目のシニア料金でした。リーアム・ニーソン主演のアクションスリラー映画ですが、とても面白かったです。ただし、そこで描かれた児童買春の問題には心が痛みました。当然ながら、いま日本中を騒がしている少年たちへの性加害問題にも想いを馳せました。
 
 ヤフー映画の「解説」には、こう書かれています。
「『ブラックライト』などのリーアム・ニーソンが主演を務めるアクション。自身の信念に反する依頼を放棄したアルツハイマー病の殺し屋が、人身売買組織が関与する陰謀に巻き込まれる。メガホンを取るのは『ザ・フォーリナー/復讐者』などのマーティン・キャンベル。『インファーナル・マシーン』などのガイ・ピアース、『オン・ザ・ミルキー・ロード』などのモニカ・ベルッチらが共演する」
 
 ヤフー映画の「あらすじ」は、「アレックス(リーアム・ニーソン)は、すご腕の殺し屋として裏社会で名をはせてきたが、アルツハイマー病を発症して依頼の詳細を覚えられなくなってしまう。引退を決意して最後の仕事に臨む彼だが、ターゲットが少女だと知り、契約を破棄する。子供だけは守るという信念を貫いてきたアレックスは、依頼の背景を独自に調査するうちに、財閥や大富豪を顧客とする巨大人身売買組織の存在を知る」となっています。
 
「MEMORY メモリー」は基本的にアクション映画です。そこにスリラーやミステリーの要素も入っていますが、やはり見どころは銃撃戦などのシーンです。それなりに迫力はあるのですが、主役のアレックスを演じたリーアム・リーソンが70歳なので、ちょっとヨボヨボ感が気になりました。彼を捕まえたメキシコの地元の刑事から「警官殺しの罪は重い。刑務所でカマを掘られ続けろ!」と言われるシーンがあるのですが、わたしは「おいおい、メキシコの刑務所って、おじいちゃんのカマを掘るのかよ!」と思ってしまいました。あと、アレックスがホテルのBARで知り合った美女とラブアフェアをするのも「何だかなあ...」と思いましたね。
 
 この映画ではヨボヨボでしたが、リーアム・ニーソンは名優です。1952年生まれの彼は、ダブリンのアビー・シアターの一員になり、舞台俳優としてキャリアをスタートさせました。映画監督ジョン・ブアマンに見出されて、1981年に「エクスカリバー」で映画デビュー。1993年公開のスティーヴン・スピルバーグ監督映画「シンドラーのリスト」でオスカー・シンドラーを演じてアカデミー主演男優賞にノミネート。また、同年には「アンナ・クリスティ」でブロードウェイデビューを果たし、トニー賞にノミネートされています。1996年公開の「マイケル・コリンズ」でマイケル・コリンズを演じてヴェネツィア国際映画祭の男優賞を受賞。1999年公開の「スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス」ではジェダイマスターのクワイ=ガン・ジンを演じました。
 
 リーアム・ニーソン以外では、モニカ・ベルッチが「MEMORY メモリー」で非常に重要な役を演じていました。わたしは彼女の大ファンなので、嬉しくなりました。現在はガル・ガドット推しですが、それ以前はモニカ推しでした。でも、あれほど美しかった彼女も今や58歳。けっこうな熟女となりました。「MEMORY メモリー」の主人公の名前から、わたしはモニカが主演した2002年のフランス映画「アレックス」を連想しました。ギャスパー・ノエが監督・脚本・撮影・編集を1人で務めた作品です。「東京国際ファンタスティック映画祭2002」のクロージング作品でしたが、わたしは大変な衝撃を受けました。当時38歳のモニカ演じるアレックスが暴漢にレイプされるシーンが延々と9分間も続いたのです。この映画は「21世紀最大の問題作」などと呼ばれました。
 
「アレックス」のストーリーは以下の通りです。ある男を探してゲイクラブへ押し入る2人組。彼らは男を見つけ出すと凄惨な暴力を加えます。発端はあるパーティの夜。マルキュス(ヴァンサン・カッセル)は会場に残り婚約者アレックス(モニカ・ベルッチ)を1人で帰してしまいます。その直後、アレックスはレイプに遭い、激しい暴行を受けてしまうのでした。自責の念に駆られるマルキュス。彼は友人でアレックスの元恋人のピエール(アルベール・デュポンテル)とともに犯人探しを開始します。やがて、女装ゲイ、ヌネスを探し出した2人は、ヌネスからついにテニア(フィリップ・ナオン)という男の名を聞き出すのでした。復讐の暴力シーンも凄惨でしたが、何よりも9分にわたるレイプシーンの描写がショッキングでした。
 
「アレックス」には大人の女性がレイプされる描写がありますが、「MEMORY メモリー」には少女がレイプされるシーンが登場します。この映画そのものが児童買春を目的とした人身売買の組織を描いた作品なのですが、少女にしろ少年にしろ、児童への性加害など絶対に許せません。ちょうど、この映画を観た前夜、日本の芸能界に衝撃が走りました。ジャニーズ事務所の元所属タレントがジャニー喜多川前社長(享年87)から性被害を受けていたと訴えている問題を巡り、同事務所が公式見解を発表したのです。ブログ『異能の男 ジャニー喜多川』にも書いたように、現在、日本では、大手芸能プロダクション「ジャニーズ事務所」の創業者、ジャニー喜多川氏(2019年に死去)から所属していたタレントが性被害を受けた疑いが浮上していました。わたしは彼の性加害は事実であったと考えていましたが、日本の大手マスコミの大部分がこの問題をスルーしている一因には、同性愛の問題が絡んでいるからだと思います。どういうことかを説明します。
 
 ジャニー喜多川の被害者たちが少年だったので、なんとなく「ホモのおじさんにイタズラされた男の子たち」といった見世物的な話題にとどまって、問題の焦点がボヤけている感がありました。しかしながら、もしジャニー喜多川の被害者が少女だったらどうだったか? これはもう世界的な一大性犯罪事件となるのではないでしょうか。だって、想像してみて下さい。仮に秋元康氏がAKB48や乃木坂46の女性アイドルたちを自由自在に性奴隷にしていたとしたら......ジャニー喜多川の犯した性犯罪はそれに匹敵する、いやそれ以上の悪質さなのです。また、ジャニー喜多川問題は、日本でも進みつつあった「LGBTQ」への理解に大いに水を差すものだと思います。このような問題を放置しておいては日本の恥です。恥どころか、日本は国際社会から相手にされなくなります。大手マスコミが報道しないなら、日本政府が対処すべき問題であると思ってましたが、藤島ジュリー景子社長の英断には拍手を送りたいと思います。このご時勢、令和の時代にこの問題をスルーすることはもはや不可能だったのでしょう。

永遠の知的生活』(実業之日本社)
 
 
 
「MEMORY メモリー」は、その名の通りに「記憶」をテーマにした映画です。主人公アレックスはアルツハイマー病を患っています。彼は次第にいろんな記憶を失っていき、それゆえに苦しみます。この映画を観ながら、わたしは記憶について想いを馳せました。私がこれまでお会いした人物の中で、最も記憶力の良かった方は英文学者で上智大学名誉教授であった故渡部昇一先生(2017年逝去)でした。「知の巨人」と呼ばれた渡部先生とわたしは、『永遠の知的生活』(実業之日本社)という対談本を刊行しました。対談の中で、記憶について渡部先生と意見交換をさせていただきました。「記憶こそ人生」として、記憶の中にこそその人の人生があるというご意見を渡部先生から伺いました。そして、わたしたちは記憶力を失わないためのさざまな方策について語り合いました。

思い出ノート』(現代書林)
 
 
 
 わたしは、究極のエンディングノートを目指して2007年に作った『思い出ノート』(現代書林)の活用を提案いたしました。『思い出ノート』は、記入される方が自分を思い出すために、自分自身で書くノートです。それは、遺された人たちへのメッセージなのですが、わたしは渡部先生から「暗記」についてお話しを伺っているうちに、こういうアイデアを思いつきました。つまり、痴呆症などで自分の人生や家族を忘れてしまったならば、自ら書いた『思い出ノート』を何度も読み返して、その内容を暗記してみればどうでしょうか。おそらく、人生のさまざまな出来事や家族の姿を思い出すきっかけとなるのではないでしょうか。そのように申し上げたところ、渡部先生からは「それは面白いアイデアですね。それにしても、こういうノートがあること、初めて知りました」と言われました。映画「MEMORY メモリー」を観ながら、渡部昇一先生との会話をなつかしく思い出しました。