No.712


 ヒューマントラストシネマ有楽町でポーランド映画「EO イーオー」を観ました。主人公はなんと、1頭のロバ。手がけたのは84歳のポーランドの巨匠、イエジー・スコリモフスキ監督。興味深い内容ではあったのですが、ロバが主人公ということでストーリー性に乏しく、前半はかなり熟睡してしまいました。

 ヤフー映画の「解説」には、こう書かれています。
「『イレブン・ミニッツ』などのイエジー・スコリモフスキが監督などを手掛け、一匹のロバを主人公に描くロードムービー。サーカス団から出てさまよう旅路をロバの視点で映し出す。スコリモフスキ監督の『エッセンシャル・キリング』『イレブン・ミニッツ』などにも携わってきたエヴァ・ピャスコフスカが脚本を担当。『ソーレ-太陽-』などのサンドラ・ドルジマルスカ、『アマルフィの日差しの下で』などのロレンツォ・ズルゾロ、『ポルトガル、夏の終わり』などのイザベル・ユペールらが出演している」

 ヤフー映画の「あらすじ」は、以下の通りです。
「好奇心あふれる灰色のロバ・EOは、サーカス団で暮らしていたが、ある日そこから連れ出される。以来放浪の旅を続ける中で、善良な人間だけでなく、悪意を持った人間とも出会うが、何があろうともEOが持ち前の無邪気さを失うことはなかった」

「映画.com」のオンラインインタビューに応じたスコリモフスキ監督は、「EOの視点からドラマ描くことで、様々な人間たちの優しさ、そして愚かさや残酷さも強調されています。ロバのパートと人間のパートは、どのように構築していったのですか?」という質問に対して、「まず、この映画をロードムービーとして考えました。さまざなエピソードが数珠のようにつながっていくというアイディアで始めたのです。この映画にはポーランドとイタリアが出てきますが、現実に両国の間では食用のため、最終的に屠殺されるためにロバがポーランドからイタリアに売られています。アルプスを越えて、屠殺場に至る――そのことがこの物語のラストであると分かっていました。しかし、それをあまりに早く見せるのではなく、その2つの国の人間、空気、気候、そういったものの違いも強調したいと思いました」と答えています。

スコリモフスキ監督によれば、「EO イーオー」はフランスのロベール・ブレッソン監督「バルタザールどこへ行く」(1964年)を現代的に解釈した作品だそうです。同作品は、ドストエフスキーの小説『白痴』に想を得た寓話で、少女とロバの苛烈な運命が描かれています。小村に暮らす農園主の息子ジャックと幼馴染のマリー(アンヌ・ヴィアゼムスキー)は、産まれたてのロバに「バルタザール」と名づけ可愛がります。やがてジャックの一家は引っ越し、バルタザールはどこかへ引き取られます。それから10年が過ぎ、鍛冶屋でこき使われていたバルタザールは逃げ出し、マリーの元に現れます。再会にマリーは喜びますが、彼女に想いを寄せるジェラールは彼女がかわいがるバルタザールに嫉妬し、虐待を始めるのでした。

 ロバといえば、「くまのプーさん」のイーヨーが有名ですね。イーヨーとEOは音が似ているので何か意味があるのかと思いましたが、スコリモフスキ監督は「EOは擬音語、馬で言うといななきの音です。タイトルについてはいろんな提案がありましたが、どれも理想的ではなかったので、動物が主人公であるということを強調するために、タイトルを動物の名前にしようと考えたのです。EOはポーランドでも、決してロバの名前としては一般的なものではありません。歴史上初めてロバにEOという名前が付けられたのかもしれません」とオンラインインタビューで語っています。EOと聞くと、わたしはディズニーランドのアトラクションだったマイケル・ジャクソン主演の3D映像「キャプテンEO」を連想します。この「EO」はギリシャ語でギリシャ語で 「曙(夜明け)を意味しました。

 ロバというのは、非常にシンボリックな動物です。大変役に立つ動物でもあり、車は行けないところもロバは行けますし、非常に重い荷物でも運ぶことができます。ロバは柔和で、蹴られても抵抗しませんし、餌は何でも食べますし、背は低く、目立たない動物です。全く反対なのが馬ですね。馬は姿美しく背は高く、生気に満ちています。当然、馬は王様、貴族、兵士や金持ちの乗り物となりました。しかし、馬はカンシャク持ちが多いので、乗るときに危険な目に遭うともあります。そういうことを考えると、イエスがエルサレム入城の時に、子ロバに乗って来られた理由がうなずけます。キリスト教徒にとってイエスは救い主です。神の子でありながら、人間に使える存在です。ですから、プライドの高い馬に乗らないで、わざわざ謙遜で柔和なロバを選んだのです。イエスはロバが荷物を運ぶように人間の弱さやもろさ、そして醜さなどという罪のすべてを背負っていったのでした。

「EO イーオー」は明らかに寓話的な映画です。サーカスで「EO」と呼ばれていた灰色のロバが、当てもない旅をする中で善人や悪人に出会う物語です。しきりにつぶらなロバの瞳を接写するのも印象深く、ロバの目を通じ、混乱する現代社会をありありと映し出しています。馬が大人なら、ロバは子どものイメージがあります。ロバのつぶらな瞳に映るのは、汚れた大人たちの世界かもしれません。わたしは、EOがジャニーズJr.で、その瞳に映るのはジャニー喜多川のような気がしました。ジャニーズ事務所の元所属タレントがジャニー喜多川前社長(享年87)から性被害を受けていたと訴えている問題を巡り、同事務所が公式見解を発表しました。このご時勢、令和の時代にこの問題をスルーすることはもはや不可能だったのでしょう。このような問題を放置しておいては日本の恥です。恥どころか、日本は国際社会から相手にされなくなります。大手マスコミが報道しないなら、日本政府が対処すべき問題であると思ってましたが、広島サミットを前に国際世論を意識した日本政府の圧力があったのでしょう。

 わたしは彼の性加害は事実であったと考えています。わたしが「EO イーオー」を観た16日、立憲民主党はジャニー喜多川氏の性加害疑惑の問題をめぐり、関係者の声を聞く「性被害・児童虐待ヒアリング」を国会内で開きました。ジャニー氏に性被害を受けたと実名告白した元ジャニーJr.のカウアン・オカモトさん(26)と橋田康さん(37)が出席、法務省やこども家庭庁など関係官庁の担当者も出席しました。ヒアリングに出席した同党の山井和則衆院議員は、今後、ジャニーズ事務所の藤島ジュリー景子社長にも同ヒアリングに出席してもらえるよう今後要請していく考えを述べ、国会全体で取り組む姿勢も示しました。それにしても、一条真也の映画館「TAR/ター」「MEMORY メモリー」で紹介した映画もそうでしたが、最近は何の映画を観ても、ジャニー喜多川の性加害のことを連想してしまいます。困ったものですね。