No.721


 6月4日の日曜日、日本映画「憧れを超えた侍たち 世界一への記録」をシネプレックス小倉で鑑賞。WBC2023のドキュメンタリーです。3週間の限定公開で、料金も特別大人料金2200円(シニア割引なし)でしたが、観ることができて良かったです。リアルタイム観戦では「筋書のないドラマ」である野球も、ドキュメンタリーとなれば「筋書のあるドラマ」のはず。しかし、結果を知っているにもかかわらず大感動し、何度も涙腺が緩みました。
 
 ヤフー映画の「解説」には、こう書かれています。
「野球の日本代表チーム「侍ジャパン」の選手やスタッフたちに密着したスポーツドキュメンタリー。彼らが2023年3月に行われたWORLD BASEBALL CLASSICで優勝するまでの軌跡をたどる。代表選手30名の選考会議、本大会ベンチやロッカーでの様子などをチーム専属カメラが捉える。監督などを務めるのは三木慎太郎。主題歌をあいみょん、ナレーションを声優・ナレーターの窪田等が担当する」
 
 ヤフー映画の「あらすじ」は、以下の通りです。
「現役時代はヤクルトスワローズに所属し、引退後は北海道日本ハムファイターズの監督などを務めた栗山英樹氏が、2021年12月、「侍ジャパン」こと野球日本代表の監督に就任する。そして、2023年3月に開催されるWORLD BASEBALL CLASSICに向けてチームが始動。昨シーズンに最年少で三冠王になった村上宗隆、メジャーリーグで活躍している大谷翔平、日系アメリカ人のラーズ・ヌートバーらがチームに合流する」
 
 映画は2021年12月、大会本番の4ヵ月前から始まります。栗山英樹氏が野球日本代表・侍ジャパントップチーム監督に就任。誰よりも野球を愛し、選手を愛する指揮官がWBC2023へ向け、熱き魂の全てを捧げる日々が始まりました。何度も行われた選考会議での栗山監督の熱さが、観ているこちらにも伝わってきました。驚いたのは、最初から栗山監督は「ドリームチームで最高のスーパースターが優勝決定の場で、最高の脚光を浴びるシーン」をイメージしていたことです。実際にその通りの結果になったことは誰もが知っています。それ以外にも、代表選手30人の選考会議から大会直前に行われた宮崎合宿、本大会ベンチやロッカーでの様子、選手の苦悩や葛藤、あの歓喜の瞬間まで完全密着したチーム専属カメラだからこそ撮影できた貴重映像の数々に見入ってしまいました。
 
 WBC2023の日本代表の試合ですが、わたしは最初はあまり関心がなくて、初戦の中国戦、2戦目の韓国戦は観戦していません。観たのは3戦目のチェコ戦からですが、一気に夢中になりました。今回のWBC日本代表の打線は、まさに史上最強打線でした。なにしろ、村上宗隆(NPBにおけるアジア人打者・左打者としてのシーズン最多本塁打記録保持者。令和初にして、史上最年少の三冠王)、山田哲人(NPBにおける日本人右打者シーズン最多安打記録保持者・史上初の本塁打王と盗塁王の同時獲得者、日本プロ野球史上、唯一のトリプルスリー複数回達成者)、中野拓夢(盗塁王の歴代最高盗塁成功率記録をプロ1年目で達成)という錚々たるメンバーです。これに、大谷翔平・ダルビッシュ有・佐々木朗希といった最強投手陣も加わるのですから、まさに無敵の布陣です。
 
 中国戦・韓国戦・チェコ戦・オーストラリア戦・イタリア戦と圧勝を続けた日本代表ですが、アメリカに渡って迎えた準決勝のメキシコ戦では大苦戦しました。3点を追う7回に4番バッターの吉田正尚が右翼ポール際へ同点の3ランを放ち、「追いついたのでここから勝ち越しましょう。お待たせしました」と興奮気味に振り返りました。直後の8回に山本、湯浅が踏ん張りきれず2失点。再び追う展開となりました。8回に代打・山川穂高の左犠飛で追いつき、なおも2死一、二塁のチャンスを作りましたが、近藤健介が見逃し三振で嫌なムードに。それでも、9回表は大勢が無安打無失点の好投で流れを呼び込みました。9回裏、先頭バッターの大谷が初球を強打して二塁打。続く4番の吉田が四球。2人の走者を置いた村上宗隆が、劇的な逆転サヨナラ二塁打を放ちメキシコに逆転勝利。よくやった、村上。さすがは、史上最年少の三冠王だ!
 
 村上は、試合後インタビューで「何度も三振をして、何度も悔しい思いをして、その中でチームメイトがすごい、点を取ってくれて、助けてくれて。最後に打席が回ってきた。最後、僕が決めましたけど、本当にチーム一丸となった勝ちかなと思っていますし、期待に応えられてよかったです」と劇的な一打を振り返りました。不振続きだった村上を起用し続けた栗山秀樹監督も立派でした。この日もバットが振るわなかった村上はバントも頭をよぎりましたが、栗山監督の「任せた」の一言で腹を括ったそうです。試合後に2人が抱き合ったときは胸が熱くなりました。村上には「レジリエンス」の神髄を見せてもらいました。
 
 そして、WBC2023(第5回ワールド・ベースボール・クラシック)決勝は、日本代表が3-2でアメリカ代表を下しました。9回表のマウンドに立った「二刀流」の大谷翔平選手は、見事に大会MVPに輝きました。2連覇を狙うアメリカを撃破して、日本は3大会ぶり3度目の世界一となりました。8回から6番手で登板したダルビッシュはシュワバーに本塁打を許し、3-2に。しかし、その後はなんとかダルビッシュが凌ぎました。そして9回表は大谷翔平が登板。先頭打者をフォアボールで出すも、直後のダブルプレーで2アウト。最後は、大谷と同じエンゼルスの同僚であるマイク・トラウトを空振り三振に抑え、胴上げ投手となりゲームセット。劇的なフィナーレとなり、侍ジャパンが3大会ぶりに世界一となりました。
 
 わたしは、小学生から高校生の間は大の巨人ファンで、長嶋や王や張本を応援していました。毎日のようにテレビで野球観戦していましたが、大学に入ってからは興味を失いました。近年は、日本人の名選手が次々にメジャーリーグに移籍することもあって、まったくプロ野球は観戦しなくなりました。しかし、今回のWBCで野球の魅力をもう一度思い出しましたね。侍ジャパンの各選手の活躍というか、生き様にも感銘を受けました。史上最年少の三冠王として多大な期待を背負った村上選手は不振をきわめましたが、準決勝では逆転サヨナラ打を放ち、決勝ではホームランを打ちました。最後はダルビッシュ投手&大谷投手の黄金リレーが実現しましたが、2人とも苦境にありながらも、見事に持ち前の実力を発揮し、最後は「世界一」の栄光を掴んだのです。最高のドラマの結末でした。
 
 それにしても、大谷選手は正真正銘のスーパースターです。ベーブ・ルース以来の「二刀流」プレーヤーとして、メジャーリーグに大旋風を起こしました。野球の実績だけでなく、彼はルックスも素晴らしい。192センチの長身に小さな顔、これは10頭身ぐらいではないでしょうか? 顔もイケメンですし、これまでメジャーリーグで活躍した日本人としては、野茂英雄、イチロー、村上正則、松井秀喜、上原浩二、田中将大、岩隈久志、ダルビッシュ有...数々の名選手がいましたが、大谷翔平は史上最高のスーパースターだと思います。大谷選手は、岩手・花巻東高3年生のとき、野球部で配られた「人生設計シート」の27歳の欄に「WBC MVP」と書き込んだそうです。彼は、自らの能力を信じ、二刀流という誰も歩んでいない道を切り開きました。人生設計から1つ歳を重ねた28歳のスーパースターは、本当にそのシート通りに目標を達成したのです。あまりにも偉大ではありませんか!
 
 さて、この「憧れを超えた侍たち」、じつはお蔵入りの噂が流れていました。理由は、日本代表のメンバーの1人として世界一に貢献し、この映画にもしっかりと写り込んでいる山川穂高(埼玉西武ライオンズ)が逮捕される可能性があったからです。山川は昨季、129試合で打率.266、41本塁打、90打点をマークし、自身3度目の本塁打王と、初の打点王を獲得した名選手です。そんな彼が)が、2022年11月に港区のホテルで20代の知人女性に性的暴行をしたとして、警視庁は5月23日、強制性交容疑で書類送検しました。球団は一軍登録を抹消し、試合に出られない三軍扱いの謹慎処分を下しました。今後、解雇は免れないと見られています。本人は女性との肉体関係こそ認めているものの、「無理矢理」という部分は強く否定しているため、捜査の進展に注目が集まっています。
 
 山川穂高の事件以上に世を騒がせているのは、故ジャニー喜多川氏の性加害問題です。じつは、最近は何の映画を観てもジャニー氏の性加害問題を連想してしまう現実があります。このままでは、わたしのシネマライフは確実に歪んでしまうので困っています。この「憧れを超えた侍たち」だけは大丈夫と思って安心していたのですが、世界一になった後の栗山監督の「野球の素晴らしさを子どもたちに伝えたかった」という発言を聴いて、また嫌なスイッチが入ってしまいました。というのも、一条真也の読書館『異能の男 ジャニー喜多川』でも紹介しましたが、ジャニー氏が最初に毒牙にかけた初代ジャニーズは少年野球のメンバーたちでした。まだ幼さの残る少年たちを筋骨隆々のホモ親父が汚したのです。それから2500人を次々に餌食にしたことは本当に許せません。それだけでなく、彼は野球の神聖さも汚したことになると気づきました。

「朝日新聞」2020年1月1日朝刊
 
 
 
 ところで、WBC2023の日本代表のメンバーは「侍ジャパン」と呼ばれました。「侍ジャパン」と聞いて、わたしは、2019年に日本中を熱狂させたラグビーWCの日本代表を連想しました。初のベスト8入りした奮闘ぶりは、日本中に感動を与えました。じつは、彼らが心の支えにしていたのが、わたしが詠んだ歌であることを最近知って大変驚きました。というのも、「朝日新聞」の2020年元旦の朝刊に、わたしが15年前に詠んだ歌が紹介されたのです。ラグビー日本代表強化委員長の藤井雄一郎氏の心に響いたそうです。「おそれずに 死を受け容れて 美に生きる そこに開けりサムライの道」という歌ですが、2005年に公開されたトム・クルーズ主演の映画「ラスト・サムライ」にちなんだものです。

「朝日新聞」2020年1月1日朝刊
 
 
 
「朝日新聞」2020年1月1日朝刊の「わたしの折々のことば」に、「おそれずに 死を受け容れて 美に生きる そこに開けりサムライの道」「大手冠婚葬祭会社サンレー佐久間庸和社長」として掲載され、「映画『ラスト・サムライ』(トム・クルーズ主演)にちなんで2005年、サンレー(北九州市)の佐久間庸和社長が、雅号『庸軒』として詠んだ。佐久間氏は、一条真也として作家としても活動する。19年のラグビーワールドカップ(W杯)で8強入りした日本代表は、サムライの美しさを意識したチーム作りをした。その中心にいた藤井雄一郎強化委員長は、インターネットで『勝元』をキーワードに検索し、この歌にたどり着いた。かつての武士が身につけていた潔さや謙虚さを教わる気持ちになったという」と書かれています。ラグビー日本代表は、サムライの美しさを意識したチーム作りをしました。その中心にいた藤井氏は、インターネットで検索し、この歌にたどり着きました。記事には「かつての武士が身につけていた潔さや謙虚さを教わる気持ちになった」と書かれていました。これを知ったわたしは非常に驚くとともに、とてもうれしく感じました。歌を詠み続けてきて本当に良かったとも思いました。
 
 ちなみに藤井さんが検索して見つけた記事は、「いま甦る、武士道の美学 真のラスト・サムライとは誰か」で、2005年10月の社長訓示です。わたしは、そこで「現在の日本は平和を謳歌をしています。一般の人々が日常的に『死』に触れることはありません。そんな中、常に死を見つめ、それゆえ死を意識せずにはいられない紫雲閣のスタッフは、死の呪縛から解き放たれ、生の哲学を得る可能性をゆたかに持っています。つまり、サムライとなりうる。わたしも含めて、ぜひサンレーの中から多くのファースト・サムライが出現して、礼儀正しい日本、美意識のあるカッコいい日本を再建する礎になれればと切に願っています」と述べ、最後に「おそれずに 死を受け容れて 美に生きる そこに開けり サムライの道」と詠んだのです。その全文が2006年に本名で上梓した拙著『ハートフル・カンパニー』(三五館)に掲載されています。

ハートフル・カンパニー』(三五館)
 
 
 
 そのような経緯でわたしがサンレーの社員向けに詠んだ歌がラグビー日本代表の強化委員長の目にとまり、選手のみなさんを指導する一助になっていたことを知り、わたしは非常に驚きました。そして、大きな感動をおぼえました。やはり、この世は「有縁社会」であることを痛感しました。日本代表は、遠征のときから甲冑を帯同してきました。絶えず死と隣り合わせの武士の緊張感こそ、プレッシャーをはねのけるヒントになると感じていたとか。

藤井雄一郎氏と
 
 
 
 ブログ「藤井雄一郎さんにお会いしました」に書いたように、その後、わたしは藤井氏とお会いし、武士道について大いに語り合いました。そして、ラグビーだけでなく、あらゆるスポーツには侍スピリットが必要であると確認しました。WBC2023の日本代表=侍ジャパンにも、「おそれずに 死を受け容れて 美に生きる そこに開けり サムライの道」という歌を捧げたいと思いました。わたしは、ブログ「侍ジャパンに贈る」で、「この歌を胸に、ぜひ、3大会ぶりに世界一になっていただきたいです。それは、コロナが終息しつつある日本にとって、大いなる祭りとなることでしょう」と書きましたが、実際にその通りになって感動しました。映画「憧れを超えた侍たち」を観て、あの日の感動が再び胸に蘇ってきました。