No.728
東京に来ています。6月21日は数件の打ち合わせの後、夜はヒューマントラストシネマ有楽町でモロッコ映画「青いカフタンの仕立て屋」を観ました。思いもかけぬ展開に驚きながらも、最後は心を打たれました。絵画のように美しい映像が印象的でしたね。
ヤフー映画の「解説」には、こう書かれています。
「モロッコ・サレの旧市街で、モロッコの伝統衣装カフタンドレスの仕立て屋を営む夫婦を描くヒューマンドラマ。職人気質の夫、余命わずかな妻、若い職人の出会いを描く。監督などを手掛けるのは『モロッコ、彼女たちの朝』などのマリヤム・トゥザニ。同作でもトゥザニ監督と組んだルブナ・アザバル、『狼は暗闇の天使』などのサレ・バクリのほか、アイユーブ・ミシウィらが出演している」
ヤフー映画の「あらすじ」は、「モロッコの海辺にあるサレの街。ハリム(サレ・バクリ)とミナ(ルブナ・アザバル)夫妻は、カフタンドレスの仕立て屋を営んでいる。伝統を守る仕事をしながらも、自身が伝統からかけ離れた存在だと苦悩するハリムを、病気で余命わずかのミナは支えてきたのだった。ある日、そんな二人の前に若い職人ユーセフ(アイユーブ・ミシウィ)が現れ、青いカフタンドレス作りを通して3人は絆を深めていく」です。
わたしは以前モロッコに行ったことがありますが、そのとき、カフタンドレスの店も訪れました。豪華絢爛な色彩の洪水に魅了されたものですが、この映画に登場する青いカフタンは神秘的で素敵でしたね。自身の結婚式を挙げていないミナが「結婚式でこのドレスを着たかったわ」と言いますが、(ここからはネネタバレ覚悟で書きます)彼女が病死すると、夫のハリムはイスラームの戒律に反して彼女の亡骸に青いカフタンを着せます。そして、亡骸を棺に納めるのではなく、担架に乗せます。
花嫁を掲げて練り歩くモロッコの結婚式
ハリムはユーセフと共にミナの亡骸を頭上に掲げながら街を練り歩きます。これはモロッコの結婚式のやり方です。わたしも実際に見ましたが、モロッコでは結婚披露宴の夜、花嫁を桶のようなものに容れて神輿のように担ぐ風習があるのです。イスラム圏の女性は結婚後は顔も満足に出せないので、せめて花嫁になったときぐらいは花婿によって周囲の人々に見せびらかされるのだというのです。ハリムは結婚式で花嫁がされることを妻の葬式で行ったわけです。一見クレージーというか異様な行為のようにも思えますが、わたしはすごく自然に受け止めました。なぜなら、結婚式も葬式も通過儀礼であり、異世界(メタバースと呼んでもいいかもしれません)への移行のセレモニーという本質は同じだからです。モロッコの民族衣装であるカフタンドレスを葬式のときに着るのも悪くないと思いました。
日本人の民族衣装は着物です(写真の着物は小倉織)
日本の民族衣装といえば、着物です。ブログ「小倉織を着て、還暦を祝われる」に書いたように、先月、わたしは還暦になった記念に小倉織の着物を第一人者である染織家の築城則子先生に作っていただきましたが、袴は「紫雲」と名付けられていました。「紫雲」とは人の臨終の際に迎えに来るという仏が乗る紫色の雲ですが、わたしはかつて、国民的作家だった司馬遼太郎の名作『坂の上の雲』にかけて、「坂のぼる上に仰ぐは白い雲 旅の終わりは紫の雲」という歌を詠んだことがあります。ブログ「紫雲が入った戒名」で紹介したように、昨年7月12日に凶弾に倒れてお亡くなりになられた安倍元首相の戒名が「紫雲院殿政誉清浄晋寿大居士」だったことは記憶に新しいところです。
「青いカフタンの仕立て屋」のメガホンを取ったマリヤム・トゥザニ監督は、前作「モロッコ、彼女たちの朝」(2019年)で注目を浴びました。この映画は、モロッコ・カサブランカの旧市街を舞台に、2人の女性の出会いを描くヒューマンドラマです。家父長制が強く残るモロッコで、困難と向き合う女性たちが助け合いながら生きていく様子を描きます。妊娠中のサミア(ニスリン・エラディ)は美容師の職と住む場所を失い、大きなお腹を抱えてカサブランカの街をさまよっていました。ある晩、幼い娘ワルダを1人で育てながら小さなパン屋を営むアブラ(ルブナ・アザバル)が、路上にいた彼女を家に招き入れます。夫を亡くして以来孤独だった母娘2人の生活に、おしゃれ好きでパン作りが上手なサミアが加わり、暮らしに明るさが戻るんでした。同作は、第92回アカデミー賞国際長編映画賞のモロッコ代表作品に選ばれています。「青いカフタンの仕立て屋」は、第95回アカデミー賞のモロッコ代表(国際長編映画賞ショートリスト選出)となっています。また、2022年カンヌ国際映画祭の国際映画批評家連盟賞を受賞しています。
マリヤム・トゥザニ監督は、先日閉幕したカンヌ国際映画祭では審査員も務めました。前作「モロッコ、彼女たちの朝」は監督自身の体験が基になっていましたが、「青いカフタンの仕立て屋」についてトゥザニ 監督は「前作のロケハン中、サレのメディナにある美容室を営む男性と知り合い、この出会いがインスピレーションになっています。彼と話しているうちに、心の奥に隠す本当の自分と外に見せる自分を使い分けていると気づきました」とふり返ります。劇中に登場する夫ハリムの職業を美容師からカフタンの仕立屋に変えた理由については、「カフタンは大人の女性の象徴で、少女時代の私にとって憧れでした。成人して初めて母から受け継いだカフタンをまとった時、これは次の世代へと物語を繋ぐ、貴重な品だと気づきました。1枚のカフタンが完成するまでに職人は数か月を費やします。そうして完成したカフタンからは、着る人の心に職人の魂と完成までの物語が届くのです」と話しています。
「青いカフタンの仕立て屋」の予告編を見て、この映画がどうやら三角関係の物語であることは予想がついたのですが、まさかミナと2人の男たちではなく、ハリムを中心とした三角関係とは想定外でした。劇中には、際どいゲイの交歓シーンも描かれています。まさかのLGBTQ展開に驚きましたが、一条真也の映画館「怪物」で紹介した日本映画を観たときのように、もう故ジャニー喜多川氏のことは連想しませんでした。その代りに、現在の芸能界を騒がせているもう1つの話題、すなわち広末涼子問題を連想しました。なぜなら、広末の不倫相手である鳥羽周作氏が「ゲイ界の橋本環奈」と呼ばれているからです。広末の夫であるキャンドル・ジュン氏は鳥羽氏に怒り心頭のようですが、「青いカフタンの仕立て屋」に出てくる3人のダンスシーンみたいに、「広末涼子とキャンドル・ジュンと鳥羽周作の3人で仲良くダンスする日が訪れればいいな」などと、平和主義者のわたしは思うのでした。
ちなみに、広末涼子とマリヤム・トゥザニ監督はともに1980年生まれの43歳です。まことに奇遇ですが、どうでもいいか!? もっとも、広末涼子問題とジャニーズ事務所問題を同列にはできません。広末の問題はあくまでも単なる不倫に過ぎませんが、ジャニー喜多川のしたことは史上最大の性犯罪の可能性が高いからです。そして大事なことは、ジャニー氏の性加害を知っていて沈黙を守り、結果的に多くの後輩少年たちを見殺しにしたジャニーズ事務所の所属タレントたちも同罪であるという見方ができることです。それなのに広末のCMはお蔵入りになって、ジャニーズタレント(ジャ二タレ)主演のCMは今でもガンガン流れているのはおかしいと思います。
有楽町マリオンで発見!
そんなことを考えて映画館を出たのですが、ヒューマントラストシネマ有楽町の入っている「有楽町ITOCIA」の隣にある「有楽町マリオン」にプラネタリウムがOPENしたとの告知がありました。プラネタリウムといえば、学生時代に渋谷の東急文化会館にあった「五島プラネタリウム」によく行ったものです。今では「渋谷はちょっと苦手♪」なので渋谷に近づくこともありませんが。マリオンのプラネタリウム告知をよく見ると、「星夜に浮かぶ島」というヒーリング・プラネタリウムのナレーションはなんと広末涼子! これじゃ星空を見ているうちに「ゲイ界の橋本環奈」の顔が浮かんでくるじゃありませんか!