No.727
6月16日の夜、前日に続いてT・JOYリバーウォーク北九州を訪れ、日本映画「忌怪島」を観ました。一条真也の映画館「犬鳴村」、「樹海村」、「牛首村」で紹介した清水崇監督による「恐怖の村」シリーズに続くJホラー映画です。今回は「恐怖の村」ではなくて「恐怖の島」ですが、その根本は同じです。しかし、内容は残念でしたね。まったく怖くないし、つまらなかったです!
ヤフー映画の「解説」は、「『呪怨』シリーズや『犬鳴村』などの清水崇監督によるホラー。とある島を訪れたVR研究チームに襲い掛かる恐怖を描く。『ヴィレヴァン!』シリーズなどのいながききよたかが清水監督と共同で脚本、『花筐/HANAGATAMI』などの山下康介が音楽を担当。不可解な出来事の真相を追う主人公を『関西ジャニーズJr.のお笑いスター誕生!』などの西畑大吾が演じ、『ピーチガール』などの山本美月、『コープスパーティー』シリーズなどの生駒里奈のほか、平岡祐太、水石亜飛夢、川添野愛、當真あみらが出演する」です。
ヤフー映画の「あらすじ」は、以下の通りです。
「脳科学者・片岡友彦(西畑大吾)とVR研究チーム『シンセカイ』のメンバーは、現実世界とそっくりな仮想空間を作る研究のため、シャーマンがいる島で研究に勤しんでいた。しかし、システムエラーやバグが突如出現することに加え、不審死が続くなど、不可解な出来事に次々と遭遇。友彦は園田環(山本美月)と共に、島で相次ぐ怪異の真相を解き明かそうと奔走する」
だいたい、VRと心霊ホラーを組み合わせるという発想自体がダサいですね。Jホラーの名作である中田秀夫監督の「リング」(1998年)はビデオ、黒沢清監督の「回路」(2000年)はインターネットと心霊ホラーの組み合わせでしたが、じつによく作り込まれており、リアリティがありました。何よりも怖かったです。でも、この「忌怪島」はリアリティもなければ、怖くもありません。
そもそも、仮想空間とかアバターとかメタバースとかを使えば、今どきの映画が作れるという発想自体が古くさい。どこかの冠婚葬祭会社みたいで「なんだかなあ」と思いました。「呪怨」シリーズでJホラーを席巻した清水祟監督の作品はこころのところずっと駄作が続いていますが、もっと怖い映画が作れる人のはず。ぜひ、変化球を狙わずに、もっと直球勝負の心霊ホラーを作ってほしいですね。8月11日公開の次回作「ミンナノウタ」に期待します。
「忌怪島」主演の西畑大吾は初めて知りましたが、「なにわ男子」のメンバーだとか。ジャニーズ事務所のタレント、つまりジャニタレですね。しかも、この映画の製作者にはジャニーズ事務所の藤島ジュリー景子社長も名前を連ねているではないですか。いま、ジャニーズ事務所の創業者である故ジャニー喜多川氏の性加害問題が注目されている最中にこの映画が公開されたことには驚きましたね。
だって、市川猿之助が出演した「劇場版 緊急取調室 THE FINAL」は公開延期になったばかりです。また、W不倫が騒がれている広末涼子の出演CMがお蔵入りになっていますが、ジャニーズ事務所所属のジャニタレのCMはそのままです。猿之助の両親との心中未遂や、ヒロスエの不倫などよりも、ジャニー喜多川の史上最大級の性犯罪の方がよっぽど大問題ですよ。それを考えると、このタイミングでの「忌怪島」の公開には萎えてしまいますね。
「日本一の名脇役」こと笹野高史さんと
「忌怪島」に出演している俳優陣も、西畑大吾をはじめパッとしませんでしたが、唯一光っていたのが「日本一の名脇役」と呼ばれる笹野高史さんです。彼は島で村八分に遭っている老人の役でしたが、観ているだけで辛くなるほど気の毒な境遇にありました。あるとき、知り合いが亡くなって、彼は香典を持って葬式に参列しようとしますが、島の連中から「何しにきた!」と言われて追い返されます。そのとき、彼が言った「村八分だって、葬式だけはいいはずだ!」というセリフがあまりにも悲しかったです。
そう、村八分でも葬式と火事だけは除外されていたのは事実です。葬儀の手伝いはしませんが、死体処理(土葬)は感染病や呪いを恐れることなどから手伝うのと、火事での消火作業や家を取り壊す等の手伝いは住民の義務(現代の消防団)でもあったのです。しかし、一条真也の映画館「おくりびと」で紹介した葬式映画の最高傑作で火葬場職員を演じた笹野さんが葬式で追い返されるシーンはショッキングでした。ブログ「笹野高史講演会」で紹介したように、わたしは笹野さんと映画談義をしたことがあります。
清水祟監督の「恐怖の村」シリーズにも言えることなのですが、今回の「忌怪島」では、田舎、特に離島に対する偏見に基づいて映画が作られているのが気になります。このジャンルのホラーには、沖縄の離島とか、中国地方の山奥(横溝正史の世界がまさにそうですね)とかに伝わる異常な怪奇習俗をテーマにしたものが多く、過疎地に対する悪質な偏見であると批判する見方もあるようです。確かに、その場所で生まれ、生活している人たちにとっては失礼きわまりない話ですよね。
昨年亡くなった作家の石原慎太郎に『秘祭』という小説があります。これは明らかに八重山諸島を舞台としているのですが、宗教学者の鎌田東二先生などは離島に対する差別意識があると憤慨されていました。ブログ「鎌田東二先生との対談」、ブログ「鎌田東二先生との対談2日目」で紹介したように、今年3月8日・9日にわたしは鎌田先生と「神道と日本人」をテーマに対談しましたが、「忌怪島」では鳥居をホラーの小道具として使っているところも不愉快でした。わたし的には、ダメなJホラーでした。