No.771
9月15日は新作映画の公開ラッシュでした。この日、わたしは、一条真也の映画館「名探偵ポアロ ベネチアの亡霊」で紹介した映画に続いて、「グランツーリスモ」のレイトショーをシネプレックス小倉で観ました。「陸のトップガン」との前評判通りに迫力満点でとても面白かったです!
ヤフー検索の「解説」には、こう書かれています。
「レースゲーム『グランツーリスモ』にまつわる実話を映画化。周囲があきれるほどゲームに熱中する少年が、同ゲームから生まれたレースドライバー育成プログラムを通じてプロレーサーを目指す。監督を『第9地区』などのニール・ブロムカンプ、脚本を『アメリカン・スナイパー』などのジェイソン・ホールと『ドリームプラン』などのザック・ベイリンが担当。『ミッドサマー』などのアーチー・マデクウィをはじめ、デヴィッド・ハーバー、オーランド・ブルーム、ジャイモン・フンスーらが出演する」
ヤフー検索の「あらすじ」は、以下の通りです。
「レースゲーム『グランツーリスモ』に夢中な少年ヤン(アーチー・マデクウィ)は、父親があきれるほどゲームに打ち込んでいた。そんな中、同ゲームのトッププレイヤーたちを実際のプロレーサーとして育成するプログラム『GTアカデミー』に参加することになる。GTアカデミー創設者のダニー(オーランド・ブルーム)をはじめ、指導を引き受けた元レーサーのジャック(デヴィッド・ハーバー)、世界中から選抜されたすご腕ゲーマーたちの思惑が交錯する中、不可能ともいえる夢へ向かってヤンの過酷なトレーニングが始まる」
今年だけでもう110本の映画を映画館で観てきたわたしですが、この映画を観る予定はありませんでした。レースにも車にもゲームにもまったく興味がないからです。しかしながら、わたしが「映画のソムリエ」として絶対の信頼を置いている映画コラムニストのアキさんが「面白いですよ、おススメです!」と紹介してくれたので観る決心をしました。あと、この映画にはGTアカデミー創設者のダニー役でオーランド・ブルームが出演しています。長女が小学生の頃、「ロード・オブ・ザ・リング」三部作を一緒に同じシネプレックス小倉で鑑賞したのですが、長女がレゴラス役だったオーランド・ブルームの大ファンだったことを思い出し、すっかり中年のオッサンになった彼とスクリーンで再会できたのが懐かしかったです。
この映画のハイライトである「ルマン24時間レース」をはじめ、レースのことはまったく無知なわたしですが、「グランツーリスモ」のスピード感あふれる映像にはシビレました。レーシングカーを運転するときのG(重力)がロケットの2倍の負荷がかかることも初めて知りましたが、驚きですね。少しでも油断したり、気を抜いたら死に直結するレースという競技は、ある意味で人間の生活にとって重要性の低い営みであり、究極の「遊び」と言えます。ゲームも「遊び」ですが、生死には影響しません。ゲーマーからレーサーへと転身することは、とんでもない進化であり、誰もが不可能だと思う難行に挑戦した人々には尊敬の念を抱いてしまいます。
「グランツーリスモ」は、1997年にPlayStation用に生まれた日本発の大人気ドライビングゲームです。PlayStationは、ソニー・コンピュータエンタテインメントが1994年に発売した家庭用ゲーム機で、 1990年代中期に「次世代機」と呼ばれた家庭用ゲーム機の1つです。家庭で本格的なテクスチャ付き3Dグラフィックを実現した初めてのゲーム機であり、リアルな車でリアルなコースを走行する魅力で大ヒット。全世界で累計9000万本を売り上げました。「オリンピックEスポーツシリーズ」や「国体・文化プログラム」の競技種目にも選ばれています。
それにしても、シミュレーション・ゲームの名人を現実のレーサーにするなど、誰もが不可能だと考えました。その不可能を可能に変えるには、アーチー・マデクウィ演じる主人公ヤンの才能や努力だけでは無理であり、そこにはデヴィッド・ハーバー演じる元レーサーのジャックの存在が不可欠でした。ジャックはヤンに対して厳しく接する鬼教官ですが、ジャックの厳しさがヤンの成功を招いたことは間違いありません。ヤンがドイツのレースで大事故を起こし、観客を死亡させてしまったことから「もう、レースには出れない」と弱気になっていたとき、ジャックは「出ろ。いま出なければ、一生出れなくなるぞ」と鼓舞します。どんなジャンルでも、最近のコーチは「辛ければ逃げてもいいよ」と言うような優しい教官ばかりですが、やはりトップを目指すには「逃げるな、闘え!」と鼓舞する厳しさが必要だと思いました。
『ウェルビーイング?』(オリーブの木)
「グランツーリスモ」を観て、わたしは「ウェルビーイング」について考えました。好きなことを職業にするということ、家族と良好な関係を築くこと、愛する人のことを想うこと、夢に挑戦してそれを叶えること......すべては持続的幸福としての「ウェルビーイング」に関わることです。そして、精神をコントロールすることが重要となってきます。ヤンは試合前にエンヤやケニー・Gの音楽を聴いてリラックスします。どんなジャンルでもパフォーマンスの前にはメンタルを落ち着かせることが求められ、多くのスポーツマンは瞑想を生活の一部に取り入れています。拙著『ウェルビーイング?』(オリーブの木)で紹介したように、ウェルビーイングの文化的潮流の1つである「瞑想」は、現在「マインドフルネス」と名前を変えて一大ムーヴメントを起こしています。
マインドフルネスの効果として、1970年代よりアメリカを中心に科学的・医学的な研究が進み、効果が最も実証されている瞑想の1つであり、ストレスや不安を取り除き、ココロを休め、生産力があがるということが実証されています。かつて、瞑想は個人のライフスタイルとして脚光を浴びましたが、今は企業が取り入れています。その証拠にGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック〔現・メタ〕、アマゾン)として知られる米大手IT企業をはじめ、ヤフー、ゴールドマンサックスなどの一流企業が軒並みマインドフルネスを取り入れています。社員のメンタルヘルス対策として、モチベーション、集中力、創造性、記憶力、生産性などの向上や改善のために、人材フォローの一環として行われています。現在のマインドフルネスにおいては「ありのまま」というワードが最も大切とされているようですね。
この映画は夢が現実になり「ドリームズ・カム・トゥルー」の物語です。誰でも、少年や少女の頃には夢を持っていました。ナポレオンは雨上がりの虹を見て、「あの虹をつかまえてやる」と叫んで、駆け出したといいます。シュリーマンは、よく知られているように、子どもの頃に本で読んだトロイの遺跡が実在すると信じ、大人になったら自分がそれを発掘するという夢を持っていました。長嶋茂雄やイチローや大谷翔平は、野球少年時代から「一流のプロ野球選手になる」という夢を抱き、それを果たしました。そして、ヤンはシム・レーサーからリアル・レーサーになりました。彼は今でもレースの際に、エンヤとともにケニー・Gを聴くそうですが、これはやっぱりG(重力)とかけているのでしょうか?
「グランツーリスモ」を開発しているポリフォニー・デジタルと自動車メーカーの日産、さらにはPlayStationが手を組むことで実現します。「GTアカデミー by 日産×プレイステーション」(「GTアカデミー」)と名付けられたそのプログラムは、2008年から2016年まで実施されました。そう、映画「グランツーリスモ」は日産の映画でもありました。フェラーリ、ランボルギーニ、ポルシェ、アウディをはじめとした世界の名車たちと一緒に日産の車が疾走する場面はやはり日本人としては嬉しいです。日産といえば、木村拓也がイメージキャラクターとしてCMに出演していましたが、故ジャニー喜多川氏の性加害問題を受けて降板しましたね。ちなみに、わたしは日産よりもトヨタ派で、学生時代からずっとソアラ、セルシオ、レクサスを乗り継いでいます。映画「グランツーリスモ」を観たシネコンからの帰りの夜道では、運転するレクサスLS500hで猛スピードを出したくなる気持ちを抑えるのが大変でした。(笑)