No.781
10月9日は「スポーツの日」ですね。この日、12月1日から公開される文化庁支援・推薦のドキュメンタリー映画「グリーフケアの時代に~あなたはひとりじゃない~」の予告編動画が解禁されました。わたしも佐久間庸和の本名で出演しており、予告編にも登場します。
「グリーフ」とは、「深い悲しみ」や「悲嘆」を意味する言葉であり、大切な人を失ったときに起こる身体上・精神上の変化を指します。家族やパートナー、友人やペットを失って、旅立ちを見送らなくてはならない人が、心の痛みを手放し、やがて再生へと向かうための一助となるような、心あたたまる映画です。
映画ポスターには、黒い球のようなものを抱いた小さな女の子の姿が描かれ、「あなたをひとりにしないよ・・・哀しみを和らげるために大切なこと 未来を一緒に考えてみませんか?」と書かれています。監督・構成は中村裕さん。語りは、音無美紀子さん。詳しくは、ブログ「音無美紀子さんと鼎談しました」をお読み下さい。
わたしも出演しています!
出演者ですが、島田理絵(訪問看護師・グリーフ専門士)、本郷由美子(グリーフパートナー歩み代表)、島薗進(上智大学グリーフケア研究所 元所長)、金田諦應(通大寺住職 カフェ・デ・モンク代表)、阿部淑子(訪問看護師)、三井祐子(癌サバイバー・自死遺族)、岡村毅(精神科医)、 佐久間庸和(全国冠婚葬祭互助会連盟 元会長)、井手敏郎(日本グリーフケア協会代表理事)、須賀ゆりえ(看護師・グリーフ専門士)といった面々。日本を代表するグリーフケアの達人たちが一堂に集結した印象です。ザッツ・グリーフケア!
わたしも出演しています
無縁社会について語りました
音無さんの「冠婚葬祭企業を経営する 佐久間庸和さんもさまざまな形でグリーフケアに注力してきました」というナレーションの後、わたしが登場します。わたしは、「血縁が薄くなっていって、地縁も薄くなっていって、無縁社会になっていって、人が死んでももうみんな相手にしない、お葬式もしない、親が死んでも告知しないというような社会になっている現状があります」と言いました。
「月あかりの会」の活動を紹介
「月あかりの会」の活動を紹介
続いて、わたしは「しかし、そんな無縁社会がどんどん進行していけば、本当に悲嘆の行き場がなく、支える人がいなくなってしまいます。そんな状況に危機感を抱いたわたしは、2010年ぐらいから遺族の方の会を始めました。皆さんで集まって、いろいろ語り合う会に、弊社で場所を提供しサポートしてきました」と語りました。
愛する人を亡くした人に何ができるか?
「悲縁」という言葉を世に放ちました
さらに、わたしは、わが社がサポートする遺族の自助グループである「月あかりの会」について、「やはり夫を亡くした人は同じ境遇の方が集まって、夫を亡くしたことの体験談を話し合う。お子さんを亡くした人も同じようにしています。わたしはこれを『悲縁』と言っているのですが、同じ境遇の方の悲嘆がつなぐ縁ですね。同じ悲しみを抱いている人同士が集まってくる、これもひとつの縁かなと思っております」と語ったのでした。
3人で鼎談しました
7月3日、わたしは東京は六本木にあるザ・リッツカールトン東京に向かいました。同ホテルの1階にある「サイプレスルーム」で行われる季刊誌「BLOOM」での鼎談に参加するためです。映画「グリーフケアの時代に」のナレーションを担当された女優の音無美紀子、映画のゼネラルプロデューサーである(株)セレモニーの志賀司社長でした。3人で「グリーフケア」について語り合いました。
『愛する人を亡くした人へ』(現代書林)
最初に、司会者から「この映画にどのように携わられましたか?」という質問があり、わたしは「2007年7月に上梓しました『愛する人を亡くした人へ』(現代書林)を原案として映画を作りたいという連絡をいただいたことがきっかけです。また、弊社はグリーフケアに早くより取り組んでおり、平成22年(2010年)には愛する方を亡くされたご遺族の会である「月あかりの会」を立ち上げ、サポートを続けています。そこで学んだグリーフケアの知識などを少しでも役に立てていきたいという思いから、今回の作品に関わらせていただいています。
『グリーフケアの時代』(弘文堂)
また、「なぜこの映画に出演されようと思ったのですか?」という質問がありました。わたしは、「今では『グリーフケア』という言葉をさまざまなメディアや場所で目にしているのではないかと思います。しかしこのグリーフケアという言葉が一体どういうものなのかを広く知っていただきたいという思いから、この映画に賛同し出演することとなりました。この映画を見た方がグリーフケアを知っていただき、また人と人との繋がりの大切さを感じていただくことで、これからの社会が良くなるきっかけとなって欲しいという想いもあります」と答えました。
音無美紀子さんと
「グリーフケアとはそもそもどのようなものですか? また、死別以外ではそのような悲しみがグリーフケアとして考えられていますか?」という質問もありました。わたしは、「グリーフの原因となるものにはさまざまな要因があります。愛する人の喪失:死、離別(失恋、裏切り、失踪)。所有物の喪失:財産、仕事、職場、ペットなど。環境の喪失:転居、転勤、転校、地域社会。役割の喪失:地位、役割(子供の自立、夫の退職、家族の中での役割)。自尊心の喪失:財産名誉、名声、プライバシーが傷つくこと。身体的喪失:病気による衰弱、老化現象、子宮・卵巣・乳房・頭髪などの喪失。社会生活における安全・安心の喪失などがあります」と述べました。
映画撮影時のようす
また、この他にも、「予期悲嘆」ということもあります。大切な人や存在と、そう遠くない時期に別れなければならないかもしれないと意識したときから現れるさまざまな反応です。これらのグリーフにケアが行われない場合、精神的な不安定さから心身症の発症や最悪の場合は自死に至る場合があります。わたしは、「グリーフケアとはさまざまな喪失と決別を経験した人が、失った(ひと・もの・こと)を丁寧に思い起こし、感謝し、別れを十分に嘆き、大切に憶えつづける心の準備をするために、ケアをする者が心を向け、寄り添い、ありのままを受け入れて、その人たちが自立し、成長し、希望を持つことができるように支援することです」と述べました。
『のこされた あなたへ』(佼成出版社)
「2000年代に入ってグリーフケアの支援が広がり始めましたが、何かきっかけがあったのでしょうか?」という質問に続いて、司会者から「日本では20年前の福知山線脱線事故からグリーフケアが日本でさまざまな形で広がってきた。東日本大震災 凶悪殺人事件など大きい事件事故が増えた」という発言がありました。わたしは、「超高齢化社会の到来、核家族化の増加、地域社会の弱体化、宗教の弱体化、葬送儀礼の形骸化、死生観の空洞化などの社会変化によって、今まであった悲嘆を抱える方々を支える場、癒しの場が少なくなっています」と述べました。
映画撮影時のようす
続けて、わたしは「グリーフがケアされず、グリーフを抱えたまま生活していくことで心身症をはじめとしたさまざまな問題が生じていきます。2000年代はまた、IT革命をはじめとし、今までの社会から大きな変化が起こったことや凄惨な事件や事故も多く発生し、心の病気ということが注目されてきた時代ではなかったかと思います。そういった心の不安定さが顕在してきたからこそ、心の安定を求め、グリーフケアが必要とされる時代となったと考えています」と述べました。
映画撮影時のようす
「悲しみを自身の人生に織り込むことは、乗り越えることより難しそうに感じますが、その時にどのようなケアが必要となりますか?」という質問に対しては、「悲嘆には否認やパニック・怒りなど、他にもさまざまなプロセスがあり、ひとりの力では乗り越えることはとても困難なことです。ここで行えるケアとして寄り添い、あるがまま受け入れ、聴いてあげられることがあげられます」と述べました。
映画撮影時のようす
続けて、わたしは「グリーフケアとはグリーフを無くすことが目的ではありません。グリーフを抱える方は十分に悲しみ、嘆き、その経験を語ることで、その感情とうまく付き合えるようになることが理想的だと思います。そのことで亡(無)くしたということやグリーフを抱えていることも含めた新しい自分、つまり新しいアイデンティティの誕生が自身の人生に織り込むということではないでしょうか。そのために安心して語れる安全な場を用意し、寄り添い、傾聴できる人材を育て、実践していくことはとても大切なことだと思います」と述べました。
志賀社長とスリーショット
「葬儀業界では、これまでどのようにグリーフケアに向き合って来られましたか?」という質問に対しては、「今まで葬儀業界では『ご葬儀』やその後の『法事・法要』の場でのケアに取り組んできました。ご葬儀の場とは非日常的な儀式を通して、死を現実のものとして受け入れる場であり、悲嘆の感情を公に表すことができる社会的な機会の場でもあります。また、ご葬儀や法事法要の場は親戚縁者、友人等との個人(故人)の思い出や気持ちの共有の機会でもあります。そのような場でご遺族の話しを聴き、寄り添うことがご遺族の心を安定させる取組みだと考えてきました。つまるところご葬儀や法事法要は、そもそもそれ自体がグリーフケアであると考えられます」と述べました。
「東京スポーツ」ほか2022年4月7日号・8日号
「グリーフケアにおいて葬儀の果たす役割は? また、今後の取り組みは何かありますか?」という質問に対しては、「今後の取組みとしては、葬儀や法事法要だけでなく、その後の生活においてもケアの場を提供できるように、さまざまなイベントや慰霊祭など亡くなった方を偲ぶ機会を提供していきたいと思います。『遺族の会』などもここに含まれますが、今まで地域や宗教者が担ってきたグリーフケアの役割を葬儀の施設を提供することで行えないかと考え、実際に取り組んでもいます」と述べました。
グリーフケア資格認定制度の式典のようす
また、「現在では人と人との縁の希薄化や病院で亡くなる方がほとんどであるという背景もあり、身内であってもなかなか死の瞬間に立ち会うことが少なく、また、死について語り考える機会が少なくなっていると感じます。そのため、生きている間にも『死』について真摯に考える機会が提供できないかと考えています。『死生観カフェ』という名前で、死に関するワークショップを行い、死について語り考える機会を作りたいと考えています」とも述べました。
上級グリーフケア士にメッセージを送る
また、わたしは「全互協の取組みとして、2020年11月に『グリーフケア資格認定制度』を発足したことが大きなものとなります。この制度は一般社団法人全日本冠婚葬祭互助協会が設計し、上智大グリーフケア研究所監修のもと、一般財団法人冠婚葬祭文化振興財団が制度運営しています。この資格は現代日本社会において、グリーフの中にいる人たちに向けての適切なサポートやケアの重要性がますます高まっていることを受け、死別悲嘆に直接かかわる葬儀業界では、葬儀の施行に加え、サポートやケアなどのスキルを持った専門職の育成が非常に重要になります。
グリーフケア式典で挨拶する
グリーフケア資格認定制度はそんなことを考えて作られました。資格として認定されることにより葬祭に携わる方がより自信を持ち、積極的にグリーフケアを行っていける仕組みが出来ています。それによりエッセンシャルワークとしての葬祭が社会のなかで大きな存在感を示してくるのではと感じています。またこの資格にはより専門的にグリーフケアにあたる上級グリーフケア士の資格も設定され、現在では全国で22名の上級グリーフケア士が活躍しています」と述べました。
音無美紀子さんと
「これからのグリーフケアの必要性は?」という質問に対しては、「幸福という観点から考えていくと身体的には健康でも心が不健康であれば、幸福は持続することはありません。いくら医療が発達し、科学技術が進歩しても心の不健康は直すことが出来ません。心を健康に保つためには、人と人との繋がりの中でケアしあうことしかないからです。心身共に健康であるということは、所属する社会を健全な状態に保つことでもあります。死別の悲嘆をはじめ、さまざまな悲嘆に向き合い、これをケアしていくことは社会を健全に保つことでもあり、またその社会の中で相互に思いやりを持ってケアしあうことが持続的に行えれば幸福になれると考えています。グリーフケアはそれぞれの心とその社会を健全に保つために必要な要素である重要な取組みであると考えています」と述べました。
音無美紀子さんと
映画「グリーフケアの時代に」は、12月1日より、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネリーブル梅田、アップリンク京都など、全国の主要劇場で公開されます。その後は、全国各地のセレモニーホール上映も計画されています。もちろんグリーフケアについての映画ですが、実際にグリーフを抱えておられる方も、そうでないと思っている方も関係なく、すべての方々に見ていただきたいと思います。音無美紀子さんの美しい声で導かれるドキュメンタリー映画の公開が今から楽しみです。この映画を一番観てほしいのは、ロシアのプーチン大統領です。愛する人を亡くす悲しみの深さを知れば、戦争など続ける気にならないでしょう。そう、グリーフケアの考えが世界中に広まれば戦争がなくなるのではないかと本気で思います。
12月1日公開です!
孤立しやすい社会であるからこそ、「グリーフケアの時代に」は、一刻も早くまた多くの方に見て頂きたい映画だと感じています。その「かたち」は違えど悲しみはすべての人に共通していることであり、自分たちの周りには悲しみを抱える方がいることを知っていただきたいです。この映画はそのことを知ることができるきっかけとなり、意識的にグリーフケアに取り組むことが必要であることが痛いくらいに感じられる作品です。グリーフを語る人がいて、グリーフを聴く人がいるという共に生きる社会を、グリーフケアという言葉を持って再構築していかないといけないという想いが、この映画の中で語っていただいた方たちの言葉1つ1つから強く感じています。
人間1人1人の思い方や感じ方は当然違うことは、多様性という言葉がメジャーとなった現代では、頭の中ではわかっていることかもしれません。でも、この映画を観て、それぞれの喪失感や悲嘆の感じ方は他の人には全くわからないことを気付かせてもらいました。無縁化によるグリーフを語る場の消滅という社会変化によりグリーフを抱えたまま生きていくしかない、ケアをされることなく生きていくとあきらめている方たちにそうではないことを伝えたい......すでにとても多くの方がサポートを始め、その輪が広がっていることを知って欲しいです。そして、すべての方にただ聴いてあげることでもケアとなっていくことを知っていただきたいと思います。