No.784
10月14日、日本映画「春画先生」をシネプレックス小倉で観ました。正直あまり期待していなかったのですが、想定外の面白さでした。ヒロインの北香那の存在は初めて知りましたが、美しく、表情も豊かで有望な女優さんですね!
ヤフーの「解説」には、こう書かれています。
「肉筆や木版画で人間の性的な交わりを描き、江戸時代に広く流行した春画をテーマにしたコメディー。春画の魅力に取りつかれた変わり者の研究者と、彼の弟子となった女性の交流を描く。監督・脚本を手掛けたのは『月光の囁き』などの塩田明彦。春画への探求心でつながった師弟コンビを、『罪の余白』などの内野聖陽とドラマ「口説き文句は決めている」などの北香那が演じ、『花腐し』などの柄本佑、『42-50 火光』などの白川和子、『花宵道中』などの安達祐実らが共演する」
ヤフーの「あらすじ」は、以下の通りです。
「『春画先生』と呼ばれる変わり者の研究者・芳賀一郎(内野聖陽)は、妻に先立たれ、取りつかれたように春画研究にのめり込んでいた。一方、目的もなく無為な日々を過ごしていた春野弓子(北香那)は一郎との出会いをきっかけに、春画に興味を抱くとともに彼に惹かれていく。一郎が執筆中の『春画大全』を早く完成させようと焦る編集者・辻村俊介(柄本佑)や、一郎の亡き妻の姉・藤村一葉(安達祐実)の登場により、波乱が生じる」
「春画」は江戸時代に隆盛を極めましたが、明治時代に西洋キリスト教の禁欲主義の影響から禁じられました。この映画では、「春画先生」と呼ばれる芳賀一郎(内野聖陽)が「春画とワインの夕べ」というイベントでスピーチする場面が登場します。そこで芳賀は、「多くの人は、春画のことを人目を忍んで隠れて鑑賞し、淫靡な好奇心から自分を慰めるといったイメージを持っていますが、それは誤解です!」と断言。「笑い絵」とも呼ばれた春画は男の友人同士、これから事におよぶ恋人同士、さらには母娘なども堂々と眺める大らかな文化だったというのです。この説明で、春画に対するわたしのイメージも一変しました。
映画には多くの春画の名作も登場しますが、中でも葛飾北斎の「喜能会之故真通(きのえのこまつ)」の鑑賞シーンが印象的でした。いわゆる「蛸と海女」で知られる有名な春画ですね。1981年の日本映画「北斎漫画」では、田中裕子が実際に蛸と戯れるシーンが話題になりました。「春画先生」ではこの幻の名画の鑑賞会が行われたわけですが、まるで降霊会のような妖しい雰囲気でした。その鑑賞会で、弓子は芳賀の亡妻の姉・藤村一葉の姿を見つけます。安達祐実が演じていましたが、妖艶そのものでした。
「春画先生」という映画は基本的にコメディですが、内野聖陽、北香那、柄本佑、安達祐実の4人がそれぞれ良い味を出していて、なかなか優れたエンターテインメントとなっています。あまりストーリーに言及するとネタバレになってしまうので控えますが、終盤の展開もドタバタ感こそありますが、意外性の連続で楽しめました。役者の力と脚本の力を感じましたね。何より、葛飾北斎、喜多川歌麿をはじめとする江戸の名だたる浮世絵師たちが、並々ならぬ情熱を注いだ春画の素晴らしさを堪能しました。
映画界は春画ブームなのか、11月24日にはドキュメンタリー映画「春の画 SHUNGA」が公開されます。絵師・彫師・摺師の才能と高度な技術により、「美」「技」において超一級の芸術と呼べる作品が数多く生み出されましたが、そもそも春画が誕生した社会的背景とは一体どんなものだったのか? 大衆向けに無数に作られた安価な春画を人々はどのように楽しんでいたのか? いまだ知られざる部分も多い春画の世界にカメラが分け入り、当時の風俗・文化、人々の思いを浮かび上がらせていきます。森山未來と吉田羊が朗読で参加した北斎の「蛸と海女」をアニメーション化した映像も垣間見ることができるそうです。