No.785


 10月15日の日曜日、ホラー映画「死霊館のシスター 呪いの秘密」を小倉コロナシネマワールドで観ました。一条真也の映画館「死霊館のシスター」で紹介した作品の続編。怪異現象が格段にスケールアップして、ホラー好きとしては大満足!
 
 ヤフーの「解説」には、こう書かれています。
「悪魔のシスター・ヴァラクの誕生を描いた『死霊館のシスター』の第2弾となるホラー。特殊な能力を持つシスターが、邪悪なシスター・ヴァラクに立ち向かう。タイッサ・ファーミガ、ジョナ・ブロケ、ボニー・アーロンズらが続投し、『search/2』などのストーム・リードらが出演。『死霊館』シリーズなどのジェームズ・ワンが製作などを手掛け、『死霊館 悪魔のせいなら、無罪。』などのマイケル・チャベスがメガホンを取る」
 
 ヤフーの「あらすじ」は、以下の通りです。
「1956年、フランスで神父殺害事件が起きたことをきっかけに、世界に悪がはびこるようになり、特殊な能力を持つシスター・アイリーン(タイッサ・ファーミガ)は教会の要請を受けて事件の調査を開始する。自らの命を危険にさらしながらも、祈りをささげ続ける彼女は、ついに悪の元凶であるシスター・ヴァラクと相対する」
 
 前作となる「死霊館のシスター」(2018年)は、「死霊館」シリーズの恐怖の始まりを描くホラーです。ルーマニアの修道院に派遣された神父と見習いシスターが、修道院に隠された邪悪な秘密に迫ります。1952年、ルーマニアの修道院で1人のシスターが不審な死を遂げます。教会は、この事件の調査のためにバーク神父(デミアン・ビチル)と見習いシスターのアイリーン(タイッサ・ファーミガ)を修道院に派遣。2人は調査を進めていくうちに、修道院の恐るべき秘密にたどり着くのでした。
 
 ネタバレにならないように注意して書くと、悪魔を退治する際に十字架やロザリオはあまり役に立たない一方で、「アーメン」という言葉が効力を発揮するシーンがありました。単なる宗教的シンボルよりも、人間が集中力をもって放つ祈りの言葉の方がパワフルであるという描写には納得しましたね。そこには人間の思念が込められており、放たれた言葉の矢は敵の急所を射抜くのです。「死霊館」シリーズでは、そこで描かれるアメリカ社会における教会の役割とか神父の存在といったものが興味深いです。
 
 アメリカはプロテスタントの国ですが、プロテスタントの祖であるルターは悪魔の存在を信じていたことで知られています。バチカンにはエクソシストの養成所がありますし、悪魔の存在を認めているという点では、カトリックもプロテスタントも共通しています。わたしは上智大学グリーフケア研究所の客員教授を務めましたが、上智といえば日本におけるカトリックの総本山です。それで神父や修道女の方々にも知り合いが増えたのですが、カトリックの文化の中でもエクソシズム(悪魔祓い)に強い関心を抱いています。なぜなら、エクソシズムとグリーフケアの間には多くの共通点があると考えているからです。エクソシズムは憑依された人間から「魔」を除去することですが、グリーフケアは悲嘆の淵にある人間から「悲」を除去すること。両者とも非常に似た構造を持つ儀式といえるのです。
 
「魔」も「悲」も放置しておくと、死に至るので危険です。しかし、「魔」や「悲」には対立すべきものがあります。「悪魔」に対立するものは「天使」であり、さらには「神」です。そして、「悲嘆」に対立するものは「感謝」ではないかと思います。神の御名のもとに悪魔が退散するように、死別の悲嘆の中にある人は故人への感謝の念を思い起こせば、少しは心が安らぐのではないでしょうか。「エクソシスト」という言葉を多くの日本人が知ったのは、1973年12月26日にアメリカで、1974年7月13日に日本で公開された映画「エクソシスト」によってです。このホラー映画の歴史に燦然と輝く作品は、少女に憑依した悪魔と神父の戦いを描いたオカルト映画の代表作であり、その後さまざまな派生作品が制作されました。
 
 ホラー映画の金字塔「エクソシスト」から遡ること12年前、1961年に「尼僧ヨアンナ」というポーランド映画が公開されました。原作はヤロスワフ・イヴァシュキェヴィッチの『尼僧ヨアンナ』(岩波文庫)で、フランスの小都市ルーダンで実際に行われた悪魔裁判を題材とした作品です。舞台は中世末期のポーランドの辺境の町ルーディンに変えています。修道院の若き尼僧長ヨアンナに悪魔がつき,悪魔祓いに派遣された神父があれこれ手を尽くすという物語で、イェジー・カヴァレロヴィチ監督が映画化しました。中沢新一氏がこの映画に心酔していることを知ったわたしは、何とか観たいと思ったのですが、なかなか観賞が叶いませんでした。2010年にようやくDVDが発売され観た次第ですが、この作品は明らかに「死霊館のシスター」に影響を与えていると思います。
 
「死霊館」シリーズはこれまでもけっこう怖いことで知られていましたが、本作「死霊館のシスター 呪いの秘密」はさらに怖さがアップデートしています。予告編にも出てきますが、マガジンラックに置かれた多くの雑誌のページが勝手にめくれていって、最後はシスター・ヴァラクの姿になるところなど、「よく考えたなあ!」と感心するアイデアでした。他にも、シスター・ヴァラクそっくりな壁のシミが登場して観客をドキッとさせるなど、ホラー映画としてのサービス精神は満点でした。
 
 ただ、あまりにもサービス精神が旺盛すぎて、ちょっと「やりすぎ?」感もありました。1体の悪魔=1人のシスターの呪いだけで「ここまで盛大に怪奇現象が起きるかい!」と突っ込みたくなるほどのショッキングシーンのオンパレードなのです。まさに「恐怖の絶叫ツアーへ、ようこそ!」と言いたくなるほど、エンターテイメントの要素が満点でしたね。そう、一条真也の映画館「ホーンテッドマンション」で紹介したディズニー映画みたいにテーマパークのホラーアトラクションを連想しました。
 
「死霊館」シリーズは2013年に脚本家のチャド・ヘイズとケイリー・W・ヘイズが創始したホラー映画のシリーズです。超常現象研究家のエド&ロレイン・ウォーレン夫妻(英語版)が遭遇した事件を題材にしており、本作を入れてこれまで5作品が発表されています。それらの公開順とストーリー上の時系列は一致していません。時系列順に作品を並べると、「死霊館のシスター」→「死霊館のシスター 呪いの秘密」→「アナベル 死霊人形の誕生」→「アナベル 死霊館の人形」→「アナベル 死霊博物館」→「死霊館」→「死霊館 エンフィールド事件」となります。
 
 今年はホラー映画の歴史に残る金字塔である「エクソシスト」の公開から50年目の記念すべき年ということで、一条真也の映画館「ヴァチカンのエクソシスト」で紹介したラッセル・クロウの主演作や本作「死霊館のシスター 呪いの秘密」などの悪魔映画が公開されましたが、12月1日には「エクソシスト 信じる者」が公開されます。悪魔に憑りつかれた2人の少女が呼び覚ます比類なき恐怖を描いた「エクソシスト 信じる者」で、半世紀前に誕生した史上最恐ホラーの新章です。一条真也の映画館「ゲット・アウト」「M3GAN/ミーガン」で紹介した映画などの異色のヒット作を生み出し、ホラー・スリラー界を牽引し続ける次世代スタジオ・ブラムハウスが新たな恐怖を世に問います。
 
 監督は、「ハロウィン」シリーズなどのデヴィッド・ゴードン・グリーン。行方不明になった2人の少女が何も覚えていない状態で戻り、その直後から周囲にこれまでにない恐怖が降りかかります。ウィリアム・フリードキン監督の「エクソシスト」のオリジナルキャストであるエレン・バースティンも出演している。そうそう、悪魔祓いとグリーフケアの共通性について述べましたが、「エクソシスト 信じる者」の公開日は、一条真也の映画館「グリーフケアの時代に」で紹介したドキュメンタリー映画の公開日と同じ12月1日です! これは単なる偶然でしょうか?