No.723


 公開前からずっと楽しみにしていた映画「M3GAN/ミーガン」をシネプレックス小倉で観ました。ホラーであり、SFであり、グリーフケアの要素もある映画で、最高に面白かったです。ミーガンの顔も服装もベリー・キュートで、心を鷲づかみにされました。(笑)
 
 ヤフー映画の「解説」には、こう書かれています。
「子供の良き友達となるように開発されたAI人形『M3GAN(ミーガン)』の愛情が暴走するスリラー。『インシディアス』シリーズなどのジェームズ・ワンとジェイソン・ブラムが製作陣に名を連ね、ジェラード・ジョンストーンが監督、ワン監督作『マリグナント 狂暴な悪夢』などのアケラ・クーパーが脚本を担当。『ゲット・アウト』などのアリソン・ウィリアムズ、『ブラック・ウィドウ』などのヴァイオレット・マッグロウのほか、ロニー・チェン、ジェン・バン・エップス、ブライアン・ジョーダン・アルバレスらが出演する」
 
 ヤフー映画の「あらすじ」は、以下の通りです。
「おもちゃ会社の研究者ジェマ(アリソン・ウィリアムズ)は、子供にとって最高の友達で、親にとって最大の協力者となるためにプログラムされたAI人形「M3GAN(ミーガン)」の開発に打ち込んでいた。あるとき彼女は交通事故で両親を亡くした、めいのケイディ(ヴァイオレット・マッグロウ)を引き取ることになり、ケイディのためにミーガンの力を借りることにする。しかし、その決断がとんでもない恐怖を呼び起こす」
 
「M3GAN/ミーガン」は、基本的に人形ホラーです。人形ホラーの代表的作品といえば、なんといっても「チャイルドプレイ」シリーズすね。第1作である「チャイルドプレイ」(1988年)は今やホラー映画の古典と言ってもいいでしょう。射殺された凶悪犯の魂が乗り移った人形を手にした少年アンディと母親の恐怖の体験。内容自体はオカルト映画の範中に入る作品ですが、人形を完全にモンスターとして扱い徹底的な怪物映画としていることが、結果的に「ターミネーター」を彷彿とさせるようなバイオレンス・アクションとなり、娯楽性の高い快作となりました。チャッキーという名前の殺人人形は、ホラー映画史に残る恐怖のアイコンの1つとなりました。
 
「M3GAN/ミーガン」に登場するミーガンは、少女版チャッキーとも言えるのですが、AI人形であるという点がチャッキーとは違います。ミーガンがAI人形であるということが、この映画を単なるホラー映画ではなく、SF映画としての側面を持たせています。身長120センチのミーガンは顔もファッションも最高にかわいく、わたしは大ファンになりました。こんな人形が売られていたら、たとえ1万ドルでも買いたいです。かわいいだけでなく、ミーガンは「ドラえもん」のようでもあり、「ターミネーター」のようでもあります。
 
 いずれにしても、AIの豊かな可能性も、AIが制御できなくなる怖さもよく描かれていました。アリソン・ウィリアムズ演じる優秀な研究者ジェマが開発したミーガンがなぜ暴走したのか。そのあたりは今ひとつ説明不足だったように感じましたが、怒りという感情がインプットされたミーガンは非常に恐ろしい存在でした。隣家の飼い犬にしろ、ケイディが通う小学校のいじめっ子にしろ、ミーガンがいったん敵意を抱いた相手はもう絶対に逃げられません。その攻撃手法もなかなか凄いのですが、それを見ながらスカッとしている自分がいました。(苦笑)
 
「M3GAN/ミーガン」は、すでに公開されたアメリカ本国で大きな反響を呼びました。TikTokなどのSNS上でミーム化にまで発展し、ムーブメントが広まったのですが、そのきっかけはミーガンによる衝撃のダンスシーンでした。ジェマが務める玩具会社に現れたミーガンは、廊下でミーガンを探し回っていた同社のCEOであるデヴィッド(ロニー・チェン)と鉢合わせるやいなや不気味な笑みを浮かべ、突如として体をクネクネさせ奇妙なダンスを始めます。目の前で起きている出来事に理解ができないデヴィッドをよそ目に、アクロバティックに側宙まで披露したかと思いきや、その場にあった裁断機の刃を手にして殺意満々。恐怖を感じ慌てて逃げるデヴィッドを、ミーガンは執拗に追いかけていくのでした。この強烈に脳裏に焼き付く場面は、ジェラルド・ジョンストン監督のアイデアによるものだそうですが、恐怖とシュールさが混じったインパクト満点のシーンでした。
 
 この映画のラストで繰り広げられるジェマとミーガンの激闘は凄まじかったです。ミーガンの不死身ぶりには痺れましたが、わたしはミーガンちゃんの大ファンなので、ぜひ続編に期待したいですね。ところで、ミーガンは交通事故で両親を失った少女ケイディの心のケアのために与えられたAI人形でした。つまり、ミーガンには「グリーフケア」という役割があったのです。愛する人を亡くしたケイディは、与えられたミーガンに強い愛着の念を抱きます。映画の中でも「愛着理論」という言葉が登場しましたが、これは乳幼児が、不安や不快などストレスを感じている状況で、自分の親など周囲の養育者に対して泣いて訴える、あるいは接触を求めて甘えるなどして、親密なきずなを形成しようとする愛着行動に関する理論です。
 
 また、「愛着理論」の重要なポイントは、幼児などが最愛の者を失った場合は、次に接する者に愛着を抱くということです。「愛着理論」は、イギリスの児童精神分析学者ジョン・ボウルビー(1907年~1990年)が提唱したもので、動物に生来備わっている自分の生命の安全を確保しようとする本能に基づく生得的行動により、自分の訴えや要求にこたえてくれる限られた養育者との間で愛着(アタッチメント)が形成されることが大切と考えるというものです。その愛着は1歳頃までに形成されますが、訴えや要求に対する応答が密なほど安定した愛着(安定型愛着)が形成され、小児期以降に安定した対人関係を構築する礎となります。しかし、安定した愛着が形成されない不安定型愛着では愛着形成障害を生じ、その後の心身の不安定や行動障害をもたらすとされます。
 
 人形がグリーフケアの機能を果たすという側面を見て、わたしは、一条真也の読書館『対象喪失』で紹介した本の内容を連想しました。著者の小此木啓吾は、日本のフロイト研究の第一人者であり、精神医学の臨床医でした。同書の最後には「移行対象」について書かれています。「移行対象」とは、対象喪失の際に、人間の心が頼りにする重要な対象は、移行対象です。たとえばそれは人形であり、ぬいぐるみであり、ペットであり、ひいては芸術作品です。これらは本来は物体であり、その意味では失う恐れのない不死の存在です。小此木は、「この物的な対象について、人間的な対象に対するのと同様の愛着や欲望を向け、それを頼りにする心理は、一種の錯覚現象である。しかし人間は、この錯覚によってつくりだした移行対象とのかかわりによって、人間的対象によってはえられない全能感をみたし、永遠の占有感を味わう。しばしばそれは遊びの世界を形成する手段となる。この移行対象の世界をもつことによって、人びとは対象喪失の悲哀を、和らげ推敲し、コントロール可能なものに仕上げていく」と述べます。
 
 この人形やペットなどでいったん満たされぬ愛着や欲望を緊急避難させておいて、ゆっくりと「喪の仕事」を行うという方法は、きわめて実践的です。イギリスの精神分析医ドナルド・ウィニコット(1896年~1971年)によれば、1歳児の躾などが始まることで、完全に母親に依存し常に欲求が満たされていたために抱いていた全能感(錯覚という)が崩壊します。失敗、欲求不満の体験や不安感を持つのです。しかし、このとき母親の感覚を思い出させる移行対象に触れることで、幼児は欲求不満や不安を軽減します。移行対象は、分離不安に対する防衛と言えるでしょう。主体性や自主性が育っていくにつれ、現実の客観的世界と、現実的で安定した相互作用ができるようになり、全能感は適度な自尊心へと変わっていきます。これをウィニコットは「脱錯覚」と呼びました。
 
 つまり、移行対象は、幼児の錯覚が脱錯覚されていく過程における代理的な満足対象といえるのです。このように、「M3GAN/ミーガン」は、小此木啓吾やボウルビイやウィニコットらの精神分析学の理論が次々に思い浮かんでくる、グリーフケアの視点から見ると非常に興味深い映画でした。そもそも、人形というものは人間の形をしているゆえに不気味なもの。この映画の製作者でもあるジェームズ・ワンは、"史上最も呪われた実在する人形"についての映画も作っています。「アナベル 死霊人形の誕生」(2015年)です。一条真也の映画館「死霊館」で紹介した、実在の心霊研究家夫妻が体験した不吉な出来事を描いた大ヒットホラーのスピンオフ作品です。同作に登場した人形アナベルを手に入れた夫婦が遭遇する壮絶な恐怖と、呪いのアナベル人形誕生の秘密を描いています。
 
 そのジェームズ・ワンとブラムハウスのジェイソン・ブラムは、10年ぶりに最強タッグを組みました。「ソウ」「死霊館」「アナベル」シリーズで知られる巨匠ジェームズ・ワンと、「ハロウィン」「透明人間」のジェイソン・ブラム率いるブラムハウスが待望の再タッグを組み、心に傷を負った少女の親友になるようプログラムされたAI人形の行き過ぎた愛情と狂気を描く制御不能サイコ・スリラーが「M3GAN/ミーガン」です。特別映像で、ワンは「僕のあだ名は"人殺し人形映画の達人"」と自らを冗談めいた様子で説明。そんなワンをブラムは「ジェームズはホラー界のレジェンドだ」と尊敬の念をこめて補足。また、本作に製作総指揮でも参加し、ミーガンの開発者ジェマ役を演じたアリソン・ウィリアムズは「ブラムハウスの作品が大好きなの。ジェームズとチームを組むのはワクワクしたわ」と語るのでした。「M3GAN/ミーガン」には、製作者たちの愛情もたっぷり詰まっているのです!

映画館でミーガン・グッズを求めました