文化の日、映画「ゲット・アウト」を観ました。アメリカのお笑いコンビ"キー&ピール"のジョーダン・ピールが監督・脚本を務めたサプライズ・スリラーです。低予算ながらも全米初登場でNO.1大ヒットを記録し、監督デビュー作にも関わらず米映画レビューサイトで99%大絶賛された話題作です。

 ヤフー映画の「解説」には以下のように書かれています。

「『パラノーマル・アクティビティ』シリーズなどを手掛けてきたプロデューサー、ジェイソン・ブラムが製作に名を連ねたスリラー。恋人の実家を訪ねた黒人の青年が、そこで想像を絶する恐怖を体験する。メガホンを取るのはコメディアンのジョーダン・ピール。『Chatroom/チャットルーム』などのダニエル・カルーヤ、ドラマシリーズ「GIRLS/ガールズ」などのアリソン・ウィリアムズらが出演する」

 また、ヤフー映画の「あらすじ」には以下のように書かれています。

「ニューヨークで写真家として活動している黒人のクリス(ダニエル・カルーヤ)は、週末に恋人の白人女性ローズ(アリソン・ウィリアムズ)の実家に招かれる。歓待を受けるが、黒人の使用人がいることに違和感を覚え、さらに庭を走り去る管理人や窓に映った自分を凝視する家政婦に驚かされる。翌日、パーティーに出席した彼は白人ばかりの中で一人の黒人を見つける。古風な格好をした彼を撮影すると、相手は鼻血を出しながら、すさまじい勢いでクリスに詰め寄り・・・・・・」

 いやあ、この映画、もう何を語ってもネタバレになりそうです。こういう映画の感想を書くのが一番難しいのですが、まったく未知のジャンルのスリラーかというと、そうではありません。これまでにも何度か、こういうタイプの恐怖をスクリーンで観た既視感があります。いわゆる「どこか違和感があると思っていたら、やっぱり変だった」、さらに言えば、「なんとなく怪しいと思っていた人々が、やっぱりイカれた連中だった」というやつですね。

 このタイプの最近の映画で思い出すのは、M・ナイト・シャマラン監督が手掛けた「ヴィジット」(2015年)です。3つの奇妙な約束事がある祖父母の家にやって来た姉弟が体験する恐怖を描いています。明らかに様子がおかしい祖父母、夜中に聞こえる音、襲ってくる女・・・・・・予測不能な展開に観客は引き込まれます。この映画、「パラノーマル・アクティビティ」シリーズなどのジェイソン・ブラムが製作していますが、じつは「ゲット・アウト」も同じです。「「ゲット・アウト」を観て、すぐに「ヴィジット」を連想したわたしの勘は当たっていました。

 それから、「ヴィジット」と同じ年に製作された「インビテーション」(2015)も類似のスリラー映画です。シッチェス・カタロニア国際ファンタスティック映画祭2015で最優秀長編映画賞に輝いた作品です。音信不通だった元妻からパーティーに招かれた男が、思わぬ事態に直面する恐怖を描いています。全編に不穏と緊張が満ちており、観ているだけで不安な気分になってきます。最後には衝撃的なラストが待っています。

「インビテーション」にはカルト宗教が関わっていますが、このテーマでは、「ザ・ビーチ」(1999)を思い出します。大ヒットした「タイタニック」の直後にレオナルド・ディカプリオが主演したミステリアス・アドベンチャーで、現実感を喪失した現代のリアルな若者像が浮き彫りにされていきます。未知の刺激を求めてタイのバンコクへとやって来た青年リチャードは、地上の楽園と呼ばれる伝説の孤島の噂を耳にします。そこから地獄のような物語が始まるのでした。

 まだ観ていないのですが、「ザ・サークル」(2017)も気になります。 ちょうど「ゲット・アウト」が上映される前の予告編で知ったのですが、この映画にも同じ匂いを感じます。「ハリー・ポッター」シリーズや「美女と野獣」のエマ・ワトソンがトム・ハンクスと共演した、巨大なソーシャル・ネットワーキング・サービスがもたらす脅威を描くサスペンスだとか。SNS企業に就職し、自らの24時間を公開することで世界中から注目されるヒロインを通して、想像もしなかった事態を映し出すそうです。これは楽しみですね!

 さて、「ゲット・アウト」には人種差別というテーマがあります。黒人男性が白人女性のフィアンセの実家を訪問する物語ですが、これは「招かれざる客」(1967年)と同じ設定ですね。アメリカ映画で、原題は「Guess Who's Coming to Dinner」です。第40回アカデミー賞において作品賞を含む10部門の候補となり、キャサリン・ヘプバーンが主演女優賞を、ウィリアム・ローズが脚本賞を受賞しました。公開を前に亡くなったスペンサー・トレイシーの遺作でもあります。

「招かれざる客」は、黒人青年と白人女性の結婚を巡る双方の家族の葛藤を描いた映画ですが、リベラリストとして娘の結婚を理解しつつも認めることができない新聞社社長を演じたスペンサー・トレイシーが印象的でした。彼はこの映画の公開前に亡くなり、この作品が遺作となりました。一方、娘の結婚にとまどいながらも娘の幸せを思って結婚に賛成する母親をキャサリン・ヘプバーンが熱演。娘はキャサリン・ホートンが演じましたが、彼女は「愛する男性との結婚に障害などない」と信じ切っていました。そして、主役の黒人男性ジョンはシドニー・ポワチエが演じました。ジョンは世界的に高名な黒人医師で、かつて妻子を事故で失っています。そして、彼は結婚への障害を現実的に理解しているのでした。

 同じような設定であっても、社会派ドラマの名作として名高い「招かれざる客」とサプライズ・スリラーの「ゲット・アウト」では、まったく違う味わいの映画になっています。「ゲット・アウト」が米映画レビューサイト「TOMATO」で99%大絶賛されたというのは、ちょっと驚きです。アメリカ人は人種差別というテーマをエンターテインメントとして消化できるのでしょうか。わたし個人の感想をいえば、人種差別を感じさせるようなシーンはやはり不快でしたし、さらに言えば、主人公が黒人である必然性すら感じられず、「別に黒人でなくてもいいのでは?」と思ってしまいました。

 黒人が主演の人種差別をテーマとしているといえば、一条真也の映画館「ムーンライト」で紹介した映画があります。第89回アカデミー賞で作品賞、助演男優賞、脚色賞に輝いた作品です。タイトルの「ムーンライト」というのは、「月光の下では黒人の少年は青く見える」という老婆の言葉からきているそうです。この「ムーンライト」すなわち月光は「平等」のシンボルと言ってよいでしょう。月光の下では、白人も黒人も黄色人も、ノーマルもゲイも、金持ちも貧乏人も、みんな平等なのです。そして、月光は「慈悲」のシンボルでもあります。わたしたちは、月光のような慈悲の心をもって、すべての人に接していきたいものです。