No.848
「建国記念の日」の2月11日、U-NEXTで映画「ジョー・ブラックをよろしく」を観ました。この日は次回作『リメンバー・フェス』(オリーブの木)の追加原稿を書いていましたが、同書の内容にぴったりの物語でした。
「ジョー・ブラックをよろしく」は、マーティン・ブレスト監督、ブラッド・ピット主演の1998年の映画です。ブラッド・ピットが地上に降り立ち人間の女性との恋に落ちる死神に扮したロマンティックなファンタジーです。事故死した青年(ブラッド・ピット)の姿を借りて、1人の死神がマンハッタンに現れました。ジョー・ブラックと名乗るその人物(ブラッド・ピット)は大富豪パリッシュ(アンソニー・ホプキンス)の元を訪れます。その理由は、パリッシュの死期が近いためでした。
パリッシュが天命を全うするまでにはまだ少しの時間が残されていました。死神ことジョー・ブラックはそれまでの短い間を休暇とし、パリッシュの案内で人間界の見学を始めました。しかし、パリッシュの娘スーザン(クレア・フォーラニ)はジョーの姿に驚きます。彼の姿はその日の朝に出会ったばかりの魅力的な男性その人だったからです。そして、ジョーもスーザンの好意を気にかけるようになっていきます。2人は徐々に愛を深めていき、人間の恋愛を知ったジョーは彼女をあの世に連れて行きたいと葛藤するのでした。ここから切ないラブロマンスが展開されます。
1998年のこのファンタジー映画をなぜ今頃観たかというと、今朝スマホでショート動画をアトランダムに観ていたら、突然、ライチャス・ブラザーズの「アンチェインド・メロディ」をBGMとした若き日のブラッド・ピットの映像が現れたからです。わたしと彼は1963年生まれで同い年ですが、その動画の彼はとても若くて魅力的でした(当時のブラピは35歳)。彼が美女と別れた後も何度も後を振り返るという動画でしたが、わたしはとても心を奪われました。おそらくは何かの映画が出典だと思いましたが、その映画のタイトルがわかりません。それで、「ハリウッド・リポーター」でコラムを連載しているアキさんにLINEで問い合わせたところ、「ジョー・ブラックをよろしく」だと判明しました。5回もこの映画を観たというアキさんいわく、「ブラピ史上一番美しい映画ですよ!眼福♡」とのこと。これは、もう絶対観なければ!
早速、U-NEXTで「ジョー・ブラックをよろしく」を観始めたのですが、なんと181分もあると知ってビックリ! 前日に一条真也の映画館「瞳をとじて」で紹介した上映時間169分の映画を劇場で観たばかりだったので少し怯みましたが、観始めると面白くて一気にラストまで鑑賞しました。くだんのショート動画の直前のシーンも観ました。ここでブラピ扮する青年がクレア・フォーラニ扮するスーザンと初めて出会うのですが、彼はスーザンに話しかけます。いわゆるナンパなのですが、いやらしさはゼロです。立ち回りがスマートすぎて、男のわたしでもウットリとしてしまいました。流石としか言えません。ブラピと(わたしとも)同い年の松本人志に見せてやりたいですね。
キスするジョーとスーザン
キスするジョーとスーザン
互いに心を惹かれ合ったジョーとスーザンはパリッシュ家の書斎で初めてキスをします。そのとき、スーザンの方から「キスしてもいい?」と訊ねて、ジョーが「ああ」と答えるのですが、これは男性にとっては理想のキスだと思いました。昔なら「好きな女性の唇を奪え」とか「自分の感情に素直になれ」などと当たり前のように言われていましたので、男性の方から女性を抱き寄せてキスをするというのが一般的だったと思います。しかしながら、昨今の性加害報道などを見ると、たとえ最後までいって肉体関係を結んだとしても、女性側が「本当は嫌だったけど、怖くて拒絶できなかった」と言えば、その瞬間に男性が性犯罪者になってしまう時代です。女性であるスーザンの方から「キスしてもいい?」と言ってくれるのは、現在の男性たちにとっては理想のシチュエーションだと思いました。
ブラックのブラック・フォーマル姿
愛し合うジョーとスーザン
それにしても、ブラピとクレア・フォーラニの美しさといったら! 絶世の美男美女です。やっぱり、映画はこうでなくてはいけません。「くたばれ、ポリコレ!」と心の中でつぶやきながら、このファンタジックなラブストーリーを堪能しました。特に終盤で展開されるパリッシュの65歳のバースデー・パーティーでタキシードを着たブラピがもう神々しいまでの美しさでした。黒のタキシードにブラック・タイにブラック・ベスト...ジョー・ブラックのブラック・フォーマルに見とれてしまいました。カクテルドレスに身をまとったスーザンも美しかったです。この世のものではない存在が人間と恋に落ち、苦悩する......映画らしいファンタジーと悲恋を描いたラブストーリーですが、すっかり魅了されました。
愛娘スーザンと踊るパリッシュ
花火を背景に語り合うパリッシュとジョー
撮影当時61歳だったアンソニー・ホプキンスも良かったです。現在のわたしが60歳なので、「61にしてはちょっと老け過ぎかな」とも思えますが、ブログ「ファーザー」で紹介した映画で昨年のアカデミー賞主演男優賞を獲得した名優ぶりをしっかり発揮していました。「ジョー・ブラックをよろしく」はホプキンス演じるパリッシュが自分が社長を務める会社を守る物語でもあるのですが、お金よりも会社の理念というものを優先した彼の経営者としての生きざまに感銘を受けました。また、彼は最愛の妻を亡くしてグリーフを抱えて生きているのですが、2人の娘に愛情を注ぐ姿に共感しました。彼の65歳のバースデー・パーティーで、タキシード姿の彼が次女スーザンと一緒にダンスするシーンは感動的でした。
花火を見るジョー・ブラック
花火の美しさに感動したジョーの目には涙が...
パリシュのバースデー・パーティーの最後は、花火が打ちあがります。わたしはちょうど『リメンバー・フェス』を書いているところですが、同書に「花火は、この世とあの世を繋ぐアート」だと書きました。日本でも、お盆の花火大会で打ち上げられる花火は、この世の生者を楽しませるだけでなく、死者のためのエンターテインメントでもあると思います。この映画では、死の世界の住人である死神が花火を見て、そのあまりの美しさに感動して涙を流すシーンがあります。涙を流す若き日のブラピは花火と同じくらい美しいのですが、このシーンは花火が彼岸と此岸に橋を架ける芸術であることを見事に表現していました。死神であるジョーがパリッシュをあちら側に連れて行くシーンの背景でも、花火が夜空を彩りました。ちなみに『リメンバー・フェス』のカバー表紙に花火のイラストが入ります。
老婆の最期を看取るジョー
最後に、ジョーがスーザンが勤務している病院を訪ねたとき、ジョーは重病に冒されたジャマイカ出身の老婆と出会います。霊感の鋭い老婆はジョーの姿を見て、「死神!」と怯えますが、「あなたを迎えに来たわけではありませんよ」とジョーは優しく語りかけます。その後、ジョーはスーザンに贈ろうと思っていた花束を持って老婆の病室を訪ねます。ジョーは、お迎えが来ることを待っている老婆に「あなたを迎えに来たのではない」と繰り返し、スーザンと互いに愛し合っていることを告白します。老婆は、「この世に生まれてきた人間は、島に遊びに来た観光客のようなもの。思い出に残る写真をたくさん撮ったら、満足して帰らないといけない」と言って、息を引き取るのでした。この言葉を聴いて、人生の一瞬一瞬が愛おしく感じられました。この日は、たまたまショート動画で目に入ったシーンから映画全編を観たわけですが、執筆中の『リメンバー・フェス』の内容や装丁も含めて、大きなヒントを得ました。いつもは2日前に予約した映画を劇場で観ることが多いのですが、たまには偶然に導かれた映画鑑賞も良いものですね。きっと、映画の神様の計らいだと思います。