No.849

 バレンタインデーの前日となる2月13日、日本映画「レディ加賀」をシネプレックス小倉で観ました。一条真也の映画館「カノン」で紹介した中国のアカデミー賞とされる金鶏百花映画祭の国際映画部門で 最優秀作品賞・最優秀監督賞・最優秀女優賞の三冠を達成した映画や 一条真也の映画館「レッドシューズ」で紹介した小生もチョイ役で出演した映画でメガホンを取った雑賀俊朗監督の最新作です。とても面白かったです!

 ヤフーの「解説」には、「石川県の加賀温泉を盛り上げるために旅館の女将たちが結成したプロジェクト『レディー・カガ』を題材に描く人間ドラマ。タップダンサーの夢破れて実家で女将修行を始めた主人公が、地元を盛り上げるためにタップダンスのイベントを行う。監督などを手掛けるのは『レッドシューズ』などの雑賀俊朗。『貞子DX』などの小芝風花のほか、松田るか、中村静香、八木アリサ、森崎ウィン、檀れいらが出演する」とあります。

 ヤフーの「あらすじ」は、「石川県・加賀温泉にある老舗旅館ひぐちの一人娘・樋口由香(小芝風花)は、上京してタップダンサーを目指していた。しかしなかなか芽が出ず夢を諦めた彼女は、実家の旅館に戻って女将修行を始める。日々の業務に苦戦する中、加賀温泉を盛り上げるためのプロジェクトが発足し、由香は新米女将たちを集めてタップダンスのイベントを開催する」となっています。

「レディ加賀」は「レッドシューズ」よりずっと面白かったです。「レッドシューズ」は全編ストレスフルな物語でしたが、「レディ加賀」はトラブル続きでも明るいところが良かったです。何より、小芝風花のタップダンスシーンが素晴らしかったです。さすがは、フィギュアスケートで活躍しただけあって身体能力も高く、そのダンスはプロのようでした。小学3年生から中学2年までの5年間、フィギュアスケートで冬季オリンピックを目指しバッジテスト7級も取得して打ち込んでいたそうですね。2011年、「イオン×オスカープロモーションガールズオーディション2011」でグランプリに輝き、芸能活動との両立は難しいと考えて選手を引退しました。

 小顔で可愛らしい小芝風花ですが、現在26歳とのこと。彼女を有名にしたのは、2014年の映画「魔女の宅急便」のキキ役です。宮崎駿によってアニメ化もされた、角野栄子の名作児童文学を原作にしたファンタジードラマですね。一人前の魔女になるための修行として、知らない町で1年間生活する13歳の少女キキがさまざまな出来事を通して成長するさまを見つめる。監督は、「呪怨」シリーズの清水崇。当時16歳で初主演を務めた小芝について、原作者の角野栄子は、「すごくかわいらしくてイメージ通りです。今まで生身のキキを見たいとずっと思っていました」と語っています。とても素敵なコメントですね。

 加賀温泉を盛り上げるため地元の若い女性たちがタップダンスに挑戦するというストーリーは、映画「フラガール」(2006年)を連想させます。昭和40年代、福島県の炭鉱町に誕生した常磐ハワイアンセンターにまつわる実話を基に、フラダンスショーを成功させるために奮闘する人々の姿を描いた感動ドラマです。李相日監督がメガホンをとり、石炭から石油へと激動する時代を駆け抜けた人々の輝きをダンスを通じて活写。主演の松雪泰子をはじめ、蒼井優南海キャンディーズの"しずちゃん"こと山崎静代らが魅惑的なフラダンスを披露しました。「レディ加賀」を観て、「フラガール」を思い出す人は多いはず。

決定版 おもてなし入門』(実業之日本社)



 雑賀監督の映画はあらゆる年代の美人女優(あえてこういう表現を使っているので、ツッコミはやめて下さい)が出演していますが、今回は老舗旅館ひぐちの女将を演じた壇れいが美しかったですね。そう、小芝風花は可愛いけど、壇れいは美しい! 彼女の着物姿も似合いますし、所作も綺麗でした。さすがは宝塚歌劇団の娘役スターだっただけありますね。彼女が語る「おもてなし」の心得もなかなか説得力がありました。彼女は「一期一会」の精神を大切にして旅館では抹茶のサービスを行います。拙著決定版 おもてなし入門(実業之日本社)にも書いたように、「おもてなし」というジャパニーズ・ホスピタリティの精神は茶道に極まります。ホテル業や冠婚葬祭業を営むわが社でも、茶道による社員教育に力を入れています。

「レディ加賀」の全国公開は2月9日からでしたが、石川県では2日から先行上映されました。それにしても、1月1日に能登半島地震が発生したことは運命のいたずらとしか思えません。ほぼ壊滅状態となった和倉温泉をはじめ、石川県の温泉郷はいずれも宿泊客が激減しました。加賀温泉も例外ではありません。映画の中で、佐藤藍子演じる女将養成セミナーの講師が「加賀温泉はこれまで3度の危機を乗り越えてきました。能登半島地震、東日本大震災、そしてコロナです」と語っていましたが、まさか映画の公開直前に震度7の大地震が起こるとは! でも、地震の前に映画が完成したことは不幸中の幸いで、地震後の製作は難しかったと思います。なお、「レディ加賀」の配給収入の5%が石川県の復興のために寄附されるそうです。

「レディ加賀」というグループには、モデルがあります。実際に加賀温泉郷に存在する「レディー・カガ」です。レディー・カガ公式HPには、「ようこそ、加賀温泉郷へ。わたしたち『レディー・カガ』が、お迎えします。平成23年10月10日、加賀温泉郷にレディー・カガが誕生しました。レディー・カガは、加賀温泉郷の情報発信、おもてなしの向上を目指し、立ち上げたプロジェクトです。キャッチコピー、プロジェクトの名称である『レディー・カガ』は、『おもてなしの心を持った加賀の女』をイメージしました。インターネット、新聞、雑誌、メディアをなどを活用したPR活動や、各種イベントの主催・協力など、情報発信・宣伝活動を通じて加賀温泉郷の魅力を少しでも県内外の方にお届けできるよう、日々努めてまいります」と書かれています。レディー・ガガもびっくりですね!

「レディ加賀」の最大の見せ場は、やはりラストの新米女将たちを集めてのタップダンスのイベントです。ここに至るまで、本当にいろんな想定外のトラブルが発生しました。まず、ダンスの教師役の由香の指導がメンバーに受け入れらえず、本番まで2週間となって焦っていたところ、プロの指導者が呼ばれます。彼の教え方は非常に楽しく、みんな喜んでダンスが上達していきました。このへんは、コーチングの神髄を垣間見ることができました。また、「レディ加賀」としてタップダンスを披露するというアイデアを思いついた森崎ウィン演じる観光プランナーの花澤譲治が、スポンサーからの協賛金500万円を持ち逃げしました。彼彼は衣装や音響装置や舞台装置も何も発注しておらず、イベントの開催まで数時間しかないときも、火事場の馬鹿知恵のような奇抜なアイデアで乗り切りました。

 いよいよイベントが開催された日、ステッキ・ダンスの本番直前に出演者の1人がステッキを折ってしまいます。しかし、由香は女将修行で風呂掃除したときを思い出して、「そうだ、ステッキの代わりにデッキブラシを使えばいい!」と思いつくのです。その他にも、さまざまなトラブルが「これでもか、これでもか」と波状攻撃で襲いかかってくるのですが、由香をはじめとしたレディ加賀のメンバーたちは次々に奇想天外な方法で乗り切っていきます。わたしは、ここに一番感銘を受けました。「SHOW MUST GO ON」という言葉があります。かのジャニー喜多川も好んだ言葉でしたが、意味は「始めたショーは必ず最後までやらなければならない」というショービジネスの掟です。「レディ加賀」のダンスイベントにはまさにこの精神が溢れていました。じつは、この日はわが社の企画担当の連中と一緒に映画鑑賞したのですが、どんなトラブルが起こっても「なんとかする」という姿勢は、イベントのみならず、結婚式や葬儀でも必要とされます。彼らも、大事なことを学んだように思います。

 ダンスイベントはいろいろと興味深いシーンの連続でしたが、二番目の出し物に「おかめ」と「ひょっとこ」の面を被った2人が踊るのが印象的でした。というのも、ブログ「『やさしい笑い』の時代」に書いたように、これからの時代は殺伐とした格闘技のようなお笑いではなく、「やさしい笑い」が求められると思います。「やさしい笑い」には2つの意味があって、1つは「人にやさしい笑い」。誰をも傷つけないコンパッションのある笑いです。もう1つは、「誰にでも理解できるやさしい笑い」。「M-1」に登場する漫才コンビのような難解な笑いではなく、老若男女が誰でも笑えるユルイ笑い。それには、芸人が一目で笑えるような外見をしている、つまりは道化である必要があります。そう、チャップリンのような笑いですね。「おかめ」と「ひょっとこ」のお面は、まさに日本的な「やさしい笑い」のシンボルです!

 最最後に、この映画のハイライトは、ポスターでも使われたデッキブラシでの群舞です。本当に観ていて楽しく、ハッピーな気分になりました。わたしは、広末涼子が1997年に発表したセカンド・シングル「大スキ!」のMVで大きなデッキブラシを持って踊るシーンを連想しました。あのときのヒロスエは可愛かったですね。「カノン」では佐々木希や比嘉愛美、「レッドシューズ」では朝比奈彩や観月ありさなど、新作のたびに日本を代表する美女を起用し続ける雑賀監督ですが、次はぜひ広末涼子を使ってほしいですね。他にも、斎藤由貴とか鈴木杏樹、唐戸えりかなど、わたし好みの各世代の美女にもオファーを出してほしいですね。え、不倫で世間を騒がせた女優ばかりじゃないですかって? いや、たまたま「不倫」つながりになっていますが、彼女たちの演技力は本物です。わたしとしては、斉藤由貴・鈴木杏樹・広末涼子・唐戸えりかが四姉妹を演じる現代版「細雪」みたいな映画が観たいですね。もし本当にそんな映画が実現したら、ぜひ舞台挨拶で花束贈呈させていただきたい!
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金沢紫雲閣の大谷総支配人と


 最後に、このブログ記事を読んだ金沢紫雲閣の大谷賢博総支配人からLINEが届きました。彼は能登半島地震の被災者ですが、「『レディ加賀』私も観ました。タップダンスの床を打ち鳴らす音は、まるで『辛い状況の中でも、私たちは一歩ずつ生きていく』という『命の鼓動』に聞こえました。2次避難先となっている場所が北陸新幹線の敦賀延伸を控え、観光客の受け入れもあるからと言って、2次避難者の受け入れをやめる旅館も出てきました。避難者が転居せざるを得ない状況となっている現実。そんな中で加賀温泉観光協会は、『被災した人への支援を続けなければいけない』と、4月以降も受け入れ継続の考えを表明しました。被災者として感謝の気持ちでいっぱいです。この映画が出来るだけ多くの人に届きますように。そう切に思いながら鑑賞しました」とのメッセージを送ってくれました。映画がヒットし、石川県の復興に繋がりますように!