No.861


 NETFLIX映画「終わらない週末」を観ました。ネトフリ世界ランキング1位のスリラー話題作ということで観たのですが、豪華キャストのわりには正直あまり面白いとは思いませんでした。ただ、現代社会における電子依存の危険性を的確に指摘し、アメリカ人が抱いている終末への不安を視覚化することには成功していますね。
 
 ヤフーの「解説」には、こう書かれています。
「[Netflix作品]ルマーン・アラムの小説『終わらない週末』を映画化したドラマ。借りた別荘で週末を過ごしていた一家が、建物の持ち主を名乗る人物の来訪によって世界が崩壊しつつあることを知る。監督はドラマシリーズ『MR.ROBOT/ミスター・ロボット』などのサム・エスメイル。『チケット・トゥ・パラダイス』などのジュリア・ロバーツ、『グリーンブック』などのマハーシャラ・アリ、『テスラ エジソンが恐れた天才』などのイーサン・ホークのほか、マイハラ、ケヴィン・ベーコン、ファラ・マッケンジーらが出演する」
 
 ヤフーの「あらすじ」は、以下の通りです。
「クレイ(イーサン・ホーク)とアマンダ(ジュリア・ロバーツ)の夫婦は豪華な別荘を借り、息子のアーチー(チャーリー・エヴァンズ)娘のローズ(ファラ・マッケンジー)と一緒にのんびりと週末を過ごそうとしていた。別荘に到着したアマンダたちだったが、なぜかスマートフォンやパソコンが使えない状態に陥る。困惑しているところへ、別荘の持ち主を名乗るG.H.(マハーシャラ・アリ)と彼の娘ルース(マイハラ)が現れ、サイバー攻撃から避難してきたと話す」
 
「終わらない週末」の原題は「LEAVE THE WORLD BEHIND」というのですが、邦訳が秀逸ですね。なぜなら、「週末」と「終末」をかけているからです。そう、この映画は終末の恐怖を描いているのですが、不安を煽るだけ煽って、最後は「?」といった内容なのです。わたしは、「M・ナイト・シャマランの映画みたいだな」と思いました。特に、一条真也の映画館「ノック 終末の訪問者」で紹介した2023年のシャマラン映画を連想しました。山小屋で休暇を楽しんでいた一家が、家族の犠牲か世界の終わりかの選択を突きつけられるという物語です。これが、これまで観た全映画の中でも最低レベルの駄作だったのです。

「ザ・ハリウッド・リポーター」より
 
 
 
「終わらない週末」という作品の存在は、映画コラムニストの堀田明子(アキ)さんが「ザ・ハリウッド・リポーター・ジャパン」に書いた「Netflix『終わらない週末』をネタバレで考察!賛否あるラストの意味は?」という記事で知りました。アキさんは、「終わりを迎えようとする世界では、最新技術は全く役に立ちません。自動運転するテスラは誤作動を起こし追突し始め、テレビは電波が届かず最新ニュースも見れません。現代の私たちが最も依存しているスマホももちろん起動せず、2組の家族は路頭に迷います」と書いています。
 
 この映画には、いろいろと不気味なシーンが登場します。中でも、海辺の砂浜で主人公一家が休日を楽しむ冒頭のシーンで、巨大なタンカーが砂浜に乗り上げてくる光景はインパクト大でした。タンカーが接近してくるのを娘のローズが最初に気づくのですが、一家は慌てて逃げだします。船を制御するコンピューターが故障してナビゲーションが狂ってしまったからという説明がありますが、この信じられないような出来事が一連の恐怖の幕開けでした。
 
 他にも、不気味なシーンが多くありました。鹿の群れが人間を囲むシーンとか、別荘のプールにフラミンゴが集まるシーンなどはヒッチコックの名作「鳥」を連想させます。「一体、どうやって撮影したの?」と思ってしまいますが、わたしが一番印象に残ったのは、道路上に無人のテスラの自動運転車が玉突き事故の状態で大量に放置されているシーンでした。現在、サンフランシスコでは、2023年8月からスタートした完全自動運転タクシーのトラブルが相次ぎ、市民から反対運動が起こっているそうです。
 
 テスラの設立者にして経営者は、イーロン・マスクです。彼は前大統領のドナルド・トランプの支持者として知られます。最近も両者は会談しており、テスラや電気自動車に関連する話題もあったのではないかと言われています。3月8日、前大統領のドナルド・トランプがアメリカでTikTokが禁止になる可能性に反対を唱え、メタ(Meta)のCEOでフェイスブック創業者のマーク・ザッカーバーグを激しく非難したことを受けて、トランプを支持すると表明しています。ドナルド・トランプとイーロン・マスクがタッグを組めば、これはもう破壊力抜群ですね。
 
 そのトランプ前大統領は2月10日、大統領在任中にNATO=北大西洋条約機構の加盟国に対して、適切に国防支出を増やさなければ「ロシアに攻撃するようけしかける」と警告したことを明らかにしました。トランプは演説の中で、自身が大統領在任中、NATOのある主要加盟国の首脳に対し、「国防費を適切に負担しなければ、ロシアが攻撃してきてもアメリカは支援しないと伝えた」と主張したのです。この発言に対し、NATOのストルテンベルグ事務総長は翌11日に声明を出し、「同盟国が互いに防衛しないと示唆することは、アメリカを含むすべての加盟国の安全保障を損ない、アメリカとヨーロッパの兵士を危険にさらすことになる」と批判しました。
 
 この「終わらない終末」という映画、バラク・オバマ元大統領とミシェル・オバマ夫人を製作総指揮に迎えているそうです。オバマ元大統領が自身の「お気に入り映画2023」の中で選ぶほどのお気に入り作品だそうですが、そこにはどうしても政治的な匂いを感じます。つまり、ノーベル平和賞を受賞したオバマの次に大統領になったトランプが再選して戦争を起こすことの悪夢を描いているように思えるのです。映画の中では謎のサイバー攻撃を受けた原因について、ケヴィン・ベーコン演じる男が「北朝鮮か、中国の仕業だろう」と言います。「いや、敵はイラクではないか」と言うクレイ(イーサン・ホーク)に対して、男は「戦争になって、アメリカに恨みのある連中が寄ってたかって攻撃したのさ」と語るのでした。
 
 ラスト近くでは、マンハッタンにキノコ雲が上がり、それをアマンダ(ジュリア・ロバーツ)やルース(マイハラ)が呆然と眺めるシーンがあります。ついにアメリカが核攻撃を受けたのです。9・11以来、アメリカは得体の知れない敵からの攻撃を受けるという不安を抱えています。そして、最大の不安こそが核攻撃を受けることでしょう。しかし、その核兵器そのものを作ったのはそもそもアメリカなのです。開発者は、物理学者のJ・ロバート・オッペンハイマーです。彼の生涯を描いたクリストファー・ノーラン監督の映画「オッペンハイマー」(2023年)は、第96回アカデミー賞において作品賞をはじめ7冠に輝きました。オッペンハイマーが開発した原子爆弾は日本に二度落とされ、広島と長崎にはキノコ雲が上がりましたが、「終わらない終末」ではマンハッタンにキノコ雲が上がったわけです。これは、因果応報あるいは自業自得なのか?
 
「終わらない週末」のラストシーンは不可解とされているようですが、わたしはそれほど深読みする必要はないと感じました。一言でいって、ローズ(ファラ・マッケンジー)の1人勝ちといった印象です。彼女は、1994年から2004年まで放送された「フレンズ」の大ファンでした。「フレンズ」は、ニューヨークに住む男女6人の友情や恋愛を描いたシットコムドラマです。シェルターにたどり着いたローズは、ずっと観たかった「フレンズ」最終話のDVDを発見します。笑みを浮かべて再生するところで幕が閉じます。わたしは今でもDVDで映画を観ることが多いですが、世はまさに配信サービス全盛の時代ですね。
 
 アキさんは「私たちの世界では配信サービスが好調だというニュースが流れるなか、サイバー攻撃を受けた『終わらない世界』ではNetflixなど動画配信は一切見れず、起動できたのはDVDデッキだけという皮肉な演出。便利すぎる現代社会の脆さがあぶり出されていきます」と指摘します。「最終回が気になって仕方ない」というローズに対して、母のアマンダは「真剣になりすぎじゃない?」と答えます。アキさんは「『終わらない週末』のラストの意味をどうしても解決したいという視聴者に、もっと気楽に映画を楽しもうよという監督からのメッセージに聞こえてなりません」と書いていますが、わたしも同感であります。