No.862


 15日の夜、この日から公開されたSF大作映画「デューン 砂の惑星PART2」シネプレックス小倉で観ました。一条真也の映画館「「DUNE/デューン 砂の惑星」で紹介した映画の続編。上映時間166分の長さで眠くはなりましたが、前作に続いてSF映画の歴史を塗り替える大傑作でした。

 ヤフーの「解説」には、「『メッセージ』などのドゥニ・ヴィルヌーヴが監督、『君の名前で僕を呼んで』などのティモシー・シャラメが主演を務め、フランク・ハーバードの小説を映画化したSFの第2弾。宇宙帝国の統治者である皇帝に命を狙われる主人公が、惑星デューンの砂漠に暮らす先住民フレメンの女性らと共に反撃を開始する。ゼンデイヤ、レベッカ・ファーガソンなど前作の出演者のほか、オースティン・バトラー、フローレンス・ピュー、レア・セドゥなどが共演に加わる」と書かれています。

 ヤフーの「あらすじ」は、「その惑星を支配する者が、全宇宙を制すると言われる砂の惑星デューン。宇宙帝国を統べる皇帝とハルコンネン家に命を狙われるポール(ティモシー・シャラメ)は、先住民フレメンのチャニ(ゼンデイヤ)と共に数奇な運命に翻弄されながらも、皇帝とハルコンネン家への反撃に立ち上がる」となっています。

 前作の「DUNE/デューン 砂の惑星」は、2021年の一条賞(映画篇)大賞に選んだぐらい素晴らしい名作でした。人類が地球以外の惑星に移り住み宇宙帝国を築いた未来。皇帝の命により、抗老化作用のある秘薬「メランジ」が生産される砂の惑星デューンを統治することになったレト・アトレイデス公爵(オスカー・アイザック)は、妻ジェシカ(レベッカ・ファーガソン)、息子ポール(ティモシー・シャラメ)と共にデューンに乗り込みます。しかし、メランジの採掘権を持つ宿敵ハルコンネン家と皇帝がたくらむ陰謀により、アトレイデス公爵は殺害されてしまいます。逃げ延びたポールは原住民フレメンの中に身を隠し、やがて帝国に対して革命を決意するのでした。

 一条真也の読書館『ハリウッド映画の終焉』で紹介した宇野維正氏の著書を読んで知ったのですが、ヴィルヌーヴ監督は、「『DUNE/デューン 砂の惑星』は私がこれまで作った映画の中で圧倒的に最高の映画だ。私たちは3年以上の歳月をかけて、ビッグスクリーンでユニークな体験ができるようにこの作品を作り上げた。その映像と音響は、映画館で見るために綿密に設計されたものだ」と語っています。確かに、前作・今作ともに、映画館で観るべき映画だと言えるでしょう。できればIMAXでの視聴が理想だと思います。間違っても、スマホの小さな画面などで観る映画ではありません。

 また、ヴィルヌーヴ監督は「映画やシリーズ作品を創造するのはアーティストの仕事だ。ウォール街の連中が何を言おうと、映画の未来はビッグスクリーンの中にあると私は強く信じている。有史以来、人間は共同して物語を語る体験を強く必要としてきた。ビッグスクリーンで上映される映画は単なるビジネスではなく、人と人を結びつけ、人間性を称え、互いの共感を高めるアートだ。それは、私たちが直接人と対面し合ってシェアすることができる、最も芸術的な集団体験の1つだ」とも語っています。この発言は、非常に示唆に富んでいますね。

 「デューン 砂の惑星PART2」は前作のクオリティを受け継ぎながらも、面白さにおいては前作を上回っています。物語の設定や登場人物の名前など少々ややこしく感じる部分もありますが、かの「スターウォーズ」シリーズに多大な影響を与えたことで知られるぐらい、原作のストーリーには深みがあり、まさに「宇宙神話」といった印象です。「スターウォーズ」第1作を作ったとき、ジョージ・ルーカスは2冊の本を参考にしたそうです。1冊は、一条真也の読書館『神話の力』で紹介したアメリカの神話学者ジョゼフ・キャンベルの神話論、もう1冊はフランク・ハーバードが書いたSF小説の金字塔デューン砂の惑星』です。


 「人間は神話と儀式を必要とする」というのがわが持論の1つですが、この映画では儀式も重要な役割を果たします。この物語の時代設定は西暦10190年ですが、正直、「いくらなんでも、未来すぎるだろう!」と思います。今から8170年も先ではないですか。そのわりには人間社会の構造はほとんど変わっておらず、帝国があって皇帝がいるとか、貴族としての2つの一族が抗争を繰り広げるなど、人類の過去の歴史を見るようでした。そこでは血統が重んじられ、結婚が重要視されます。そして、未来の世界には、さまざまな儀式も存在します。前作の映画の冒頭では、惑星アラキスをアトレイデス家が統治することになった記念として壮大な式典が開催されました。

儀式論』(弘文堂)



 結局、8170年先の未来でも人々は「礼」を重んじ、「儀式」を行っているのです。それは、社会を維持していくためには「礼」や「儀式」が必要なものであり、それは人間の本能によって支えられているということを示しているように思えました。西暦10190年という途方もない時代設定は、人類にとっての普遍を描くためだったのです。また、今回の「デューン 砂の惑星PART2」では、ティモシー・シャラメ演じるポールが、「獣ではなく人間である」ために行う儀式も登場しました。わたしは、拙著儀式論(弘文堂)で展開した「人間が人間であるために儀式はある!」という自説の裏付けを得た気分でした。

 前作に続いて、とにかく主役のポール・アトレイデスを演じたティモシー・シャラメが素晴らしいです。彼の出世作となった「君の名前で僕を呼んで」(2018年)は観ていないのですが、その美しさはハンパではありません。憂いを帯びた瞳が唯一無比であり、信じられないほどの豪華キャストの中で主演を張るだけの圧倒的なオーラがあります。また、この映画の映像美が圧倒的です。何よりも砂の惑星の砂漠が美しい! 砂漠に住む砂虫(サンドワーム)の造形も素晴らしい! ちなみに、この砂虫は宮崎駿の「風の谷のナウシカ」(1984年)の王蟲に影響を与えたとされています。

 シャラメ以外では、凶暴なフェイド=ラウサを演じたオースティン・バトラーの存在感が光っていました。一条真也の映画館「エルヴィス」で紹介した2022年の映画でエルヴィス・プレスリーを熱演した俳優ですね。その尖った容貌はまるでブレイキングダウンに出てくる喧嘩自慢のようでしたが、コロッセオのような円形でもなく、オクタゴンのような八角形でもなく、三角形の闘技場で死闘を演じる彼の姿はド迫力でした。また、最後に登場するポールとフェイド=ラウサの格闘シーンはMMA(総合格闘技)の要素も取り入れられていて嬉しくなりましたね。CGに頼らず、俳優たちが自身の肉体を駆使しており、最高にリアル!

 ポールは次第に民衆のカリスマとなっていきますが、ターバンで顔を隠して砂漠に立つその姿が、イスラム教の開祖であるムハンマドのようでした。しかし、ハビエル・バルデム演じるスティルガーはポールのことを救世主であると信じています。スティルガーをはじめとしたフレメンにとって、彼らを楽園に導く救世主とは「マフディー」と呼ばれますが、これは実在したイスラム教の預言者の名前です。また、外部からの声を聴く預言者として「リサーンアルガイブ」とも呼ばれますが、これにはイエス・キリストやモーセのイメージも入り込んでいるように思えました。そう、神話と儀式とくれば、次は聖人の出番です。拙著世界をつくった八大聖人(PHP新書)では、モーセやイエスやムハンマドについて書きましたが、これらの一神教の聖人たちの要素を一個の肉体に宿しているのがポールであると言えるでしょう。さらなる続編が楽しみです!20131002132659

世界をつくった八大聖人』(PHP新書)