No.944


 シネマライフ再開のわたしは、日本映画「ラストマイル」をシネプレックス小倉で観ました。ネットでも高評価のようですが、評判に違わず面白かったです。企業のリスク・マネジメントのヒントもありました。さらには、マネジメントそのものの本質についても考えさせられました。
 
 ヤフーの「解説」には、こう書かれています。
「ドラマ『アンナチュラル』『MIU404』などの演出を手掛けた塚原あゆ子監督と、脚本の野木亜紀子が再び組んだサスペンス。大手ショッピングサイトのセンター長とチームマネージャーが、協力して連続爆破事件の解決にあたる。『海辺の生と死』などの満島ひかり、『ゴールド・ボーイ』などの岡田将生らが出演している」
 
 ヤフーの「あらすじ」は、以下の通りです。
「ブラックフライデー前夜の11月、ビッグイベントにより流通業界が繁忙期を迎えようとする中、有名なショッピングサイトから配送された段ボールが爆発する事件が起きる。さらに事件は全国へと拡大し、日本中が混乱に陥る。巨大物流倉庫のセンター長に着任したばかりの舟渡エレナ(満島ひかり)は、チームマネージャーの梨本孔(岡田将生)と共に、未曽有の事態の収拾に追われる」
 
 ネタバレになるので、物語の核心には触れません。この映画、非常にサスペンスフルで面白いのですが、わたしはマネジメントの本質のようなものについて考えさせられました。物語で重要な役割を果たすショッピングサイトの本社は米国にあります。明らかにあの有名な会社をモデルにしているのですが、ここの米国本社は売上至上主義、効率至上主義で知られています。この会社の流通倉庫の労働環境は"THEブラック企業"として知られていますが、日本的な労務管理とは相性が悪いです。
 
「マネジメント」という考え方は、世界最高の経営学者であるピーター・ドラッカーが発明したものとされています。ドラッカーといえば、世界中の経営者にもっとも大きな影響力を持つ「経営通」ですが、彼が発明したマネジメントとは何でしょうか。ドラッカーの大著『マネジメント』によれば、まず、マネジメントとは、人に関わるものです。その機能は、人が共同して成果をあげることを可能とし、強みを発揮させ、弱みを無意味なものにすること。これが組織の目的です。また、マネジメントとは、ニーズと機会の変化に応じて、組織とそこに働く者を成長させるべきものです。組織はすべて学習と教育の機関です。あらゆる階層において、自己啓発と訓練と啓発の仕組みを確立しなければなりません。
 
 このように、マネジメントとは一般に誤解されているような単なる管理手法などではなく、徹底的に人間に関わってゆく人間臭い営みなのです。にもかかわらず、わが国のビジネス・シーンには、ありとあらゆるマネジメント手法がこれまで百花繚乱のごとく登場してきました。その多くは、ハーバード・ビジネス・スクールに代表されるアメリカ発のグローバルな手法です。もちろん、そういった手法には一定の効果はあるのですが、日本の組織では、いわゆるハーヴァード・システムやシステム・アナリシス式の人間管理は、なかなか根付かないのもまた事実です。情緒的部分が多分に残っているために、露骨に「おまえを管理しているぞ」ということを技術化されれば、される方には大きな抵抗があるのです。
孔子とドラッカー 新装版』(三五館)



 拙著『孔子とドラッカー 新装版』 (三五館)にも書きましたが、日本では、まだまだ「人生意気に感ずる」ビジネスマンが多いと言えるでしょう。仕事と同時に「あの人の下で仕事をしてみたい」と思うビジネスマンが多く存在するのです。そして、そう思わせるのは、やはり経営者や上司の人徳であり、人望であり、人間的魅力ではないでしょうか。会社にしろ、学校にしろ、病院にしろ、NPOにしろ、すべての組織とは、結局、人間の集まりに他なりません。人を動かすことこそ、経営の本質なのです。つまり、「経営通」になるためには、大いなる「人間通」にならなければならないのです。
 
 映画の話に戻りましょう。タイトルの「ラストマイル」とは何か? 直訳では「最後の1マイル」です。ここでは実際の距離を意味している訳ではなく、「お客様に荷物が到達するまでの物流の最後の接点」のことを指しています。元々通信業界で使用されていた言葉で、「最寄りの基地局からユーザーの建物までを結ぶ通信回路の最後の部分」のことを「ラストマイル」と呼んでいました。この考え方が物流業界にも広まり、今では「配送の最終拠点からお客様へ荷物を届けるまでの区間」の配達を行う宅配のことを示すようになったのです。
 
 ラストマイル事業は、通販サイトの普及に伴い年々需要が高まっています。場所を選ばず好きなタイミングで注文ができ、自宅まで届けてくれる手軽さから、買い物できる時間が限られている共働き世帯や、自力で買い物に行くことが困難な高齢者世帯にも重宝されています。しかし、深刻なドライバー不足で宅配業界は大きな岐路に立っています。「2024年問題」という言葉があるくらい、宅配業界に限らず、あらゆるドラーバー職が人材不足になっています。映画「ラストマイル」では、宅配業界の待遇問題などにも切り込んで、最後はスカッとしたソリューションを示してくれました。
 
 映画「ラストマイル」には、ブログ「アンナチュラル」 で紹介したドラマ、他にも「MIU404」など、塚原監督が演出を手掛けたドラマのキャストが登場し、ショート・エピソードを作っています。「MIU404」は観たことがありませんが、「アンナチュラル」は大好きな作品です。2018年1月12日から3月16日までTBS系の「金曜ドラマ」で放送されたテレビドラマです。
 
 ドラマ「アンナチュラル」の主演は石原さとみ。彼女が演じるのは、日本に170名ほどしか登録がない"法医解剖医"の三澄ミコトです。舞台となるのは、日本に新設された死因究明専門のスペシャリストが集まる「不自然死究明研究所(UDIラボ)」。そこに運び込まれるのは、「"不自然な死"(アンナチュラル・デス)」の怪しい死体ばかりです。ミコトはクセの強いメンバーたちと共に、連日UDIラボに運び込まれる死体に向かいメスを握るのでした。「ラストマイル」でミコトに再会できたのは嬉しかった!