No.945


 アイルランド・イギリス映画「憐れみの3章」をシネプレックス小倉で観ました。一条真也の映画館「哀れなるものたち」で紹介した傑作のメガホンを取ったヨルゴス・ランティモス監督の最新作で、同作で主演したエマ・ストーンが今作でも主演を務めています。3つの短編映画から構成されていますが、いずれも奇妙で妙味深い物語でした。
 
 ヤフーの「解説」には、こう書かれています。
「『女王陛下のお気に入り』『哀れなるものたち』に続きヨルゴス・ランティモス監督とエマ・ストーンが組んだドラマ。選択肢を奪われながらも自分の人生を取り戻そうとする男、海難事故から生還した妻を恐れる警察官、ある能力を備えた特別な人物を探す女を巡る三つのストーリーで構成される。共演には『パワー・オブ・ザ・ドッグ』などのジェシー・プレモンス、『哀れなるものたち』などのウィレム・デフォーとマーガレット・クアリーのほか、ホン・チャウ、ジョー・アルウィン、ママドゥ・アチェイ、ハンター・シェーファーらがそろう」
 
 ヤフーの「あらすじ」は、以下の通りです。
「上司・レイモンド(ウィレム・デフォー)の指示に従い、故意に衝突事故を起こしたロバート(ジェシー・プレモンス)。彼はこれまでレイモンドの指示通りに行動してきたが、再び衝突事故を強要されたため断ったところ、妻・サラ(ホン・チャウ)が失踪する。放心状態のロバートは、かつてサラと出会うきっかけとなったバーで自傷行為に及び、助けてくれたリタ(エマ・ストーン)にお礼をすべくディナーに誘うものの、彼女が交通事故に遭い入院してしまう。ロバートがリタの病室を訪れると、そこにはなぜかレイモンドとヴィヴィアン(マーガレット・クアリー)がいた(『R.M.F.の死』)」
 
 原題は「KINNS OF KINDNESS」というのですが、「憐れみの3章」という邦題は、ランティモス監督の前作「哀れなるものたち」を連想させます。この作品も日本公開されたのが今年だという事実には驚きますが、スコットランドの作家アラスター・グレイによる小説を映画化したものです。若い女性ベラ(エマ・ストーン)は自ら命を絶ちますが、天才外科医ゴッドウィン・バクスター(ウィレム・デフォー)によって胎児の脳を移植され、奇跡的に生き返ります。『世界を自分の目で見たい』という思いに突き動かされた彼女は、放蕩者の弁護士ダンカン(マーク・ラファロ)に誘われて大陸横断の旅に出ます。大人の体でありながら、新生児の目線で物事を見つめるベラは、貪欲に多くのことを学んでいく中で平等や自由を知り、時代の偏見から解放され成長していくのでした。
 
「哀れなるものたち」と「憐れみの3章」の2作は邦題は似ていますが、内容はまったく違います。でも、エマ・ストーンが謎めいた女性を演じる奇想天外な映画という共通点はありますが。3章構成ですが、第1章は「THE DEATH OF R.M.F」(R.M.Fの死)、第2章は「R.M.F IS FLYING」(R.M.Fは飛ぶ)、第3章は「R.M.F EATS A SNDWITCH」(R.M.Fはサンドイッチを食べる)となっています。それぞれ、自分の人生を取り戻そうと格闘する、選択肢を奪われた男の物語。海難事故で失踪した妻が、帰還後別人になっていた夫の物語。卓越した宗教指導者になるべく運命付けられた特別な人物を懸命に探す女の物語です。いずれも、世にも奇妙な物語でした。
 
 R.M.Fとは何か? この映画の解説動画などによれば、Redenption(救済)、Manipulation(操り)、Faith(信条)の意味ではないかという見方があるようです。確かに、宗教的な要素が強い映画であると言えます。第3章などは、まさにカルト宗教を描いていますし。じっくり観れば、そこかしこに「天使」や「悪魔」などの宗教的メタファーが溢れているような気がします。しかし、物語の奥底に込められたメッセージよりも、わたしは「え、どうしたの?」「何これ?」「次は、どうなるの?」といったハラハラドキドキの展開に魅了されました。そのハラハラドキドキの映画には、エロもグロもあります。いろんな意味で、見世物小屋のような映画というのが正直な感想です。
 
「哀れなるものたち」がアカデミー4冠に輝いたことで、一躍、映画界の寵児となったランティモス監督ですが、この「憐れみの3章」では、3つの奇想天外な物語によって、映画の可能性を更に押し広げました。映像も美しく、ダークかつスタイリッシュでユーモラスな未だかつてない映像体験を堪能しました。 一条真也の映画館「ラ・ラ・ランド」で紹介した2016年のミュージカル映画でアカデミー主演女優賞を受賞したエマ・ストーンは、2024年に「哀れなるものたち」で2度目のオスカーに輝きました。そして、今回の「憐れみの3章」での熱演(怪演?)でハリウッドを代表するトップ女優に登りつめた印象があります。そう、まさに"エマ・ストーン無双"といった感じですね。