No.948


 日本映画「スオミの話をしよう」をシネプレックス小倉で鑑賞。ネットでの評価がやたらに低かったので嫌な予感はしたのですが、本当につまらなかったです。三谷幸喜が監督と脚本を務めていますが、才能ある彼が何故ここまでの超駄作を生み出したのか、まったく理解に苦しみます。
 
 ヤフーの「解説」には、こう書かれています。
「『記憶にございません!』などの三谷幸喜が監督と脚本を務めたミステリーコメディー。行方不明になった詩人の妻スオミの過去を知る男たちが集まり、誰が彼女に最も愛されていたのかを議論する。『コンフィデンスマンJP』シリーズなどの長澤まさみ、『ドライブ・マイ・カー』などの西島秀俊、『あの頃。』などの松坂桃李のほか、遠藤憲一、小林隆、坂東彌十郎らが出演する」
 
 ヤフーの「あらすじ」は、以下の通りです。
「著名な詩人・寒川しずお(坂東彌十郎)の妻・スオミ(長澤まさみ)が行方不明になる。大事にしたくないと寒川が捜査を拒否する中、スオミの最初の夫で庭師の魚山大吉(遠藤憲一)、2番目の夫でYouTuberの十勝左衛門(松坂桃李)、3番目の夫で警察官の宇賀神守(小林隆)、4番目の夫で警察官の草野圭吾(西島秀俊)が寒川邸にやってくる。彼らは、スオミの安否そっちのけで誰が一番スオミに愛されていたのかを語り合う。だが、それぞれが語るスオミは、性格も見た目もバラバラだった」
 
 映画がつまらないので、せめて主演女優である長澤まさみの美しさを堪能したいと思いました。でも、この映画の彼女はあまり魅力的ではないのです。「コンフィデンスマンJP」シリーズのダー子や、「キングダム」シリーズの楊端和のような輝きがありません。それでも、彼女をめぐって多くの男たちが翻弄されます。男たちは、元夫や現在の夫にジェラシーを抱き、自分が一番スオミのことを知っているというマウントを取るべく、さまざまな思い出話を披露します。スオミに対する男たちの所有欲やマウント合戦はまことに滑稽で、「男ってバカだね!」と思わせます。
 
 スオミは1人の男を愛し抜かず、多くの夫を持ちました。しかし、わたしはあまり違和感をおぼえませんでした。というのも、「スオミとは、水商売の女性のメタファーである」ということに気づいたのです。高級クラブでも、キャバクラでも、ホステス嬢たちは多くの客を持っています。そして、それぞれの客の好みに合わせながら多彩な顔を使い分けて、客にステディ感を抱かせます。結婚して籍を入れるかそうかの違いだけで、スオミの生き方はホステス嬢のそれに似ていると思いました。銀座をはじめとした夜の街には、スオミがたくさんいます。
 
「スオミの話をしよう」は、主人公のスオミが不在のまま、彼女と関係のあった男たちがスオミについて語り合う映画です。三谷幸喜が脚本を書いた「竜馬の妻とその夫と愛人」という2003年の映画がありますが、この作品が「スオミの話をしよう」の原型ではないかという説があるようです。坂本竜馬死後の明治時代を舞台としたラブ・コメディで、物語の構造そのものは「スオミの話をしよう」に似ています。「竜馬とその夫と愛人」も、主人公の竜馬不在のまま、彼と関係のあった男女が竜馬について語り合う映画だからです。
 
 時は明治13年。維新の功労者、坂本竜馬の十三回忌に出席させるため、新政府の役人でかつての竜馬の部下・覚兵衛(中野貴一)は竜馬の妻であったおりょう(鈴木京香)を尋ねます。おりょうは甲斐性のない情けない男・松兵衛(木梨憲武)の妻となっていたのですが、腰が落ち着かず、竜馬に似た愛人の虎蔵(江口洋介)と駆け落ちを企てていました。男と女の愛のすれ違いを、絶妙なシュチュエーションに乗せて描いた脚本が秀逸でしたが、約20年後に三谷幸喜が書いた脚本は駄作でした。「スオミの話をしよう」は、「竜馬の話をしよう」にはなれませんでした。最後に、「スオミの話をしよう」が「ヘルシンキ国際映画祭」の特別招待上映作品と聞いて、「なんだよ、それ!」と白けてしまったのは、わたしだけではありますまい。