No.966


 東京に来ています。11月12日、出版関係の打ち合わせをした後、ヒューマントラストシネマ有楽町で日本・ウズベキスタン映画「草原の英雄ジャロロフ~東京への道~」を観ました。来年1月17日公開予定の「君の忘れ方」のプロデューサーである志賀司さんと益田祐美子さんが手がけられた映画ということで鑑賞した次第です。志賀さんの長女であるアナスタシアちゃんの着物姿が可愛かった!
 
 テアトルシネマグループのHPには、「ボクシングという名の夢に、祖国の希望を乗せた――。神秘的で美しい国ウズベキスタンから届いた、祖国のためにボクシングに全てを賭けた青年の半生を描く《感動の実話》。2021年8月8日、両国国技館で行われた東京オリンピック2020ボクシングスーパーヘビー級決勝戦で、アメリカのリチャード・トーレスを打ち破り、金メダルを獲得したウズベキスタンの国民的英雄バホディル・ジャロロフ選手の挑戦と闘いを描いた、実話を元にした本作は、日本×ウズベキスタン合作映画にして、ウズベキスタン制作作品としては史上初の日本での劇場公開となる」という解説があります。
 
 また、テアトルシネマグループHPの「ストーリー」には、「ウズベキスタンの美しい農村出身の青年ジャロロフは、家族のために天性の恵まれた体格を生かしボクシングのスーパーヘビー級の道を選ぶことでのしあがっていく。だが活躍を期待されたリオデジャネイロオリンピックで惨敗し、代表の座を追放されてしまう。やがてジャロロフは、父の教えを胸に再起を図り快進撃を遂げるが、次第に周囲では嫉妬や陰謀が渦巻きだす。ついには、国家の希望を背負った東京オリンピックで、対戦国から妨害工作をされてしまう...。貧しい農村で育った青年の運命と過酷な再起を描いた、実話を元にした感動作」とあります。
 
 バホディル・ジャロロフは、1994年、ウズベキスタンのスルハンダリヤ州サリアシア出身です。東京オリンピックおよびパリオリンピックのボクシング競技スーパーヘビー級金メダリストですので、「世界最強の男」の最有力候補です。そんな彼にも苦難の時代がありました。2015年10月、カタールで開催されたAIBA世界ボクシング選手権にスーパーヘビー級(91kg超)で出場し、準決勝でイワン・ディチコ(英語版)に1-2の判定で敗れ銅メダルに終わりました。また、2016年、リオデジャネイロオリンピックにスーパーヘビー級で出場するも、準々決勝でジョー・ジョイスに0-3の判定で敗れました。そこから世界の頂点にまで這い上がる姿は感動的です。
 
 ただ、この映画、とても違和感をおぼえるシーンがありました。ハイライトの舞台が2021年の東京五輪なのですが、五輪スタッフも観客も誰もマスクをしていないのです。周知のように、コロナ禍の最中に開催された東京五輪は観客はみんなマスクをしていました。それなのに、映画の中の東京五輪はまったくコロナとは無縁なのです。本物の記録映像が流れるシーンがあるのですが、そこでは観客はおろか選手までみんなマスクをしていました。言いにくいのですが、こういうリアリティ無視はいかがなものでしょうか? わたしは、すごく気になってしまいました。
 
 あと、わたしと同い年の俳優・加藤雅也が後半で登場するのですが、真剣を振り回す武道の達人という役でした。彼のもとを、ウズベキスタンの勝利を妨害する謎の集団が訪れます。この謎の集団、明らかにヤクザなのですが、加藤雅也とのやりとりが「キル・ビル」みたいでした。ウズベキスタン出身のボクサーの成功物語だけでは地味なのでエンタメ要素を加味したように思われますが、あまりにも唐突な印象でした。ここはボクシング映画に特化し、余計なエンタメは不要だったと思います。
 
 むしろ、もっとボクシングシーンが観たかったです。あと、ジャロロフと彼の家族との交流を観たかったです。彼の父親はジャロロフをボクシングへの道へと導くのですが、とても厳しい人で試合に敗れると息子に辛く当たります。父の悲願でもあったジャロロフが五輪金メダリストになる直前、瀕死の病人だった父親は安心して息を引き取ります。このあたり、わたしの父が亡くなるときを思い出して悲しくなりました。ついにジャロロフが東京五輪の金メダリストになるラストシーンは消化不良でした。名古屋での舞台挨拶で益田プロデューサーが言われたように、この映画、「東京への道」というより「完成への道」の途上にあるのかもしれませんね。