No.990
 

 ネットフリックス・オリジナルのアメリカ映画「ワッツ・インサイド」を観ました。一条真也の映画館「セキュリティ・チェック」で紹介したネットフリックス映画がすごく面白かったので、正月休みに他の作品も観たいと思ったのです。「ネトフリおススメ映画」で検索すると、この作品の評価が高く、しかもホラーだというので鑑賞。最初は「チープだな」と思いましたが、設定はなかなかユニークでしたね。
 
 ヤフーの「解説」には、こう書かれています。
「[Netflix作品]心の奥に潜む真実や欲望、恨みなどを噴出させる謎のゲームによって、人々が悪夢へと引きずりこまれる様子を描いたサスペンス。結婚式の前夜に集まった男女が、ある1人が持ち込んだゲームによって暴かれる真実の数々に翻弄される。出演はドラマシリーズ『STAR 夢の代償』などのブリタニー・オグレイディやドラマシリーズ『フィアー・ザ・ウォーキング・デッド』などのアリシア・デブナム=ケアリーなど。監督をグレッグ・ジャーディンが務める」
 
 ヤフーの「あらすじ」は、以下の通りです。
「結婚式の前に行われるパーティーに、疎遠になっていた友人が現れる。彼は謎の装置の入ったスーツケースを持ってきていた。取り出されたゲームは人が心に隠す真実や欲望、恨みを露わにし、彼らを混乱に陥れ、パーティーはやがて悪夢のような様相を呈し始める」
 
 仲間うちで独身さよならパーティーを開いていたところに、疎遠になっていた1人の友人が現れます。彼が持ってきた奇妙なゲームは、長年彼らが埋もれていた秘密、欲望、恨みを呼び覚まし、やがてパーティーはそれぞれの存在そのものを揺るがす悪夢と化していくのでした。ネタバレにならないギリギリの範囲で書くと、そのゲームは人間の人格を入れ替える装置を使ったものでした。誰が誰に入れ替わったのか......最初は、推理して正体を突き止めようとしましたが、あまりにも複雑すぎて次第に訳がわからなくなってきます。
 
 人間の人格が入れ替わる話といえば、1982年の日本映画「転校生」がまず思い浮かびます。山中恒のジュブナイル『おれがあいつであいつがおれで』の映像化作品です。一字違いの幼なじみ・斉藤一夫(尾美としのり)と一美(小林聡美)は、石段から転げ落ちたことで、人格が入れ替わってしまいます。二人はそのことを秘密にしつつ、なんとか元に戻ろうと努力するという物語でした。"映像の魔術師"と呼ばれた大林宣彦の故郷でもある尾道を舞台に、シチュエーション・コメディの要素を含みつつノスタルジックな青春ドラマに仕上げています。ちなみに、わたしは、主人公2人が入れ替わるきっかけになった尾道の石段で転び、足首を骨折したことがあります。
 
「転校生」に続いて、1999年の日本映画「秘密」も思い浮かびます。東野圭吾の同名小説を広末涼子主演で描いた、ミステリータッチの甘く切ないラブ・ストーリーです。「おくりびと」(2008年)の滝田洋二郎がメガホンを取りました。愛する妻と娘に囲まれ満ち足りた生活を送る杉田平介(小林薫)。だがある日、妻・直子(岸本加代子)と娘・藻奈美(広末涼子)が乗ったスキーバスが崖から転落します。2人は病院に運ばれますが、まもなく妻は息を引き取ります。娘のほうは、なんとか一命を取りとめたものの、意識が戻った彼女は自分は妻の直子だと告白します。やがて平介もそれを信じ、直子は人前では17歳の藻奈美として振舞い、二度目の青春を謳歌します。
 
「ワッツ・インサイド」で行われたゲームは世にも奇妙なものでしたが、一応はパーティーゲームとして行われました。それは、ヨーロッパ発祥のパーティーゲームである「人狼ゲーム」を連想させました。日本でもテレビ番組やインターネットなどで人気に火が付いた「人狼ゲーム」を題材にしたシチュエーションサスペンスが熊坂出監督による日本映画「人狼ゲーム」(2013年)です。高校2年生の仁科愛梨(桜庭ななみ)は、帰り道で突然何者かに拉致され、気が付くと10人の男女が円形に横たわっていました。一同は不可解な状況に戸惑うが、村人と村人に化けた人狼に分かれ相手チームを全滅させる「人狼ゲーム」に強制的に参加させられることに。彼らはなぜここに集められたのか理由もわからぬまま、生死を懸けたゲームに巻き込まれていくのでした。
 
 しかし、「ワッツ・インサイド」で行われた奇妙なゲームは「人狼ゲーム」以上に、一条真也の映画館「TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー」で紹介した2023年のホラー映画に登場する降霊会を連想させました。オーストラリア出身のYouTuber、ダニー&マイケル・フィリッポウ兄弟が監督を務めました。母を亡くした女子高生・ミア(ソフィー・ワイルド)は友人たちに誘われ、SNSで流行している降霊術「♯90秒憑依チャレンジ」に参加します。呪物の「手」を握り、「トーク・トゥ・ミー」と唱えると霊が取り憑くというもので、その「手」は90秒以内に離さなくてはならないという。挑戦した若者たちはそのスリルや快感にはまり、ゲーム感覚で繰り返しますが、ミアの友人の1人にミアの母親の霊が降りてくるのでした。
 
 というこことで、本題の「ワッツ・インサイド」の話題に戻りますが、他人に入れ変わった後、とんでもないことが起こり、彼らは慌てて元の身体に戻ろうとしますが、中には「いや、戻るより新しい身体がいい。これで新しい人生をやり直したい」と言う者が出てきます。自分よりも容姿や経済力などが勝っている他人と入れ替わったまま生きたいというのです。でも、そういう人間には破滅が待っています。よく「女子高生のなりたい顔」ランキングとかいって、北川景子とか橋本環奈などの名前が挙がっていますが、他人と入れ替わりたいという願望はきわめて不健康で危険ですね。大人の男性でも、松本人志や中居正広といった芸能界での成功者と「人気も権力もカネもある彼らと入れ替わりたい」と思った人がいるかもしれませんが、そこに落とし穴があるのはもうおわかりですね。
 
 あと、「ワッツ・インサイド」には、他人と入れ替わったとたん、それを利用してエッチをしようとする者も登場します。ところが、そんな連中には真っ先に死が待っているのでした。「13日の金曜日」シリーズなどのホラー映画でも、最初にエッチするカップルは必ず殺されるというのは「ホラー映画の法則」となっています。そもそも性欲が強いことは冷静な判断力を失わせ、警戒心を失わせます。性欲が強いと子どもは作れますが、自身の生命の維持という視点からはリスキーなのです。性加害問題で窮地に立たされ、引退間近とされている松本人志や中居正広について、ひろゆきが「性欲の強いヤツは死ぬ時代」と喝破していましたが、それはコンプライアンス重視の現代社会以上にホラー映画における真理かもしれませんね。