No.1028
桃の節句の3月3日、ブログ「第97回アカデミー賞」で紹介したように映画界にとって重要な日でしたが、冠婚葬祭文化振興財団の打ち合わせをした後、韓国映画「プロジェクト・サイレンス」を角川シネマ有楽町で観ました。
ヤフーの「解説」には、「第76回カンヌ国際映画祭で上映されたパニックスリラー。玉突き事故が起き有毒ガスがまん延する橋の上に取り残された116人の生存者に、軍事実験体が襲いかかる。メガホンを取るのは『グッバイ・シングル』などのキム・テゴン。『パラサイト 半地下の家族』などのイ・ソンギュン、『ジェントルマン』などのチュ・ジフン、『偽りの隣人 ある諜報員の告白』などのキム・ヒウォンらが出演する」と書かれています。
ヤフーの「あらすじ」は、以下の通りです。
「留学に向かう娘を送るため濃霧に包まれる空港大橋を渡っていた国家安保室の行政官ジョンウォン(イ・ソンギュン)は、玉突き事故に巻き込まれる。横転したタンカーから有毒ガスが漏れ、通信障害が発生し、救助のヘリコプターが墜落するなど、副次的な事故が発生し、周囲を海に囲まれた橋の上にジョンウォンら116人の生存者が取り残される。橋からの脱出を試みるジョンウォンたちに、移送中に逃げ出した軍事実験体"エコー"が襲いかかる」
映画館ではいつも最後列の席に座るのですが、この日は、前から5列目に座りました。すると、本作のようなパニックスリラーにはバッチグ―(表現が古いか笑)で、テーマパークのアトラクションのような臨場感を楽しめました。IMAXとか4DXとかでなくても、パニック映画やアクション映画は前方の席の方が楽しめるかもしれませんね。360度を海に囲まれた空港大橋で、国家安保室の行政官ジョンウォンは、留学に旅立つ娘を空港へ送る途中、濃霧の橋上で激しい玉突き事故に巻き込まれてしまいますが、本当にド迫力でした。
タンカーの横転で有毒ガスが蔓延し、電波の喪失で通信障害が発生、さらには救助のヘリコプターさえ墜落してしまいます。爆発で崩壊の危機にさらされた橋の上に取り残された生存者は116人。そして、全方位逃げ場のない絶望的状況の中、移送中の軍事実験体<エコー>の脱走が判明する。一寸先も見えぬ霧闇の中、生存者全員が、いまや制御不能となった<エコー>の標的となっていました。地獄絵図と化した橋で、"最悪"の連鎖が人々を襲います。これ以上はネタバレになるので控えますが、ハラハラドキドキの連続でした。エンターテインメントとして傑作です。
本作のタイトルにもなっている「プロジェクト・サイレンス」とは韓国の国家機密計画ですが、そこには大統領選挙に出馬する政治家の野心が関わっていました。韓国といえば、歴代大統領が次々に罪に問われる異常な国です。今年の1月15日、ユン・ソンニョル大統領が「非常戒厳」の宣布によって、現職大統領として韓国史上初めて逮捕されました。彼はソウル拘置所の独房に収容されましたが、8年前、韓国の財閥から、巨額な賄賂を受け取ったとして逮捕されたパク・クネ元大統領も同じような独房に収容されたとみられています。さかのぼると、その前任のイ・ミョンバク氏も収賄罪。さらにその前任のノ・ムヒョン氏も、不正資金疑惑で捜査を受けている最中に自ら命を絶つなど、まさにスリラー映画のような展開になっています。
韓国の大統領は、なぜ多くがこうした末路をたどるのか。そこには、大統領の強すぎる立場が指摘されています。韓国大統領は、首相を任命できるほか、法案の拒否権から軍の最高指揮権まで、様々な権限を持ち、任期は5年の長きに及ぶ「帝王的大統領」とも呼ばれます。このため、家族や側近も権勢を振るいやすく、不祥事が起きやすいとされます。一方で政権交代を狙う反対勢力からは、批判の的になりやすく、保守派と革新派が、長年にわたり激しい政争を繰り返してきたのです。映画「プロジェクト・サイレンス」は、韓国政界の異常さも見事に表現していました。
「プロジェクト・サイレンス」は濃霧が立ち込める中で起こる物語ですが、わたしは2008年のアメリカ映画「ミスト」を連想しました。「ショーシャンクの空に」(1994年)、「グリーンマイル」(1999年)のコンビ、原作スティーヴン・キングと監督フランク・ダラボンが描くパニック・ミステリーです。霧の中に潜む謎の生物に恐怖し、常軌を逸していく人々の姿を描きます。ガラス窓を破るほどの嵐の翌日、スーパーへ買い出しに出掛けたデヴィッド(トーマス・ジェーン)。軍人やパトカーが慌ただしく街を往来し、あっという間に店の外は濃い霧に覆われました。設備点検のために外に出た店員のジム(ウィリアム・サドラー)が不気味な物体に襲われると、店内の人々は次第に理性を失いはじめるのでした。
「ミスト」では、思わず目を疑うような、驚がくのエンディングが用意されていました。一方の「プロジェクト・サイレンス」はどうか? ネタバレをしないように書くと、「ミスト」はカタルシス・ゼロの前代未聞のストレスフル映画でしたが、「プロジェクト・サイレンス」の最後にはそれまでのストレスを吹っ飛ばすカタルシスがありました。やはり、こういうパニック映画のラストは精神衛生に良い結末が嬉しいですね。あと、濃霧の中で想像を絶する出来事が起こりますが、これを映画の中の絵空事と捉えるのではなく、「いつでも現実に起こりうること」と考えながら観ると、不測の状況の中でも生き延びるサバイバルの学びが多々あると思いました。