No.1029
3月4日の朝、出版打ち合わせと財団の社会貢献基金助成審査会の間の時間を使って、アメリカ・ジョージア合作映画「TATAMI」をヒューマントラストシネマ有楽町で観ました。非常にインパクトのある社会派ヒューマンドラマの傑作でした。
ヤフーの「解説」には、こう書かれています。
「柔道の国際試合で起きた実話をベースに、イラン代表の柔道選手と監督が自国の政府に受けた圧力やそれによる葛藤を描いたヒューマンドラマ。イスラエル代表選手との対戦を控えた主人公が、政府から棄権を強要される。監督を務めるのは『聖地には蜘蛛が巣を張る』などに出演したイラン人俳優のザール・アミールと『SKIN/スキン』などのイスラエル人監督ガイ・ナティーヴ。ドラマシリーズ『Lの世界 ジェネレーションQ』などのアリアンヌ・マンディやジェイミー・レイ・ニューマンなどが出演する」
ヤフーの「あらすじ」は、以下の通りです。
「世界柔道選手権に出場したイラン代表の女子選手レイラ・ホセイニ(アリアンヌ・マンディ)は順調に勝ち進み、決勝で旧知の仲でもあるイスラエル代表のシャニ・ラヴィ(リル・カッツ)と対戦する可能性が高まる。3回戦が始まる直前、監督のマルヤム・ガンバリ(ザール・アミール)にイランの柔道協会から連絡が入り、マルヤムはレイラを棄権させるように命じられる」
わたしは小学生のときから柔道をやっており、高校時代に二段を取得しています。一条真也というペンネームも、梶原一騎原作の「柔道一直線」の主人公・一条直也から取りました。まず、この映画は柔道映画として優れています。世界一を目指して勝ち上がっていくレイラ選手の激闘ぶりはまことにエキサイティングでした。一方、イスラエルの選手と試合をする前に棄権するように指示するイランの柔道協会には怒りを感じます。もっとも、柔道協会に指示を与えたのはイランの最高指導者だったわけですが。こういう事実を知ると、イランのような無法者国家に五輪や世界選手権に参加する資格はないと思いました。
イランの柔道協会から「レイラ選手を棄権させるように」との指令を受けたガンバリ監督は、最初は相手にしませんが、自身の老母の身に棄権が迫っていることを知り、レイラを説得しようとします。じつは、ガンバリには選手時代に柔道協会の指令に従って棄権した苦い過去がありました。しかし、勝ち続けてイラン初の柔道世界一になることだけを考えるレイラは、棄権するなど微塵も考えません。レイラの家族にも危険が迫りますが、それでも彼女はひたすら金メダル獲得だけを目指すのでした。
話は変わりますが、ブログ「第97回アカデミー賞」で紹介したように、今年のオスカーレースは、一条真也の映画館「ANORA アノーラ」で紹介した6部門ノミネート作品が作品賞や監督賞をはじめ席巻しました。じつは13部門ノミネートのフランス映画「エミリア・ペレス」が賞レースの大本命だったのですが、主演俳優のSNSでの炎上によってレースの先頭から転げ落ち、二番手候補だった「ANORA アノーラ」が棚ぼた式に5冠を手にするという結果になったのです。非常に後味の悪い出来事でありました。
「JIJI.COM」より
第97回米アカデミー賞の主演女優賞候補で、スペイン出身の俳優カルラ・ソフィア・ガスコンが過去に行った差別的発言が露見し、批判を浴びました。出生時の性別と性自認が異なるトランスジェンダー女性として初めて同部門にノミネートされたが、自身で快挙に水を差した形となりました。ガスコンは「エミリア・ペレス」に主演。同作は今回最多の13ノミネートを果たし、性別適合手術を受け女性になるメキシコの麻薬カルテルのボス役ガスコンさんの演技も評価されました。多くのメディアがガスコンのノミネートを「歴史をつくった」と報じました。ただ、その後、ガスコン自身がX(旧ツイッター)上で攻撃的な発言を繰り返していたことが明らかになったのです。
「VOGUE JAPAN」より
ガスコンはイスラム教徒について「治療が必要な憎悪の根源」と主張。米中西部ミネソタ州で2020年、警官に首を圧迫され死亡した黒人男性ジョージ・フロイド氏を「麻薬中毒者の詐欺師」とも表現しました。アカデミー賞の多様性批判も展開しました。ガスコンは批判を受けXアカウントを削除し、再三にわたり陳謝しました。トランプ大統領が「性別は男女のみ」と宣言する中、アカデミー会員はガスコンを候補に選び、多様性を擁護する姿勢を示しました。象徴的な存在となった当人ですが、結局は炎上騒動が災いして、ガスコンの主演女優賞をはじめ、「エミリア・ベレス」は作品賞や監督賞を逃がしたのです。「TATAMI」は政治がスポーツに介入すした実話に基づいた物語ですが、スポーツにしろ映画にしろ政治的事情が絡むのは不健全の極みです。もちろん差別的言動は許されませんが、基本的にスポーツは試合内容でのみ、映画は作品内容でのみ評価されるべきであると思います。
「TATAMI」という映画で描かれた物語は非常に不愉快な内容でしたが、この日のヒューマントラストシネマ有楽町ではリアルに不愉快な出来事がありました。わたしは同劇場の2番シアターの最後列左端の席だったのですが、最後列中央に座った高齢男性が映画の開始間(予告編上映中)から爆睡し、大イビキをかき続けたのです。それは「TATAMI」の上映が終了するまで続きました。つまり、この老人は映画をまったく観ずに、ひたすら大イビキをかいて他の観客の鑑賞妨害をしたのです。一度、近くの高齢女性が注意しましたが、それでも起きませんでした。わたしは席が離れていたものの、劇場スタッフに対応を依頼しようとか思いましたが、映画そのものが面白かったので席を立つことができませんでした。しかし、あの大音量のイビキ、もしかしたら何かの病気が発症したのかもしれません。映画「TATAMI」の内容と同じく、人生はいつも想定外の出来事の連続ですね。