No.1031
3月14日開催の「第48回日本アカデミー賞授賞式」に、わたしが参加することになりました。当日は、会場のグランドプリンスホテル新高輪の国際館パミールで楽しんできます! 8日、アメリカ映画「フライト・リスク」をシネプレックス小倉で観ました。ネットでの評価はそれほど高くないですが、とても面白かったです!
ヤフーの「解説」には、「俳優業だけでなく『ハクソー・リッジ』などで監督としても活動するメル・ギブソンがメガホンを取ったアクションサスペンス。裁判での証言を控えた重要参考人を移送する航空機を舞台に、上空1万フィートの機内で繰り広げられる攻防を描く。『トランスフォーマー』シリーズなどのマーク・ウォールバーグが主演を務め、共演には『ダウントン・アビー』シリーズなどのミシェル・ドッカリー、『ブラック・クランズマン』などのトファー・グレイスらが名を連ねる」とあります。
ヤフーの「あらすじ」は、「ある事件の重要参考人・ウィンストン(トファー・グレイス)を裁判で証言させるため、アラスカからニューヨークまで移送する機密任務を受けたハリス保安官補(ミシェル・ドッカリー)。二人が搭乗する航空機にパイロットのダリル(マーク・ウォールバーグ)も乗り込み、離陸した機体は上空1万フィートまで上昇。フライトは順調に進むかに思われた。ところが、後部座席につながれたウィンストンが足元に落ちていたパイロットライセンス証に目を留めると、その顔写真は飛行機を操縦しているダリルとは全く別人のものだった」です。
ネタバレになるので、ストーリーには触れませんが、出演者をほぼ3人に絞ったエア・パニック作品で、ずばり低予算です。監督のメル・ギブソンはこれまで巨額の予算を使った超大作も作ってきましたが、こういった作品も作れるのはセンスがあるなと思いました。しかも上映時間が90分ジャストというのがいいです。アカデミー賞ノミネート作品を含め、最近の映画はどれも長過ぎて疲れます。ブログ「ウィキッド ふたりの魔女」で紹介した昨日観た映画も二部作の前編のくせに161分もありました。「フライト・リスク」は短いながらもハラハラドキドキ、やっと物語が終わったと思ったら、さらにもう一波乱あったり、まったく飽きませんでしたね。
「フライト・プラン」を観て、わたしは2冊の本の内容を連想しました。1冊は、サン=テグジュペリの『夜間飛行』です。サン=テグジュペリといえば、童話の世界的名作『星の王子さま』で知られますが、彼は飛行機乗りでした。第二次大戦末期、ナチス戦闘機に撃墜され、地中海上空に散りましたが、彼の代表作である『夜間飛行』は、郵便飛行業がまだ危険視されていた草創期に、事業の死活を賭けた夜間飛行に従事する人々の、人間の尊厳を確証する高邁な勇気にみちた行動を描いています。「フライト・プラン」でミシェル・ドッカリー演じる保安官補のハリルが絶望的な状況で飛行機を操縦するさまを見ていると、『夜間飛行』の主人公を思い出したのです。もっとも「フライト・プラン」の飛行は夜間ではなく昼間でしたが、それでも最後は夜を迎えてしまいます。飛行機が「生」と「死」の間を漂う乗り物であることがよくわかります。
連想したもう1冊は、ブロニー・ウェアの『死ぬ瞬間の5つの後悔』です。死を覚悟したときに多くの人に共通する「後悔」について書かれた本で、数多くの患者を看取った女性介護人が老若男女の「最期」の言葉を振り返った内容です。そこには、「自分に正直な人生を生きればよかった」「働きすぎなければよかった」「思い切って自分の気持ちを伝えればよかった」「友人と連絡を取り続ければよかった」「幸せを諦めなければよかった」という5つの後悔を死ぬ前にするということが書かれていました。「フライト・プラン」の中で死を覚悟したトファー・グレイス演じるウィンストンは、「楽をして金を稼ごうとせずに、ちゃんと大学を卒業してまともな仕事に就けばよかった」と後悔するのですが、そのシーンを見て、わたしは『死ぬ瞬間の5つの後悔』の内容を連想したのです。
「フライト・プラン」は低予算映画でしたが、メル・ギブソン監督はちょうど30年前の1995年に巨額の予算を費やした超大作「ブレイブハート」を作っています。ギブソン自身が監督・製作・主演を務め、スコットランド独立のために戦った実在の英雄ウィリアム・ウォレスの生涯を描いた歴史スペクタクルです。13世紀末のスコットランド。残虐非道なイングランド王エドワード1世の侵略により家族を殺された少年ウィリアム・ウォレスは、故郷から遠く離れた叔父のもとで暮らすことに。やがて成人し故郷に戻ったウォレスは、幼なじみのミューロンと恋に落ち結婚しますが、彼女はウォレスの目の前でイングランド兵に殺されてしまいます。復讐を誓ったウォレスは、圧政に苦しむ人々とともに自由と解放を求めて立ち上がるのでした。第68回アカデミー賞で作品賞・監督賞など5部門を受賞しています。映画史上に燦然と輝く大傑作ですね。
メル・ギブソンがアカデミー監督賞にノミネートされた2016年のアメリカ・オーストラリア映画「ハクソー・リッジ」も、実在を英雄を描いた感動作でした。第2次世界大戦中、デズモンド(アンドリュー・ガーフィールド)は、人を殺してはいけないという信念を持ち、軍隊に入ってもその意思を変えようとしませんでした。彼は、人の命を奪うことを禁ずる宗教の教えを守ろうとしますが、、最終的に軍法会議にかけられます。その後、妻(テリーサ・パーマー)と父(ヒューゴ・ウィーヴィング)の尽力により、デズモンドは武器の携行なしに戦場に向かうことを許可されるのでした。自身の信念に基づき、勇気ある行動をとった兵士の物語が胸を打ちます。この「ハクソー・リッジ」以来、久々にギブソンがメガホンを取った作品が「フライト・リスク」なのです。
インタビュー映像で、ギブソンは「フライト・リスク」の監督を引き受けた理由について「脚本を読んでみると、展開が速く、最後まで結末が読めませんでした。笑いを誘い、恐ろしさがあり、不条理な作品でした。さらに奇妙な要素が混ざり合っていて、とても魅力的だと思ったんです」と経緯を明かします。また、機内という限定された空間と広大な眺望が対極的なシチュエーションの中で物語が進行していく構成は、「飛行機に乗ればいつでも窮屈さに息苦しくなるものです。その他にも多くの人が感じるであろう、飛行恐怖症、高所恐怖症、落下恐怖症、墜落恐怖症といった恐怖心を利用しようと考えました」と語ります。
また、ギブソンは「とても限られたスペースで不測の事態が起こりますが、それがアラスカ山脈の上空だということが魅力なんです。見事に壮観な景色であると同時に威圧的でもあり、恐怖を感じますよね。飛行機の中ですが、開放感があり、景色も素晴らしい。領域が広いということが、この物語で一番気に入っている点です」と本作の魅力を語り、「楽しさと恐怖を同時に味わえると思います。私が感じたものを観客の皆さんとも共有したいです」と観客へメッセージを送っています。主演のウォールバーグとギブソンは過去に「パパVS新しいパパ2」(2017年)、「ファーザー・スチュー/闘い続けた男」(2022年)で共演しており、撮影中にプロジェクトのアイデアを話し合っていたという。監督、俳優としては初顔合わせでしたが、ウォールバーグはギブソンから本作の脚本が届いて「すぐに返事をした」と語っています。この名コンビの次回作に期待したいです!