No.1073
東京に来ています。銀座で出版の打ち合わせをした後、アメリカ映画「サスカッチ・サンセット」をヒューマントラストシネマ有楽町で観ました。人間の言語としてのセリフが皆無のじつに奇妙な映画で、カルトムービーか、あるいはカルトムービーの出来損ないか、評価が分かれる作品だと思います。わたしも、傑作か駄作かよくわかりません。
ヤフーの「解説」には、こう書かれています。
「北米の雄大な自然を背景に、サスカッチ(未確認動物)の暮らしを描く異色作。どこかにいると信じる仲間を追い求め、サスカッチの家族が広大な森をあてもなく旅する。『リアル・ペイン~心の旅~』などで監督としても活動するジェシー・アイゼンバーグが主演を務め、『アンダー・ザ・シルバーレイク』などのライリー・キーオらが共演。『ミッドサマー』などのアリ・アスターが製作総指揮に名を連ね、『トレジャーハンター・クミコ』などのデヴィッド、ネイサン・ゼルナー兄弟がメガホンを取った」
ヤフーの「あらすじ」は、以下の通りです。
「北米の森に暮らす4頭のサスカッチ(未確認生物)。アルファオス(ネイサン・ゼルナー)が率いる群れには、つがいのメス(ライリー・キーオ)とその間に生まれたジュニア(クリストフ・ザヤック=デネク)、もう一頭のオス(ジェシー・アイゼンバーグ)がいる。彼らは寝床を用意したり、食料を探したりといった日々の営みを繰り返しながら、どこかにいるはずの仲間を探して旅を続けていた。自然界の脅威や目まぐるしく変化する世界に直面しながらも、彼らは過酷な環境を必死に生き抜こうとする」
「サスカッチ」とはアメリカ先住民の間に伝わるUMA(未確認動物)のことで、「人に似た動物」という意味です。現在では「ビッグフッド」と呼ばれることが多いです。身長は約2メートル、体重は200キロから350キロ。二足歩行し、歩幅は1メートルから1.5メートル。足跡は大きなもので約47セント。筋骨隆々で、全身に褐色または灰色の毛が密生しています。 顔には毛が生えておらず、鼻が低く、目が落ち窪んでいます。強烈な体臭を放つとされています。「猿人やギガントピテクスの生き残り」などの説が挙げられているが、実在についてはアマチュア・学界問わず、長年の論争があります。
アメリカでは広範囲にわたってビッグフットの足跡が報告されており、その石膏型は膨大な数に上っています。学会での高名なビッグフット実在論者には、アイダホ州立大学の解剖学・人類学准教授のジェフリー・メルドラムがいます。メルドラムはビッグフットについて、「私は科学的な証拠によって、この未確認生物が実在していることを確信しています」と述べています。否定派の意見としては「北アメリカに生息するハイイログマの誤認」や「狂言」ではないかとの見解が多数を占めているようです。猿人説にしても、北アメリカに猿人が渡ってきた化石証拠はなく、説としては論拠が乏しいとされます。
サスカッチは、これまでに北米で多数目撃されています。1924年、ワシントン州のエイプ・キャニオンで石炭坑夫がサスカッチに遭遇し、背中に銃弾を撃ち込んで射殺。その夜、坑夫の小屋にサスカッチの一団が襲いかかり、小屋の傍にあった丸太を掴んでドアや屋根を壊そうとしました。1940年、身長2.4メートルもある雄のサスカッチがネバダ州の牧場を襲撃し、牧場にいた農夫の妻は子供とともに逃げました。1958年、カリフォルニア州でトラック運転手が泥の中にある大きな足跡を見つけ、石膏で型をとり、その様子を写真に撮りました。この写真が新聞で掲載されると、アメリカ各地でサスカッチに関する目撃情報が爆発的に増え、1960年代に入ると1年で100件もの情報が寄せられました。
サスカッチを一躍世界的に有名にしたのが、「パターソン・ギムリン・フィルム」です。1967年10月20日、元カウボーイのロジャー・パターソンと友人のロバート・ギムリンの2人がカリフォルニア州・ブラフ・クリークでサスカッチの探索中に山中で雌のサスカッチに遭遇し、「歩きながら、カメラに向かって振り向くビッグフット(パティと名付けられた)」の姿をカラーの8mmフィルムで撮影したのです。しかし、この映像については後に、長身の男性が着ぐるみ衣装でビッグフットを演じたと「告白」しました。しかし、この告白は本人により嘘だったと後に証言されており(ハイズビル事件のフォックス姉妹を連想します)、本物の獣人で映像の体つきから胸部分が乳房の様に見えることからメスであると語っています。遺族が「生前に捏造と聞かされていた」と公表した一方で、撮影者はそれを否定しており、映像の真偽については論争が続いています。
このパターソン・ギムリン・フィルムは、フェイクだとしたら、あまりにも精巧にできています。しかも、撮影されたのが1967年ということに注目しなければなりません。というのも、猿人の着ぐるみを使ってSF映画史に燦然と輝く金字塔となった名作「猿の惑星」が製作されたのが、パターソン・ギムリン・フィルムより後の1968年だからです。「猿の惑星」では、未知の惑星に不時着した宇宙飛行士たちは、そこでは猿が人間を支配している事を知ります。主人公テイラー(チャールトン・ヘストン)はコーネリアスとジーラというチンパンジーの協力者を得て逃亡を計りますが、最後には衝撃の事実が彼を待って慰安した。設定のユニークさや、ショッキングなラスト・シーンが受けて大ヒットし、以後シリーズ化されました。
「猿の惑星」の猿人たちはリアルなメイクで評判になりましたが、本作「サスカッチ・サンセット」に登場する類人猿(?)のメイクもリアルでした。兄弟で監督を務めたデヴィッド・ゼルナーとネイサン・ゼルナーは、未確認生命体が大好きだそうですが、中でもサスカッチが一番のお気に入りだとか。「サスカッチは人類と自然界をつなぐパイプ役であり、人間と動物の行動の間にあるグレーゾーンを象徴していると思うからです」とその理由を語ります。パターソン・ギムリン・フィルムについての議論にも触れながら、ゼルナー兄弟は「私たちは、現代と歴史上のビッグフット/サスカッチの伝承されてきた話、霊長類の行動や動物の行動一般からヒントを得ました。彼らの世界にできるだけ自然主義的な感覚を吹き込み、感情的なレベルで親近感を抱かせる実在の生き物として納得してもらえるようにすることが重要でした」と回想しています。
「サスカッチ・サンセット」では、サスカッチのビジュアルにもこだわり、キャストの目以外はすべてを覆う特殊メイクが使用されました。撮影前に動き方などの猛特訓を行ったそうで、ゼルナー兄弟は「台本にはセリフはありませんでしたが、サスカッチの身体性やドラマチック/コメディ的な拍子など、非常に細かく設定していました。リハーサルの過程では、キャストはムーブメントコーチと協力して、個々のキャラクターの特徴をさらに明確にし、サスカッチという種全体の身体性や発声に関しても、より一般的なパラメーターを設定したのです」と述べ、「制作の過程で、キャラクターがどのように自分を表現し、情報を伝えるかという点で、サイレント映画の監督と非常に似ていることに気付きました」と振り返っています。
「サスカッチ・サンセット」では、サスカッチの家族の心の交流に胸を打たれるシーンが多くあります。彼らは哀愁を漂わせながら、生き物として必死に自然界で生きていますが、特に家族が死亡したときに、しっかりと埋葬をするシーンには感動しました。当然ながら、ネアンデルタール人を連想しました。ネアンデルタール人は洞窟内で埋葬を行っており、一部の遺体は膝を胸に引き寄せた胎児の姿勢で埋葬されていました。また、副葬品として、有蹄類の角や動物の顎骨、加工された石灰石、カメの甲羅や燧石で作られた工芸品を一緒に埋葬していました。ネアンデルタール人は、赤ちゃんが埋葬された痕跡も残しています。
じつは、サスカッチはネアンデルタール人の生き残りではないかという説があるのです。サスカッチの同類と見られるUMAに、ヒマラヤの雪男「イエティ」がいます。1950年代以降、ロシアきっての"雪男通"として知られた歴史学者のボリス・ポルシュネフ博士は、当時の「ソ連科学アカデミー」内に公式に設置された"雪男特別調査委員会"を率いて、積極的にデータの収集にあたり、2000件を超える目撃事件や関連事件の記録が集められました。博士によれば、それらの記録の中には、住民が"雪男を捕えた"という驚くべき事件が10件以上もありました。
ポルシュネフ博士が集めた事例は、いずれもロシア領内と、ロシアと国境を接する中国の山岳地帯で起きています。博士がこれらの証人たちに、チンパンジーとゴリラと化石人類(ネアンデルタール人)の復元図を見せたところ、3人とも躊躇せずにネアンデルタール人を指さしたそうです。博士はこうしたデータに基づいて、雪男の存在を説明する大胆な仮説として、雪男=ネアンデルタール人説を立てました。博士の仮説によれば、ネアンデルタール人は今から数万年前に2種類に分化し、一方は脳と神経系が発達してわれわれ現生人類の祖先となり、もう一方は肉体は強大になったものの、知能は退化してしまったといいます。そして、イエティと呼ばれる雪男は、後者の種類の遠い末裔である可能性が大きいというのです。
世界各地には巨人伝説が存在しますが、それもネアンデルタール人の生き残りが正体ではないかとの説があります。一条真也の読書館『前田日明vs.山口敏太郎 最強タッグ!!』で紹介したオカルト対談の中で、元プロレスラーの前田氏は、アメリカの偵察部隊が1990年代にアフガニスタンで、洞窟に住む赤毛の巨人と遭遇し、銃撃戦になったというエピソードを披露しています。すると、山口氏が「アフガニスタンだけではなくて、南方には巨人族がいる島があるらしいですよ。日本陸軍が交戦したらしいです。一個中隊がほぼ全滅させられて撤退したという記録があるとか」と言います。それを受けて、前田氏は「日本の古い8ミリ映像でも似たようなシーンがありますよ。沿道に人が大勢いて日の丸の旗を振っているんですけれど、その前を行列が通って、中に1人、どう見てもこれ3メートル以上あるなという巨人が歩いている映像があるんですよ」と語るのでした。もう、ビックリです!
サスカッチのような獣人型UMAが日本にもいます。そうです、ヒバゴンです。1970年に広島県北部の庄原市西城町の比婆山で目撃されたとされる、謎の類人猿です。全身が毛で覆われ、逆三角形の顔が特徴とされています。過去には29件の目撃情報があり、地元では親しまれる存在となっています。それが最初の発見から50年以上を経て、現在、謎の類人猿ヒバゴンの目撃談が相次いでいます。発端は、昨年の夏、庄原市西城町に住む71歳の農業男性が黒くて大きな獣を目撃したという報告でした。その後も、住民から「大型の獣を見た」との情報が町観光協会に寄せられているそうです。協会では目撃地点のカメラを設置したそうですが、今後の展開が気になりますね。
ネッシーやモケーレ・ムベンベやクッシーなどの恐竜の生き残りを連想させるUMAもいいですが、サスカッチやイエティやヒバゴンといった獣人型のUMAも限りないロマンを与えてくれます。映画「サスカッチ・サンセット」には、そんなUMA愛が溢れていますが、UMA研究家の中沢健氏も「最高のUMA映画!!」だと絶賛しています。山の中にまで人間が入ってきてサスカッチの親子が逃げ続ける姿には、環境破壊で山を追われるクマを連想しました。そして、「サスカッチ・サンセット」には衝撃のラストが待っています。このサプライズというか、風刺の効きまくったラストシーンは「猿の惑星」以来とも言えるでしょう。とにかく奇妙で、後を引く不思議な映画でした。