No.1098
7月14日、ブログ「一条真也シートin小倉昭和館」で紹介したように、わたしの名前入りシートを確認に小倉昭和館を訪れました。せっかくなので、自分のシートに座って朝一番で上映された日本のドキュメンタリー映画「ライフ・イズ・クライミング!」を観ました。ものすごく感動し、何度もハンカチを濡らしました。
ヤフーの「解説」には、「視力を失ったクライマー、小林幸一郎さんとその相棒の挑戦を追ったドキュメンタリー。サイト(視覚)ガイドの鈴木直也さんとのコンビで数々の偉業を成し遂げてきた小林さんが、アメリカ・ユタ州にある砂岩フィッシャー・タワーズの頂を目指す。絶景でのクライミングシーンに加え、小林さんの人生を変えた恩人でもある全盲のクライマー、エリック・ヴァイエンマイヤーさんや旧友との再会などが映し出される。監督は、ドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』での取材を通じて小林さんと親交を深めてきた中原想吉」とあります。
ヤフーの「あらすじ」は、以下の通りです。
「視覚障害のあるクライマーのコバこと小林幸一郎さんは、サイト(資格)ガイドのナオヤこと鈴木直也さんの声を頼りに岩を登っていく。2001年に出会った彼らはパラクライミング世界選手権で4連覇を果たすなど、二人でさまざまな壁に挑んできた。世界的パンデミックを経た2021年、二人はアメリカ・ユタ州にある砂岩フィッシャー・タワーズの頂に立つことを目指し、冒険の旅に出る」
いや、この映画、本当に魂が震えるほど感動しました。遺伝性の網膜の障害で全盲になった小林幸一郎さんのグリーフをケアしたのは、小林さん自身の前向きに生きる力でした。そして、彼の目となってサポートする鈴木直也さんの姿を見て、涙が止まりませんでした。これは単に視覚障害者の映画ではなく、あらゆる人々に思い当たるところがある作品だと思います。思えば、わたしも道に迷ったり、方向性を見失ったときは父や‟魂の義兄"である鎌田東二先生が心あるアドバイスをしてくれました。その二人はすでにこの世にはいませんが、「父なら、どう考えるだろうか?」とか「鎌田先生が存命なら、どう言われるだろうか?」と自問することが、わたしの行き先を照らしてくれます。そして、それは父や鎌田先生の魂に語りかけることでもあるのです。わたしは、死者とともに生きています。
『孔子とドラッカー 新装版』(三五館)
「ライフ・イズ・クライミング!」という映画を観て、わたしは教育やマネジメントについて考えました。相手を信頼しきること。全力で相手のサポートをすること。ネガティブな言葉を使わず、「絶対、大丈夫!」「絶対、行ける!」とポジティブな言葉で励ますこと。この映画で小林さんと鈴木さんが示してくれたすべての言葉、すべての行動が、わたしの心に光を与えてくれました。マネジメントといえば、拙著『孔子とドラッカー 新装版』(三五館)でマネジメントの本質について書きましたが、わたしが社長に就任して右も左もわからずに暗中模索していたとき、『論語』やドラッカーの一連の著作が経営者としてのわたしを助けてくれたことを思い出しました。あのときの孔子やドラッカーは、時代や場所を超えて、まさに鈴木直也さんのような的確なアドバイスでわたしを助けてくれました。読書とは、暗闇の中で光を探すことなのです。
小林さんの偉業には心から敬意を表します。大谷翔平や井上尚弥も凄いですが、小林幸一郎も凄い! 同じ日本人として誇りに思います。いや、日本人というより同じ人間として誇りに思いますね。彼の生き方は、この映画の主題歌タイトル「Amazing」と同じく、まさにアメージング! 誰もがさまざまな悩みを抱えていますが、この映画を観れば、心がケアされ、救われます。何より素晴らしいのは、小林さんが底抜けに明るいこと。映画の中で、小林さんがまだ目が見えていた頃の思い出を語る部分があるのですが、医師から「近い将来、失明します」と言われ、だんだん目が見えなくなることは心に多大なダメージを与えたそうです。そのくだりには、思わず涙が出ました。その苦しみ、悲しみを乗り越えて、前人未踏の道を歩む小林さんは真の強さを持った偉大な人だと思います。
映画「ライフ・イズ・クライミング!」の冒頭には、「目で見るのではなく、心で見ることが大切なのだ」というヘレン・ケラーの言葉が紹介されます。見えない、聞こえない、話せない――「三重苦」を背負っているにもかかわらず全世界をまたにかけて活躍したヘレン・ケラーの姿は、世界中の障害者たちに大きな希望を与えました。ヘレン・ケラーといえば、彼女の家庭教師だったアニー・サリヴァンとの関係が「奇跡の人」(1962年)として映画や舞台になっています。わたしは当初、〝奇跡の人〟とはヘレン・ケラー本人のことだと思っていましたが、家庭教師のサリヴァン先生のことだったと知りました。自分をコントロールできない幼いヘレン・ケラーに対し、時に厳しく、時に優しく接する姿は、多くの感動を与えてくれます。
ヘレン・ケラーと同じく、小林幸一郎さんも多くの障害者の方々、いや健常者を含めたすべての人々に希望を与えています。そして、小林さんが偉業を超えた数々の奇跡を成し遂げる陰には、鈴木直也さんという〝奇跡の人〟が存在していることを忘れてはなりません。わたしは「ケアとは何か」ということを日々考えていますが、サリヴァン先生や鈴木さんにはケアの真髄を見る思いがします。そして、他人事ではなく、わたしたちもケアすべき相手がいることを忘れてはなりません。それは会社の部下であったり、子どもであったりするかもしれません。わたしたちの周りには、光を求めて暗闇の中で藻掻いている者が必ずいます。その人を見つけて、その人に寄り添って、その人をケアすること。最も大事なことを教えてくれる「ライフ・イズ・クライミング!」は、大いなるケア映画の名作です。みなさんも機会があれば、ぜひ御覧下さい!