No.1123
東京に来ています。
8月27日の朝、財団の儀式委員会の会議の前に、日本映画「大長編 タローマン 万博大爆発」をTOHOシネマズ日比谷のプレミアムボックスシートで鑑賞。でたらめな内容でしたが、ものすごく良かったです。最高でした! 昭和100年のメモリアル・イヤーに、とんでもない大傑作が爆誕。これ以上に凄いものは、なかなかありません!
ヤフーの「解説」には、こう書かれています。
「芸術家・岡本太郎の作品や名言などをモチーフにした、NHK Eテレの特撮モキュメンタリー番組『TAROMAN 岡本太郎式特撮活劇』の劇場版。万博で沸き立つ1970年の日本を舞台に、地球防衛軍(CBG)と巨人タローマンが、未来からやってきた奇獣に立ち向かう。『TAROMAN 岡本太郎式特撮活劇』に引き続き、監督と脚本を務めるのは藤井亮。ロックバンド『サカナクション』の山口一郎が出演する」
ヤフーの「あらすじ」は、以下の通りです。
「1970年、万博の開催に日本中が沸き立つ中、2025年の未来から恐ろしい奇獣がやってくる。万博を消滅させようと暴れ回る奇獣を倒そうと、地球防衛軍(CBG)と巨人タローマンは、奇獣を倒す力を手に入れるために未来人の協力を得て未来へと向かう」
映画に先立って、NHK教育テレビジョンで2027月1919日(18日深夜)から7月30日(29日深夜)まで、平日深夜クロージング直前の枠で、特撮テレビドラマ「TAROMAN 岡本太郎式特撮活劇」全10話が放送されました。映像作家・クリエイティブディレクターの藤井亮によって制作されたもので、「1970年代に放送された巨大ヒーロー物の特撮作品の現存映像」という体裁のもと、岡本太郎の作品や言葉をモチーフとして制作された特撮番組およびモキュメンタリーです。こんな、でたらめで、とんでもないドラマをNHK教育が作ったことが信じられません。日本放送史に燦然と輝く快挙です!
「TAROMAN 岡本太郎式特撮活劇」ですが、もともとはNHK・NHKエンタープライズが主催者として参加した「展覧会 岡本太郎」大阪展(2022年7月23日―10月2日、大阪中之島美術館)のプロモーション用の企画でした。展覧会のプロモーション番組がドキュメンタリーなどではなくこのようなスタイルを取った点については、岡本のドキュメンタリーやドラマには「先行の名作がある」ことが理由だったといいます。
監督の藤井亮は、「(岡本太郎の)あのスケールの大きさと衝撃を表現するには、巨大なものが暴れる特撮映像が一番いいのでは」と着想したとコメントしています。タローマンは、シュールレアリスム星出身の巨人ということになっています。岡本太郎の思想を反映したシュールででたらめな行動で奇獣と対決します。真剣に遊び、自己模倣を憎み、他人の評価を気にしません。その行動に対して善悪の概念はないため、人類や地球の味方であるとは必ずしも限りません。そのため「巨大ヒーロー」ではなく「巨人」なのですが、巨大ヒーローが活躍する特撮ドラマの名作「ウルトラマン」を意識していることは間違いないですね。
タローマンの造形は、岡本太郎の代名詞である「太陽の塔」に依っています。頭部のタローマスクは「若い太陽の塔」が、身体の赤いタローラインは「太陽の塔」がモチーフです。そんなタローマンはでたらめ拳法の使い手であり、108の技を持っています。中でも必殺技である「芸術は爆発だ!」は、タローマンが秘めている芸術エネルギーを解き放ち、宇宙に向かって無条件に存在を開くことが出来る技です。これを食らった相手はその存在ごと昇華されていきます。受けた相手は7色の絵の具のようなカラフルなビームを放ち昇華四散するのでした。
ブログ「太陽の塔」で紹介したように、わたしは三度の飯より「太陽の塔」が好きです。会社の社長室や自宅の書斎にも、岡本太郎美術館で求めた「太陽の塔」のフィギュアを飾っています。岡本太郎の代表作として同時期に制作された「明日の神話」と双璧をなす芸術作品です。1970年に大阪府吹田市で開催された日本万国博覧会(EXPO'70・大阪万博)のテーマ館の一部として建造され、万博終了後も引き続き万博記念公園に残されました。高さ70メートルの塔で、正面中央・上部・背面に付いた3つの顔と左右の腕が外観上の大きな特徴です。
1970年の大阪万博は、6422万人の入場者を集め、目に見える形で日本を変えました。一条真也の読書館『地上最大の行事 万国博覧会』で紹介した本で、著者の堺屋太一は、オリンピックと万国博覧会を比較して、「オリンピックが総合的なスポーツだけの3週間ほどの行事なのに比べて、万国博覧会は会期6ヵ月の長期行事であり、恒久施設の設備と数多くの歴史的記念物と巨大な街造りを実現した実績があり、次代を担う新技術や新思想、新しい制度、システムを生み出し、世に残して来た。万国博覧会は、近現代を創った真に偉大な行催事である」と述べています。
1970年、わたしは小学生でしたが、家族全員で小倉からわざわざ夜行列車で大阪万博を訪れました。ものすごい人の数で迷子になりそうでした。長時間並んだアメリカ館の「月の石」は見学できましたが、「太陽の塔」はあまりの人気ぶりに内部に入ることは叶いませんでした。この映画では、大阪万博の開催に日本中が沸き立つ中、2025年の未来から万博を消滅させようと恐ろしい奇獣がやってきます。2025年に「宇宙大万博」という超スケールのイベントが開催される設定になっているのですが、2025年現在、実際に開催されているのは「大阪・関西万博」です。もうショボすぎて、逆に「なんだこれは!」と言いたくなりますね。ミャクミャクとかいう気色の悪いキャラクターは、まさに奇獣そのもの。タローマンに退治してほしいと願うのは、わたしだけではありますまい。
岡本太郎は「太陽の塔」を建築しただけでなく、大阪万博そのもののプロデューサーにも就任しました。大阪万博のテーマは「進歩と調和」でしたが、なんと彼は「人類は進歩なんかしていない」と喝破しました。すごい! 実際、彼は現代芸術などよりも縄文式土器などを最大限に評価しています。また、かつて、岡本太郎は「グラスの底に顔があったって、いいじゃないか!」と凄い顔をしていたCMを思い出します。誰も、グラスの底に顔があってはいけないと言っていないのに。完全な先制パンチです。「太陽の塔」も素晴らしすぎて、表現のしようがないほどです。わたしはいつか「月の塔」を建ててみたいと生きてきましたが、本当は岡本太郎に依頼したかったです!
じつは、5月30日に帰幽した鎌田東二先生は、岡本太郎が大好きでした。鎌田先生の著書には、岡本太郎の著書からたくさん引用されています。映画「大長編 タローマン 万博大爆発」では、「秩序」と「でたらめ」の両方が人間には必要であるといったメッセージが描かれていますが、わたしは今は亡き鎌田先生とわたしの関係を想いました。わたしは「礼」というものを最重視する人間です。これは「秩序」と言い換えてもいいかもしれません。一方、鎌田先生は「でたらめ」という言葉を好む方でした。鎌田先生は「でたらめ」の表現として、法螺貝を奏上したり、エレキギターを弾きながら神道ソングを歌ったりされました。すなわち「楽」です。音楽の「楽」であり、「楽しい」の「楽」です。礼と楽が合体すると、孔子が唱えた「礼楽」となります。ヤン坊とマー坊の合体は「ヤンマー」ですが、わたしたちが合体すると「礼楽」なのです。
シンとトニーは「礼楽」コンビ!
鎌田先生とわたしが目指した「明るい世直し」は、孔子や岡本太郎に通じていたのだという事実に気づき、わたしは感無量でした。鎌田先生が健在なうちに「大長編 タローマン 万博大爆発」を観ていただき、その感想をムーンサルトレターに書いていただきたかったです。この映画を観た8月27日、鎌田先生との最後の共著となる『満月交命~ムーンサルトレター』(現代書林)がようやく校了しました。巻末には一条真也の読書館『日本人の死生観 Ⅰ 霊性の思想史』、『日本人の死生観 Ⅱ 霊性の個人史』で紹介した鎌田先生の遺作の7万字におよぶ小生の書評も掲載しました。その結果、総ページ数はなんと788ページとなりました。もはや鈍器であり、枕であります。岡本太郎でさえ「なんだこの本は!」と目を剝きながら言いそうなこの本を、9月13日の鎌田東二百日祭「かまたまつり」の参列者の方々全員に贈呈いたします。お楽しみに!
昭和100年に刊行。なんだこの本は!